同じよ

 守歌がいきなり、床にぱっと這いつくばったのでぎょっとした。「何してるの?」と問う前に、彼女はやおら身を起こした。両手を、なにかを包むように合わせている。その手を慎重に開けて、嬉しそうに中身を覗いていた。

「……何してるの?」

 僕がたずねると、守歌はにこにこと、手を差し出した。僕が覗き込むと、指の隙間を広げて、手の中が見えるようにしてくれた。

 その中には蜘蛛がいた。蜘蛛は針金のような手足を、ついと動かしていた。

「猫かよ」僕は呆れて溜息をついた。

「蜘蛛よ」守歌が言った。

「蜘蛛なんか捕まえてどうするんだ」

「じゃあ何故あなたは本を読むのよ」

「面白いからだよ」

「同じよ」

 守歌は、蜘蛛が逃げないように気をつけながら、手の中の蜘蛛を眺めていた。汚いからやめろよ、と言っても彼女はきかなかった。

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