第122話十年三月三十一日、別微子於灃上(2)

莫問龍鍾りょうしょう惡官職 且聽清脆せいぜい好文篇

(微之別来有新詩数百篇 艶絶可愛)

別來只是成詩癖 老去何曾更酒顛しゅてん 各限王程須去住 重開離宴貴留連 

黃牛渡こうぎゅうと北移征棹せいとう 白狗崖東卷別筵べつえん

(黄牛、白狗、皆峡中地名、卽與微子遇別之所也)

神女台雲閑繚繞りょうじょう 使君灘水急潺湲せんかん 風淒暝色愁楊柳 月吊宵聲しょうせい杜鵑とけん

萬丈ばんじょう赤幢せきとう潭底たんてい日 一條白練峽中天 君還秦地辭炎徼えんきょう 我向忠州入瘴煙しょうえん

未死會應相見在 又知何地複何年


みじめな官職にあった時のことは聞かないで欲しい。

今は、清澄にして美しい作品に、耳を傾けようではないか。

(微之は、別れて以来、数百首の詩を作っていた。その至上の素晴らしさには魅了される)

別れてからは、一途に詩作に没頭した。

歳を重ね、酒癖の悪さが増したかもしれない。

互いに旅程というものがあるので、それに縛られ去らなければならない。

もう一度、送別の席を設けて、ずっとここに居座りたいと思う。

黃牛渡こうぎゅうとの北に、旅船を移動し、白狗崖の東で宴席を畳む。

(黄牛、白狗は、両方とも峡中の地名。微之と出会い別れた場所)

神女台の雲が、のんびりと連なっているけれど、使君灘の水は忙しさをせきたてる。

夕暮れ時になり、楊柳は風に吹かれて憂いを増す。

夜になれば、月も心を傷めるのだろうか、ホトトギスも慟哭のような鳴き声をあげる。

赤い旗が一万丈の長さにもなる。

それは水底にそそぐ、日の光。

細い白絹が一条、それは峡谷に挟まれた空。

君は炎熱の僻地を離れ、都の近くに戻る。

私は忠州に向かい、瘴煙しょうえん渦巻く中に入っていく。

再び会う機会は、お互いに生きていれば、必ずあるに違いない。

それは、どこの地であるのか。

また、いつの時なのだろうか。


※莫問:聞かないで欲しいとの意味。問うことなか

龍鍾りょうしょう:失意の様子。

※艶絶:素晴らしく美しい。

酒顛しゅてん:酒癖が悪いこと。

※王程:転勤等、公務の旅程。定められた日程通りでの移動を義務付けられていた。

※貴留連:「貴」は「欲する」、「留連」は居続ける。

黃牛渡こうぎゅうと:三峡の地名。

征棹せいとう:旅を行く船。「棹」は船を意味している。

※白狗崖:三峡の地名。

※卷別筵べつえん:別れの宴席を終わりにする。

※神女台:巫山(四川省巫山県)の神女峰。

繚繞りょうじょう:まとわりつく。

※使君灘:長江の早瀬の名。

※万丈:日光が垂直に水底にまで差し込む様子を表現している。

※秦地:長安地域。

炎徼えんきょう:酷熱の辺境地域。元稹の前任地の通州。

瘴煙しょうえん:南方の地独特の毒気や霧。


○元和十四年(819)、江州から忠州に向かう途上、峡州で元稹と偶然出会った時の作。

○互いに公務の旅程故、別れなければならないけれど、何度も夢にまで出てきた元稹との出会い、どれほど驚き、うれしかっただろうか。

抑制して書いてあるけれど、うれしさが言葉の端々から感じ取れる。

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