第76話琵琶引(1)

  潯陽江じんようこう頭夜送客  楓葉荻花秋索索  

  主人下馬客在船  擧酒欲飲無管絃  

  醉不成歡慘將別  別時茫茫江浸月  

  忽聞水上琵琶聲  主人忘歸客不發  

  尋聲暗問彈者誰  琵琶聲停欲語遲  

  移船相近邀相見  添酒囘燈重開宴  

  千呼萬喚始出來  猶抱琵琶半遮面



潯陽江のほとりで、夜に客人を見送る。

紅葉の楓と白い荻が秋の風情を漂わせている。

主人は馬からおりて、客人と舟に入った。

しかし、酒を酌み交わそうとしても、管弦の調べがない。

酒の酔いは身体にまわる。

しかし、心の喜びはない。

少しずつ、別れの時が、近づいているからだ。

それでも、ついに別れの時となった。

見渡す限り広がる江水には、月の光がさしこんでいる。

突然、水辺から琵琶の音が聞こえてきた。

主人は、その音色に聞き惚れてしまった。

すでに家に帰る気などはない。

客人も同じこと、出発を伸ばすことにした。

琵琶の音の出どころを知りたく、「どなたが琴を弾かれておられるのか」とそっと尋ねると、琵琶の音は聞こえなくなった。

そうなると、声をかけるのも、難しい。

舟を動かして、琵琶の音が聞こえた方向に近づいた。

どうしても、琵琶を弾いていた人を招き入れて、お会いしたいと思った。

酒も追加して、灯りをまた照らして、宴会を開きなおすことにした。

数え切れないほどの誘いをかけて、その琵琶を弾いていた人は、ようやく姿を見せた。

しかし、まだ琵琶を抱えたまま、顔は半分以上隠している。




 ○船着き場で琵琶の音を聞き、琵琶を弾いていた人を探し当てるまでを訳しました。長詩なので、回数を重ねます。


潯陽江じんようこう:長江が九江付近を流れる部分の名

※秋索策:秋の少し物寂しい風情


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