第35話新楽府其七 上陽白髮人(1)
愍怨曠也
天寶五載已後 楊貴妃專寵 後宮人無復進幸矣
六宮有美色者 輒潛退之別所 上陽人是其一也
貞元中 尚存焉
上陽人
紅顔暗老白髮新 緑衣監使守宮門
一閉上陽多少春 玄宗末歳初選入
入時十六今六十 同時採擇百餘人
零落年深殘此身 憶昔呑悲別親族
扶入車中不敎哭 皆云入内必承恩
臉似芙蓉胸似玉 未容君王得見面
已被楊妃遙側目 妬令潛配上陽宮
一生遂向空床宿
御寵愛を賜らない悲哀を憐れむ。
天宝五年以後、楊貴妃が天子の御寵愛を独占した時より、後宮においては他に誰も夜伽をする人はいなくなった。
美女を集めた六宮の中でも、さらに美人と讃えられる美しい人は別の場所に移された。
上陽宮は、その中の一つにあたり、貞元年間においても、まだ残っていた。
上陽宮のその人は かつての紅顔はその色もあせ 新しく見えるのはその白髪のみ
緑衣の監視が宮門を常に見張り 上陽宮に閉じ込められたまま どれほどの年月が過ぎ去ったことでしょうか。
玄宗の天子の御代の末に選び出され 宮中にお仕えはじめた時は 十六の歳の時
それが今では六十の歳となりました。
同じ時に百人もの娘が選ばれましたが 皆 うらぶれて長い年月を過ごし そのままま残るだけの我が身です。
思い出すのは、寂しさと哀しさを我慢して 愛しい家族に別れを告げ 身体を支えられ車に乗せられ その車の中では泣くことも許されなかったこと。
親からも周囲の人々から言われたことは 宮廷に入れば天子より御寵愛を受けられるということ。
私の顔も若く花のように輝き 胸も玉のように美しく膨らんでいた頃でした。
天子へのお目通りもかなわない時に 遠くから かの楊貴妃に睨まれてしまいました。
楊貴妃に妬まれたまま ひそかにこの上陽宮に移され幽閉となり 一生を人気のないこの部屋で独り過ごしてきたのです。
※上陽:洛陽の宮城の西南隅にあった宮殿名。玄宗の開元・天宝年間には、長安には大内・大明・興慶の三宮殿、洛陽の大内、上陽の二宮殿には宮女が四万人、黄衣(官位が上となる女官)以上の者が三千人、朱紫(さらに位が高い女官)が千人あまり在したと言われている。
※
※天寶五載:楊貴妃が皇后の下の貴妃に選ばれたのは、天寶四載(745)。
※六宮:天子の後宮。
※貞元中:785年~804年。
※呑悲:悲しみを表に出さずに、こらえる
※側目:横目でみる、嫉妬や憎しみの目でみる。
※空房:一人部屋で話し相手もいない。
○長恨歌は玄宗と楊貴妃の悲恋を情感込めて歌い上げるのに対して、上陽白髪人はその犠牲となり宮殿に幽閉されたまま一生を送る宮女の寂しさ、悲哀を歌う。
それにしても、四万人を数えた宮女の人数の多さは、我が日本と比しても比較にならないスケールだと思う。
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