第43話 シゲル・カワイのピアノ 2
プログラムの休憩中、H先生と親友Nは約30年ぶりの再会で盛り上がっていました。
親友Nは、私の中学時代の同級生Yを見て
「あ~! Y先生!」
中学時代の同級生Yは
「Mちゃんのお母さん!」
「バーバラ、Y先生は娘のピアノの先生なのよ。」
ということが判明して世間は狭いね、と盛り上がりました。
まさか、親友Nの子どもが中学時代の同級生Yにピアノを習っていたとは。びっくりでした。
そして、コンサートが終わると短大講師だったH先生と中学時代の同級生Yと親友N、3人は再びお喋りに盛り上がっていました。
それで、みんなに聞こえるように私はわざわざ大きな声でモーツァルトを弾くことを親友Nに告げ舞台へ。
全国決勝大会で弾く曲は昨年と同じく、
モーツァルト作曲
デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲。
モーツァルトらしく可愛く、でも変奏ごとのイメージを大切に、シゲル・カワイのピアノが持つ表現力を最大限にいかして細部まで気を抜かず力まず、心地好く、気持ち良く弾いたのです。
少し気が散ったのは、誰かが喋り続けているような気がしたのと、舞台の側の一番前の席に来て食い入るように私の演奏を見つめる人がいたからです。
でも、コンクールの本選の時よりも集中できて、美しい音を楽しみながら弾けました。
弾き終えると音がしなくなったのが、合図のようにシーンとなり舞台から下りてH先生に
「H先生、去年よりずっと良くなったでしょう?」
と聞くと
「あら、ごめんなさい。聴いてなかったわ。だって、Nさんに久しぶりに会って嬉しくて、ついお喋りに夢中になってしまったのよ~。心地好くお喋りできたからいい演奏だったんじゃない?」って。
もちろん、一緒にお喋りしていた同級生Yも親友Nも聴いてくれてはいませんでした。
他の出演者だった素人さんたちが舞台の近くで、食い入るように見て聴いてくださっていたのでした。(全国決勝大会という私の言葉に反応されたようでした)
親指脱力法を教えてくれたR先生も出演していて、R先生だけは、私の演奏を聴いてくれていました。
「モーツァルトとても素敵でしたよ。でもね、正直なところバーバラ先生はブラームスかなって思いました。」
えっ?そうなの?
R先生は、今年から私の先生に習い始めたのでいろいろと私のコンクール事情やらご存知です。
え~!!
私ってブラームスが似合ってるのぉ?
知りませんでした。
H先生はモーツァルトを聴いていなかったことを申し訳なく思ってくださって、ブラームスの演奏についてコメントをくださいました。
もう少しP(ピアノよわく)のところのメロディーラインが浮き出るといいわね。
H先生、それは私も弾きながら思いましたよ。
メロディーラインを浮き立たせると間違えそうで怖くてできませんでした。
でもね、私はシゲル・カワイのピアノで演奏したモーツァルトで「去年より良くなったわね~!」みたいな感想を言ってもらって自信をつけて全国決勝大会に行きたかったんです。
ただでH先生にコメントもらおうなんて都合良すぎることを考えて最低ですね。
でも楽しい時間でした。
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