7

「まあそうだな」


「…だったら、あの中で何十年も鍛えたら…戻って来た時にかなり強くなるんじゃないの?」


「…ん~…どうだろ、経験はフィードバックされずに記憶しか戻らないから…どうかな~…」



リザリーのドラゴンうんたらのような修行法を聞いて俺は少し考えて曖昧な感じで返した。



「経験のフィードバック?」


「…例えば、だ…現実で10kgのバーベルしか持てない奴が、別空間で10年ぐらい鍛えて150kgのバーベルを持てるようになったとしよう」


「10年もかけてたった150kg?」


「…まあ200kgでもいいや」



マキナの疑問にたとえ話をするとショコラが細かく指摘するので投げやりに修正する。



「何kgでもいいから続きを」


「…200kgのバーベルを持ち上げられるようになって現実世界に戻ったところで…結局は現実の身体の筋力では10kgしか上げられないワケだ」


「…なるほどな」



まだ話の途中なのにエルーは察したかのように呟く。



「思念体的な状態だと、どんなに重体になっても現実の身体には傷一つ付かず…何十年いても現実の身体は老化しないからソレと同じかな?」


「…つまりは超リアルな夢を視てるのと同じ状態、って事?」


「そう、ソレ…一応感覚や経験は残らなくても記憶は残るから、魔術とかなら…多分修行的な感じにもなるかも」



ショコラが俺の言いたい事を的確に纏めてくれた一言を言ったので、ソレに乗っかって補足した。



…頭での学習と身体での学習は同じようで違う。



頭の中で理論や理屈なりを考えて効率的に動こうとするよりも…



同じ動きを何回もして身体に覚えさせた方が実は効率的だったりもする場合もある。



簡単に言えば身体での学習が出来ない状態だ。



テスト勉強にはうってつけだが、マラソンの練習にはあまり成果が期待出来ない。



…とはいえ、効率的なフォームや短期間で成果の出る努力を追求する事はできるが。



…まあソコで学んだ事と同じ事を現実でやらないといけないから、多分途中で諦めると思うけど。



攻略本を読んで一回クリアしたゲームをもう一回攻略本を読まずにクリアしろ、ってのと同じだし…



絶対途中で飽きるって。



「…って事は…例えばだよ?私が生身でノートパソコンを持って行ったら、思念体の状態のマキナでも触れるの?」


「そりゃ触れるだろ、生身でも別空間の修復される無機物は壊せるんだから」



逆に現実のモノに触れなかったら持って行く意味無くね?と、ショコラの発言の意図を図りかねて聞き返す。



「…なるほど…!つまり…レポートを書く時間の短縮ね!」


「うん、別空間で書いて戻って来ればこの世界では一秒も経たずに書き上げた事になると思って」



ショコラの考えてる事が理解出来たのかリザリーが閃いた!的な感じで声を上げると、頷いて説明し出した。



「だけどソレ…面倒くせぇぜ?言うなれば生身Aが持って行って、思念体Bが受け取る、生身A帰る、思念体B書き上げて戻る、生身AorBで回収…だろ?」



そもそも生身なのを忘れて入り浸った日には…っていうリスクもあるし。



「…ならいっその事、機材持ち込みで研究する…という手もあるわね」


「果たして時間の止まってる空間で使える機材がどれだけあるのやら…」



俺が指摘するもリザリーは応用して使おうとする事を話すので、ため息混じりに注意点を呟いた。



「時間が止まってるってどういう感じなの?」


「さあな、水は液体だし…水蒸気は気体…凍るし溶けるけど人力じゃない機械とかは動かないかもな」



時間が止まってる原理や理屈なんて俺が知るわけないし、ソレでどんな影響が…なんて余計に分かるワケないので適当に答える。



時間が止まってる、って本当にどういう状態なんだろうな?



…つーか時間の概念が無いんだから止まってるも何もねぇか。



別空間にあるものは永遠に風化することもなく、思念体的な状態だと老いる事もない。



ただ…無駄に記憶が増えて行って昔の事をどんどん忘れる、っつー変な老化に近い現象は起きてしまうけど。



…こればっかりは防ぐ方法なんてないよ。



「…聞いてる分にはこの世界と変わらなそうだが…」


「この世界のモノが風化せずに老化しなくなった世界、とでも思えば良いんじゃね?」


「…ソレだったら時間が止まってる、っていうのが何か分かるね」



エルーがボソッと呟くので適当に返すとマキナが納得したように言う。



「まあアレコレ言うより行けば分かるよ、百聞は一見にしかず…論より証拠っつーし」


「そだね!」


「わー、楽しみ!」


「一体どんな世界なのか…」


「本当に時間が止まってるのか計らないとね」



コレ以上言うのも面倒なので投げやりに近い状態で告げるとみんな楽しそうな表情になった。



「…一応もう一度確認するが…マジで戦うのか?」


「できるなら!」


「全力を出して魔力を使い切れるんなら悔いは無いよ!」


「…もしこの後に何かあればフォローするさ」



念のために二つの意味で聞くとエルーにまでそう言われてしまったので、なら大丈夫か…と、アレを起動する事に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る