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…なるほど、しっぽ振るだけが犬じゃねぇ…と。



なんでもかんでも受け入れると思うなよ、あんまり調子に乗ってると噛むぞ?的な感じか…



…確かにどんな躾をしようが、訓練をしようが…



嫌な事をされちゃあどんなに温厚な犬でも噛む時は噛むもんな。



…ソレも踏まえての犬という表現…上手い!



おもわず座布団一枚あげたくなるぜ!



…って、んん?今なんか妙な事を聞いた気が…



事務所を潰すのを式部に止められたとかなんとか…



「そういや事務所に乗り込んだんだよね?普通に返してくれたの?」


「はいぃ、式神を複数出して頼んだら普通に返してくれました…全く手は出してません」



…それ、もう9割脅しじゃん。



当たり前だけど、式神は妖怪より強いんだから…一般人相手にそんなん複数出されたら恐怖感半端なくね?



おそらく式神一体あれば5分も経たずに事務所のある建物ごと倒壊させられんだろ。



…おっと、ヤベ…愛梨が降りて来たか。



「んじゃ、そのお礼として…夕飯でもご馳走しますかね」


「…あてはこのお茶が飲めただけで満足ですけど…良いんですのぉ?」



二階の部屋から愛梨が降りて来る気配がしたので話を聞かれないように世間話にシフトすると、式使のお姉さんは確認するように首を傾げた。



「どうせチャーハンを作るつもりだったんだから一人分ぐらい増えても構わないよ、なんなら外にいる二人の分も作れる」


「…なぜ二人居ると?」



遠慮しないように俺がそう言ったら式使のお姉さんの目と雰囲気が急にマジになって聞いてくる。



「気配、こっからでも中々強いのが分かるから…護衛?」


「…はあ~…凄い…道理で他の忍者が相手にならないワケですねぇ…」



ソレを全く気にしないで態度を変えずに聞き返したら、気が抜けたようにソファの背もたれに背を預けて呟いた。



「これくらいなら凄くもないんじゃない?外の二人が気配を消してる状態でなら凄いと思うけど」



俺の友達や円卓の騎士といった化物クラスなら普通に出来る事を褒められたところであんまり喜べないので、一応謙虚な言い方をする。



…あのド変態だって本気モードならギリ化物クラスに入んだから…



たとえ外の二人が気配を消しててもこの距離なら気付きそうだけどな。



「ほほ…下手したらあてでも遠間のお兄さんに敵わないかもしれませんねぇ…では、お言葉に甘えてもよろしいどすかぁ? 」



…下手したら、ってか俺と普通に戦えばいくら式使のお姉さんでも歯が立たないと思うんだが…



まあ戦いと闘いは違うから…闘えば多少良い勝負ぐらいにはなるかもね。



…式神使いは魔術みたいな忍法が使えない分、俺に分があるし。



…褒めたくはないけど…この国で俺に実力的で勝てる可能性がある奴と言えば、あのド変態ぐらいだろうよ。



「お兄ちゃーん、お腹空いた~」


「おう、今から作るよ」



時間的におそらくトイレに行ってたんであろう愛梨が空腹を訴えながらリビングのドアを開けて入って来た。



「中身はどうでしたぁ?」


「あ、はい…ちゃんと全部ありました、ありがとうございます」




式使のお姉さんの問いに愛梨は改めて頭を下げお礼を言う。



そんなやり取りを見ながら俺はコンロの火を点けてフライパンを熱し、さっき仕込んでいた材料を投入して炒める。



…因みに今日の夕飯はチャーハンと卵スープと八宝菜だ。



卵スープは味付けが終わってるので後は沸騰させて卵を入れるだけ…



ってなワケでコンロのスイッチオーン。



「…愛梨ー、皿お願いしていいか?普通の皿を三枚と使い捨てのプラスチックのやつ二つ」


「うん、分かった……え?使い捨て?」



料理が完成しそうになったので愛梨に準備を頼むと、食器棚から皿を出しながら不思議そうに首を傾げた。



「あのお姉さんの護衛だか運転手だかで外に二人待機してるから」


「そうなんだ…分かった」


「…あ!やっぱあと一つ増やして三つにして」


「オッケー」



俺が理由を話すと特に何も聞かずに受け入れてくれ、突然の思いつきによる追加にも嫌な顔一つせずに了承してくれる。



…あのド変態に、俺はお前と違ってマトモなんだ…ってとこを料理の上手さで知らしめてやろう。



多分あいつも家事は一般人レベルでこなせると思うが、俺みたいに達人レベルまではいけまい。



…いわばただの力の誇示、自慢に他ならないけど…アレと同類視されるのは嫌だから違いを示さなければ!



私はあなたとは違うんですよ。



っと…完成。



「コレ、持って行って」


「うん!…美味しそ~!」



色々考えながらもチャーハンを作り終え…皿に盛り付けて愛梨に指示すると、嬉しそうに式使のお姉さんと自分の分の二皿を持って行った。

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