12

「人間が存在してる場所に影の無い場所なんて存在するか?」


「その言い方だと人間が存在してない場所には行けない、って弱点を認めてる事にならね?」


「…それもそうか」



万能さを追求されたので、逆手に取って欠点を指摘すると諦めたように納得された。



「…で?何の用だ?」



こんな朝早くにわざわざこんな所まで来たんだから用も無く…ってワケじゃないだろ。



近くを通ったから、って理由でも寄るには浅いな。



「いや、ナターシャに治癒魔術を教えてくれたそうだから礼の一つでも言って置こうかと思ってな」


「…あー、アレね…基礎しか教えてないから実戦でギリギリ使えるレベルになるぐらいだぜ?」



クレインのレベルがもう少し上がったんなら強化も治癒も深い所まで教えてやるよ…と、技を習得する上でのレベル不足を呟く。



「…ソレでも十分過ぎる…アイツの才能があって、俺たちが教えても強化を会得するのに最低でも5年はかかったハズだ」


「…まああの状態からお前らが教えての5年は正に神童とも呼べるかもな」



コイツらみたいに元々魔術を使ってたりしてたんならまだしも…



魔術や魔力の事で経験、知識共に全くの初心者から始めての5年での独学での習得はおそらく世界屈指の天才でも無理。



独学で10年…ならいけるかもしれないが。



俺の目の前にいるエルーや、その友達のリザリー達みたいに。



「治癒魔術に至っては擬似だろうが模擬だろうが使えるのは不可能と言われてる…」


「そりゃあ常識に縛られてる正攻法ならそうよ」



魔力が無く、魔術の使えない俺だったからこそ…



無知の発想、常識知らずの調べ方で常識外の外法を手に入れたんだから。



俺にもし魔力があっても今みたいにそのまま才能、資質、素質、能力が無かったら多分辿り着けなかったと思う。



「とりあえず感謝する」


「とりあえずどういたしまして」



エルーが会釈をするように軽く頭を下げて礼を言ったので、俺は手をヒラヒラ振って返した。



「…それじゃ、俺は戻るが…おそらく昼までに来ないとリザリーかマキナが突撃してくると思うから気をつけろよ」


「大丈夫だ、今日は珍しく俺も移動するから」



エルーの警告に俺は心配無用と言わんばかりに告げる。



「…ほう?どこにだ?」


「平原の方かな?あっちで作った物を試してみようかと思って」


「…面白そうだ、俺もついて行ってもいいか?」



俺の発言に興味を持ったらしいエルーが踵を返して聞いてきた。



「別に構わねぇけど…お前の期待に添えるかどうか分かんねぇぞ?」


「大丈夫だ」



どうせ断ってもリザリーかマキナの耳に入って面倒な事になりそうなので…



とりあえず男二人だと絵面的にアレだが、まあ了承する事に。







…つーワケで、軽い運動をした後に研究区画から離れた平原へと移動。




「…とりあえず防具一式」



俺はポーチの中から小箱を取り出し、逆さにして物を取り出す。



そして目当てではない余分な物を小箱の中にしまう。



「…そのプレートアーマーを四肢別にバラしたようなパーツが作った物か?」


「おう、まあ見とけって…」



不思議そうに地面に転がる小手や脛当てなどを見るエルーを適当に流して…



とりあえず俺はブーツのような金属の脛当てを履く。



…うむ、やはり鎧一式のパーツを着けると動き辛い!



「…何を…?」


「…えーと…スラスター、オン…うわっ! !?」



多少歩いてから魔石の魔力を使って詠唱破棄での魔術を発動させる。



するとブーツのような脛当てが一気に前に進んで上半身が後ろに傾き…



そのいきなりの不安定さに俺は驚いて悲鳴のような声を上げてしまった。

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