40

…よし、これぐらいならいいだろう。



「…お休み」



30分後。



最低限の矯正を終えた俺は女の子の目を覆うように手を当てて挨拶し、ベッドに倒す。



おっと、別に押し倒したわけじゃないよ?



軽く肩を押すようにして倒しただけだからさ。



…意味的には一緒でも表現的には違うからね?



決して性的に襲うために倒したんじゃないって事を理解して欲しい。



…なぜなら俺がロリコンだ、って思われるのも嫌だからだ。



とまあ、そんな事はさて置いて…



調印式っつーのがちゃんと進んでんのか見に行ってみるかな。



あと一人の円卓の騎士ってのも気になるし。



俺の勘がアイツじゃないと告げてんだから大丈夫っしょ、多分。



俺は部屋を出て近くにいたメイドに調印式をやってる場所を聞き、ソコへと向かった。



…どうせなら円卓の騎士を一目見てからユニオンに帰るか。



こういう風に偶然見る機会なんてほとんど無いし。



ガラハッドと…あと一人誰だっけ?



確か聞いたような気がするけど……俺にとってどうでも良かったから覚えてないんかね?



流石にアーサーやランスロットは来てないにしても、ガウェインあたりなら来ててもおかしくない。



…つーか本当に円卓の騎士を二名なんて凄ぇよな…



たかが護衛と増員にしては贅沢過ぎる。



「ご苦労様でーす、ちょっと覗いても?」


「…部外者の入室は禁じられている…が、少し覗くだけならば良いだろう」


「ただし、中へ入ろうとした場合には拘束させてもらう」



部屋の前に立って警備してる兵士に挨拶しながら尋ねると、どうやら少しばかりの融通はきくようだった。



「十分です、では失礼して…」



兵士に明るく可愛らしい笑顔を向けてから左側のドアをそっと開ける。



…やっぱり全然見えねぇ…右側がおそらくここの王だろうな、お姉さんがその後ろに居るし。



円卓の騎士は、っと…



…気配を探った感じ、 一人は俺がドアを開けてる側の左端の隅っこ…?



なんで?壁に背もたれてるとかそんな系?



あと一人は…俺からは見えない左側か。



…もうちょっとドアを開けないとユニオンのお偉いさんと円卓の騎士は見えねぇかも…



…やばっ!バレた!



ドアをもう少し開けようか悩んでると、部屋の隅っこから動かなかった気配が急に俺の所に歩いてくる。



逃げようにも今逃げた所で逃げてる最中に後ろ姿は見られてしまうし、なにより追いかけて来られたら逃げ切れる自信がない。



下手に逃げ切ろうモンなら警戒されてしまうからな。



「…誰かに覗かれてるぞ」



外の見張り兼警備の兵士が居なければバレた瞬間に逃げきれてたのに…と、俺が内心悔しがってるとドアが開く。



一応無駄だと分かりつつもドアが動いて直ぐに開いていない右側の方に隠れた。



「…誰もいない…?」


「…つまらない事をするな」



お姉さんが不思議そうに呟くと男が呆れたように言い、部屋から少し出て俺の腕を掴み中へと引っ張る。



「あ、あはは…」


「来てたんだ」



俺が気まずそうに笑うとお姉さんが嬉しそうに駆け寄って来た。



「ちょっと興味があって」


「誰?その娘」



適当に返事すると見えなかった方の円卓の騎士の一人であろう、妖艶な美女が不思議そうに聞いてくる。



…女…!?…って事はマーリンか!



「この人は」

「私は通りすがりのギルドメンバーです☆」



お姉さんの説明を遮って自分から嘘の紹介をキャピキャピした感じで言った。



「「「「ギルドメンバー…?」」」」


「…お願い、合わせて…?」



王様やユニオンのお偉いさん、円卓の騎士二名が不思議そうな顔を中で俺はお姉さんにだけギリギリ聞こえる音量で即興劇を頼む。



「…ええ、そうよ…もしもの時の保険としてギルドから一人、警備を強化するために連れてきたの」



お姉さんはリザリー達と同じくアドリブ力が凄まじかったらしく…



さも当たり前のようにクールな声でもっともらしい事を告げる。



…ナイス…!流石、デキる女は違うねぇ…惚れそう。



「…ほう?」



ガラハッドの称号を持っているであろう男は怪訝そうに近づくと剣を抜く。



そして俺に当たるか否かの所で剣を止めた。



男の剣の先と俺の鼻先の距離は僅か数mmしかない。



…どうせ寸前で避けるだろう、と思って反応出来ない振りをしたのに…まさか止めるとは…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る