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「いやいや、タダ働きじゃないよ?」


「そうそう…私達のために働けるのよ?」


「うんうん…女狂いのていとにとっては嬉しい事でしょ?」


「え、ええー…」



お姉さんの所で予想した通り…には行かなかったが結果的にはほぼ同じになりそうだった。



…だからか、だから俺が逃げないようにショコラとマキナが両腕を掴んでるのか!



何かあったらリザリーの魔術で足止めするために!



…くそっ!なんて布陣だ…!



マキナとショコラが飛びついて来た時点で避けてればこんな無理ゲーな状況にはならなかったのに!



「…なあ…もう一度、ジャンケンをやり直さないか?」


「エルーに賛成!テイトも戻って来た事だしな!」


「…そうだな、さっきのは練習…という事で…」


「「「は?」」」



エルーの提案にエリアが乗っかり、ハルトが恐る恐る…といった様子で言うと女性陣が睨みつける。



怖っ!!



一人ならまだしも、三人がハモって一斉に睨むとか怖っ!!



一人の時よりも正に怖さ三倍増し!



「だからな?もう一度ジャンケンをだな…」


「ソレ、本気で言ってるの?」



エルーの勇気ある発言にマキナが何の感情も籠ってないような声で聞く。



おお!レアだな!マキナのこの機械のような冷徹で冷ややかな目と声!



隣にいるだけにゾクゾクするぜ…!



恐怖ではなく、薄汚い欲望が沸いてくるっつー興奮に近い意味で。



「…お、俺もエルーに…」


「は?」


「いえ、なんでもないです」



エリアもエルーに賛同しようとしたがリザリーの迫力ってか威圧感にあえなく撃沈した。



「…どうでもいいが、用件はなんだよ?リザリー、ショコラ、マキナ…貸しでは無いがお前らに恩を売ってやってんだから感謝しろよ」



ピリピリした雰囲気をガン無視して俺はこの場に全くそぐわないいつも通りの声で聞き、女性陣にそう伝える。



「…なによ、恩着せがましいわね」


「程人君、ありがとね☆」


「えー?感謝してあげるんだから感謝してよね?」



まさかの普通にお礼を言ったのがマキナだけというこの性格の差。



リザリーはいつも通りだとして…ショコラのはもはや意味が分からん。



「ええー…ソレって感謝してんの?」


「あはは!んーん、全然」


「感謝しろよ!」



俺が聞くとショコラは笑いながら首を横に振ったので思わずツッコむ。



「…あー、オホン…いいか?」



雰囲気が一気にいつもの軽いものに変わりハルトが咳払いして聞いてくる。



「えー、感謝するのはソッチでしょ?」


「意味分からん」


「私が感謝してあげてるんだよ?だからていとも私に感謝すべきじゃない?」


「物凄い理屈だな…」



流石にリザリーもソコまではいかないと思うが…



変な所で女王様気質って言うか自己中心的いうか…自分を中心に世界が回ってます、という独裁者気質というか…



…また外見が良いからかそういう所も可愛く思えてしまうから困ったもんだ。



「…いいか?」



俺がため息を吐いたところでハルトが再度確認を取ってきた。



「だって世界は私を中心に回ってるんだよ?」


「今日…というか昨日?みんなを集めたのは…といってもお前以外には理由を話してるんだが…」



ショコラの変なキャラを無視して話し始めたハルトが空気と化してる双子を見て頭を掻く。



「むー…せっかくリザリーみたいな女王様キャラをやってみたのに…」


「…ちょっと、私はそんなに酷くないわよ」


「「…あの…その…昨日はごめんなさい!」」



無視されむくれたようなショコラの呟きにリザリーが反応し、ハルトの視線を受けて双子が立ち上がり俺に頭を下げて謝る。



「えー?だっていつもこんな感じじゃない?ねぇ?」


「うーん…流石にそこまでは…」


「ほらね」


「…お前ら俺の周りで関係ない話をしないでくれ」



右斜め向かいと左側…しかも右側まで巻き込んで話をされたら、イマイチ雰囲気がカオスと化して話の流れが頭に入ってこないっていうか…



「…だってショコラが…」


「…ごめん」


「「…ごめんなさい…」」



リザリーが何か言いたそうな目でショコラを見るとボソッと謝り、双子も何故かまた謝った。



「…で?とりあえず何の用なんだ?」



今更謝られたところでな…どうせ今回は両腕を片方ずつ組まれてるんだから逃げられねぇし。



「用件だけを言うなら…こいつら二人の内どっちを理事長にするかの試練の相手になって欲しい」


「…は?」



理事長?試練?なんじゃそりゃ。



…てかこの双子ってまだ中学生ぐらいにしか見えねぇんだが…理事長ってどういう事?



「まあ用件だけ言ったらそうなるよな…実は俺達、お前が死んだ後に潰れかけの学校を買い取って」


「俺達が理事長をするワケにもいかないから…事務とかは外部の専門的な人材を雇って、コイツらを理事長にしたんだ」



全然意図を理解出来てない俺を見てエリアが笑いながら掻い摘んだ説明を始め、ハルトも続けるような感じで言う。

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