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さくせん『てびろくいこうぜ!』。



…普通にやったら二股、浮気、不倫だな。



「…分かってないなぁ…」



俺の言葉にお姉さんは笑いながら、やれやれ…といった感じで呟く。



「…分かってない、とは?」


「世の中にはね、好きになっちゃったらどうしようもならない…って感情があるの、それが愛」



あんな事を平気で出来る今の程人君には、分かってても理解できないと思うけどね…とお姉さんはニヤリと笑う。



「どうしようもならないって…まず好きにならないっすよね?」


「甘い!たとえ程人君が本当にさっき言ったみたいな『ゲスの極み男子』だったとしても、女性は好きになっちゃうんだよ」


「ええー…」



なんだゲスの極み男子って…女ってこういう言葉とか使ってんの?



アイツ、ちょーゲスってて…極まってる(笑)、ゲスの極み男子だった(笑)ゲスの極み系?(笑)みたいな感じで。



『ゲスの極み系男子』か…『ゲスの極み男子』よりは語呂が良いかもしれん。



「好きになる、というのは理屈じゃない…恋は盲目って言葉があるでしょ?」



ヒモ男でもDV男でも浮気男でも…悪い所しかない男でも、一つだけ!たった一つだけでも良い所があれば愛情が続いちゃうの!



と、何故かお姉さんは熱弁し始めた。



「…ああ、嫌悪感を持つとどんなに良い人でも悪い所が一つあるだけで嫌いになる…の逆?」



大金持ちでイケメンで高身長でどんな人にも優しい性格なのに、何故か潔癖症という欠点一つで嫌われる不思議。



「…うーん…なんかこう…ニヒルっぽいと言うか…うん、まあソレも理屈じゃないし」



俺が分かりやすいように聞くとお姉さんは腕を組んで難しそうな顔をするも、直ぐに頷く。



「家柄も顔も頭もスタイルも良く喧嘩も強くて仕事も出来るのに、性格が悪いだけで…」


「…うん、さっき私が言った事と矛盾するけどね…性格大事!」



ため息混じりに呟くとお姉さんはなんとも言えない顔で声を上げる。



「…まあそうなるか、だから俺みたいなのは無理っしょ?」


「…いや、まあ確かに性格はアレだけど…」



俺が呟いた後に疑問系で言うとお姉さんはなんとも言えないような顔で言い淀む。



「性格大事なら…」


「それでも!好きになっちゃうの!性格大事ってのは一般論で理性論なの!頭では分かってるけど…ってやつ!」



俺の言葉を遮ってお姉さんはかなり主張してきた。



…言ってる事に矛盾があって一貫性が無い…と言いたいが、何故かなんとなく理解出来てしまう。



抑えつけられたら逆にやりたくなるっていう…なんとか理論。



危ないと分かっていても、やったらダメ!と言われたら頭では分かっててもやってしまうあの感覚。



おそらく恋だの愛だのはその感じに近いんだろう。



理性で考える事と本能でやってしまう事の矛盾。



「…確かに一目惚れとかあるし…」



まあ一目惚れってのは外見が良いやつにしかしないから、俺みたいな量産型フェイスに一目惚れっつーのは無理だろうよ。



「でしょ?」


「でも俺との付き合いはあるワケじゃん?他人ってワケでも無いし」



その場合でも一目惚れってあんの?



子供の頃に良く遊んでた幼馴染と数年振りにあってカッコよくor可愛くなってるんならまだしも…



おそらく俺みたいな量産型フェイスって子供も大人も顔変わらないと思うけど。



「…そうだよ、だから…」


「ん?」



お姉さんが何かを言いかけて止めたので俺は不思議そうに聞く。



「私は…私は君に股を開けと言われれば直ぐにでも開くし、濡らせと言われれば濡らすよ…子供産めと言われれば当然産む」



娘のナターシャを寄越せと言うならばあげよう…私達には君にそれだけの恩があるんだ。と、お姉さんはちょっと意味の分からない事を言い出し始める。



「…恩、ねぇ…」



…恩は売って損は無い。と思ってたが…ソレは俺自身に当てはまる事で、恩を買った?女の子達にはどうなんだろうか?



…つーか娘の方のクレインのとばっちり感。



「だけど…だけどね?程人君がそういう事を言える身の上でない事は妹のリザリーから聞いているし、私が知ってる性格的にも難しいと思う」



俺が外面に出さずに内心考えてるとお姉さんが続けた。



…本当に頭が良いなぁ、この人。



「だから私は君の望みどおり自分自身の幸せを追いかける事にするよ…でも、もし…」



お姉さんは前半を優しそうな笑顔で言うと後半は俯きながら言葉を切る。



「もし?」


「もし、行き遅れたり離婚したりして一人になってた時は愛人としてよろしくね☆」



続きが気になったので聞いてみるとお姉さんはさっきまでのシリアスな雰囲気をぶち壊すような、ふざけた感じで舌を出しながら告げた。

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