13

「…で、では時間になりましたので…」



隊員達が納得いかなそうなやる気のない返事をすると軍服姿のお兄さんが時計を見てそう告げる。



「えーと……あったあった、はいコレ」


「…?コレは…?」


「量産型ファースト、通称『1st』の説明書」



簡易だから手書きだけどね、とショコラはバッグの中から取り出したA4サイズの紙を軍服姿のお兄さんに渡した。



「説明書?そんなんあったの?」


「うん、一応口頭でも説明するけど…着用のやり方とか、保管の方法とか書いてあるんだ」


「へぇ~…」



俺が不思議そうに聞くと簡単にではあるが教えてくれる。



「とりあえず検品って事で…そこから取って」


「へいよ」



説明書?と言えるのか分からない紙が軍服姿のお兄さんからおっさんやおじさんの手に渡るのを見て、ショコラが俺に指示した。



「…コレは…タイツ?しかも全身…?」


「まあ全身タイツに近いアンダーウエア的な服になるんかね」


「あー…そうだね、質感はアンダーウエアに近いかも」



『ウエア』なのか『ウェア』なのかはさておき…



軍服姿のお兄さんの部下の一人が1stを手に取り不思議そうに呟いたので、俺が適当に説明するとショコラが微妙な感じで同意する。



「鎧…とかじゃないのか?」


「そこらの安い鎧よりは硬いと思うけど?」


「つべこべ言わずとりあえず着ろよ」



俺は部下の一人の疑問に疑問系で返したショコラをチラ見して、ビニールと気泡緩衝材しか入ってない箱を閉じながらそう言う。



「あ!ちょっと着るのストップ!」


「「「「?」」」」



部下+軍服姿のお兄さんとおじさんが1stを着けようと上着を脱ぎ始めると、ショコラが思い出したように制止をかけた。



「丁度参謀?の人もいるみたいだし…コレにサインして」



ショコラはバッグの中から紙束を取り出すと一枚ずつ配るように、おっさんおじさん軍服姿のお兄さんを含めた10名に渡す。



「「「…コレは…?」」」


「誓約書…?」


「うん、納品誓約書って言って…その内容に合意出来るならサインしてね」



サイン出来なかったら1stの納品も出来ないけど…とショコラは軽く説明しながら俺にも一枚差し出してくる。



…えーと、なになに…?



1.量産型ファーストに関わる事を部隊外に他言、口外等をしない事。


1.量産型ファーストを他部隊、または他人に貸さない事。


1.たとえ短時間でも量産型ファーストを他人に触らせたり、渡さない事。



以上の事を固く守り、破った場合は連帯責任として軍全体で処罰を受ける事を誓います。



…なるほど…つまりは自分で使ったり同じ分隊内で使い回す分にはOKだが、別の部隊の人に1stの事を喋ったり触らせるのはNGって事か。



「…ユニオン政府からの誓約書には署名しているが…」


「それとは別…コレは研究の秘匿、機密を守るためだから」


「つー事はあれか?破ったら軍ごと潰す系?」


「うん♪」



ショコラの言葉を聞いて処罰の詳細を予想すると、可愛く楽しそうに頷いた。



「…コレ、どういう事なんだ?」


「自分で使ったり同じ分隊内で使い回す分にはOKだが、別の部隊の人や他人に1stを触らせたり喋ったりするのはNGって事」


「「「…なるほど…」」」



誓約書の内容を理解してない奴が聞いて来たので、さっき思った事をそのまま説明すると数人が納得したように呟く。



「機密情報の漏洩を防ぐためだから多少の不便は我慢してね」


「ふむ…ならば異存は無いな…」


「そうですね」



ショコラが申し訳なさそうな演技をしてそう告げるとおっさんがサインし、おじさんもサインする。



すると軍服姿のお兄さんもサインして、部下達も次々とサインしていく。



…紙が足りないから一枚に二名の署名とかしてるけど大丈夫なんかな…?



「契約は成立と言う事で…」



俺の心配を他所にショコラは納品誓約書とやらを回収し始めた。

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