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「あ、うん…調合をしたのはナナシさんだけど」


「そうなの?まあいいわ、とりあえず依頼の報告をお願い」


「えーと…」



少年の返事に受付嬢は首を傾げて俺を見るも直ぐに向き直る。



「…はい、報酬」



そして少年から報告を聞き、今少年が達成した依頼の報酬にさっきの分を上乗せした。



「…おっ、コレで今ある依頼は全部達成だね」


「そうなの?」


「うん、今日はもう休んでいいよ」



また明日依頼が増えるかもしれないしね、と受付嬢は可愛くウインクする。



「…じゃあ装備を新しくしようかな…」


「…ちょっといいか…?」



俺はさっき聞いた話をすべく、少し考えて外に出ようとする少年を引き止めた。



「え?なにかあったの?」


「…ああ…」



少年の不思議そうな問いにテーブルを指差して座りながら、さっき町長(仮)から聞いた話を伝える。








「えっ!?」


「…まさか…!?」



俺が話し終わると少年と女の子は驚いたように声を上げた。



「…この件も、やつらが関わっている…」


「そう言えば森で…」


「…あの時、何を…?」



俺の呟きに少年も女の子も森で遭遇した時の事を思い出していた。



「…やつらの目的は、一体…」



一応俺はやつらの目的なんてとっくに分かっているけど、分からない振りをして腕を組む。



指輪、円盤、ガラス玉…他にも手に入れたアイテムはあったハズ。



普通のゲームと違い、キーアイテム的なのは全て敵の手の中…



つまりはイベントを起こすタイミングは敵の気分や準備次第で、俺たちはイベントが起きるのをただ指をくわえて待っているしかない。



「…なんで…なんで罪の無い人達を襲うんだろう」


「…分からない…」


「…犯罪者の考えなど、一般人には理解出来ん…」



少年の呟きに女の子が首を振って返したので、俺はまあ常識っぽい事を呟く。



「…それもそうだよね…」



少年は納得したように呟くと立ち上がる。



「とりあえず、やつらがいつ現れても良いように装備を整えないと」


「…そうだな…」


「…うん」



俺と女の子には新しい武器なんて買わなくてもいいが、少年には必要だ。



そして防具が要らないのは俺だけ。



流石に女の子も前線だからか防具だけは少年と同じタイミングで変えてるっていう。



つーワケで、とりあえず武器屋と防具屋に移動。



「…よし、コレ頂戴」


「へい、まいどありー」



少年は今まで使ってた剣と防具をはした金で売り、新しい量産型の剣を買った。



「…うーん、これが動き易いかな…」


「…私、コレがいい…」



そして防具屋で防御力と値段が高めのライトアーマーを選ぶ。



俺はそれを壁際に持たれて腕を組みボーッと見てるだけ。



…何が悲しくて男の装備選びに付き合わなきゃならんねん。



選ぶのは女の子だけで十分だろ。



お前は男なんだから一番安いの買ってあとは気合いと根性でどうにかせぇ。



などと内面ブツブツ愚痴りながらもポーカーフェースで黙って遠い目をしながら眺める。



…色々と試着し動き易さを確かめてるからか、防具屋に入ってもう30分が経とうとしていた。



女の子は直ぐに決めたというのに…



少年の優柔不断さは主人公属性だからなのか、ただの性格なのか…



…とりあえず待たされる身にもなれや。



美人、美女、美少女ならいいがヤローとか誰得だよ、マジで。



まあそんなこんなで買い物が終わり外に出ると…



「「「っ!!?」」」



いきなり地震のごとく地面が揺れ始める。



「なんだ!?」

「地震か!?」

「お、おい…!なんだアレは!」



突然の強い揺れに町民達が軽いパニックになる中、一人の男がどこかを指差した。



「…な、なにあれ…?」


「…水、柱…?」



男が指差した所ではいったい何十…何百m上がってるのか、大きな水柱が見える。



…おいおい、おいおいおい…あの方向って…



水柱が上がった場所を見ると、この街に来る前に女の子が不思議がってた空がある場所と同じ。



いやはや…あの水柱は、何かが空に向かって上がるであろう事は容易に想像がつくと思われ。



「あれ…なにかな?」


「…球体…?」


「…いや、街のように見える…」



どうやら秘密結社が封印を解いたのは『浮遊都市』だったらしい。



驚く町民や俺らを無視するように水柱の中から現れた『浮遊都市』は、空の雲の無い不自然な空間にスッポリと自然にハマるように止まった。

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