26
「…ふん、命拾いしたな」
お兄さんは少年を一瞥すると俺の方に向かって歩いて来た。
「くそ、待て…!俺はまだやれる!」
少年は叫ぶも体にガタがきてるのか剣を杖に力を入れようとしてるが立ち上がれていない。
「最初からこうなれば無駄に傷付く事も無かったものを…」
「…そう簡単いくかな」
剣を片手に近づいて来るお兄さんの呟きに返して立ち上がり刀を抜く。
「魔術師ふぜいが俺と剣でやり合おうとは、な」
「くっ…!」
素早い踏み込みでの一撃をギリギリで防いだ演技をしつつ次の二撃目に備える。
「ほう、中々サマになっているじゃないか…コレはコレで楽しめそうだ」
二撃目を弾いて防ぐとお兄さんはニヤリと笑う。
くっくっく…この賭けは俺の勝ちだぜ。
「剣帝、何を遊んでいるのですか」
俺がお兄さんに合わせるように内心笑うとどこからともなく人が現れた。
「…観察者か…もう時間なのか?」
「ええ、早くしないとまた暴れてしまいますよ」
「…勝負は持ち越しだな、次までに首を洗って待っていろ」
観察者、と呼ばれた優男の言葉にお兄さんは剣を納め…二人一緒に姿を消す。
…なるほど、アレが噂に名高い剣帝か…
見るのは初めてだったが、中々どうして…若い割にかなりの実力者じゃねぇの。
どおりで子供とはいえディアボロティスとも互角に戦えるワケだよ。
流石は日比谷から称号を受け継いだ剣聖の弟子だ。
あ、あの人類最強の日比谷が円卓の騎士でアーサーだった時は周りから『煌めく聖剣』の異名を付けられてたらしい。
周りが勝手にそう呼んでるんだから多分本人からしたらどうでも良い事だと思ってるんだろうけど。
でも不思議な事に…
日比谷の時は『聖剣』だったのに、今勝手に受け継いだ弟子だった奴は『剣聖』なんだよね。
煌めく聖剣から剣聖にシフトしたのは日比谷の弟子が変えたからなのか?
まあ何はともあれ、とりあえずさっきのお兄さんは日比谷の弟子の弟子って事になるんだが…
日比谷→人類最強、アーサー、煌めく聖剣の異名。
愛弟子?→剣聖、多分アーサーと互角かソレ以上。
その弟子→剣帝、剣を扱わせれば右に出る者無し。
この圧倒的な日比谷の凄さと言ったら…もう。
アイツなんなの?って思う。
天才は血は繋がらなくても受け継がれるものなの?って感じなんだけども。
おっと…今意味不明な劣等感に溺れてる場合じゃない。
「くっ…大丈夫か…?」
「くそっ!全く手も足も出なかった…!何が英雄になる、だ…!」
刀を納め足を引き摺るような演技をしながら少年の下へ行くと、主人公さながら憤って地面を殴っている。
「…剣帝が相手ならば仕方ないだろう」
噂ってか情報では、今のこの世界で唯一剣で魔術を斬る事が出来るらしい。
どういう技術か知らんが…調停者曰く超能力のようなモノだと。
魔力持ちじゃないクセに並みの魔術師なんて相手にならないぐらい強いっていう。
つーかあのスレイヤーばりの身体能力+超能力とか卑怯じゃね?
魔力が無くて魔術は使えないけど、魔術に対抗出来るぐらいの超能力は使えますー…とか普通の天才と変わらないだろ。
俺みたいに才能無しの一般人レベルかと思いきや違うっつー落とし穴。
…一応言っとくけど、世界トップレベルの強者達はほぼ全員魔力持ちで魔術が使える奴らだよ?
多分例外は俺と剣帝だけだと思う。
あ、魔物の身体能力や能力を抜いての話ね。
ソレを入れたら魔王軍の面々を除いた世界ランクでは圧倒的な一位だし。
…だって中身は魔物なんだもの。
「剣…帝…?」
少年は俺の言葉になんだソレ?と言わんばかりに首を傾げた。
「剣の腕では右に出る者はいない…と言われるほどの世界的な実力者だ」
魔術師相手にも剣のみで立ち向かうと聞く…と呟いて少年に手を差し出す。
「…なんでそんな凄い奴が…?」
「…さあな、とりあえず今までの奴らと関わっている事は間違いないだろう…」
力の入らない身体をなんとか頑張って少年を立たせるという演技をしつつ気絶してる女の子の所に行って刀を杖に女の子を背負う。
それからはお互いに無言でゆっくり村に向かって歩く。
…あの剣帝がなぜ秘密結社側についてるか分からんが…
ディアボロティスをこの世界に喚び込んだ事については責任を取って貰わなければ。
まあ何にせよ…かなりレアな旧時代の遺物を使った事に間違いはあるまい。
後で調停者の所に行ってから指示を仰ぐとするか。
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