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「オーナーが言うなら俺は構わないっすけど…誰?」


「それは俺のセリフでもあるわ、誰だよお前」


「え!?お兄ちゃん、潮崎昌士を知らないの!?プロ入り初登板をノーヒットノーランで鮮烈デビューしたんだよ!?」


「…凄いのか?ソレ」



野球に詳しくない俺はいまいち良く分からないんだが。



「あんたねぇ!凄いもなにも…前代未聞なのよ!その後もプロ入り一年目にして21勝をあげて、パーフェクト試合を3回も!」


「たった3回?」


「たったじゃないよ!普通の人は何年かけてやっと出来るんであって…!それに打つ方も凄くて、三振かホームランか。って言われるぐらいなの!」



…要は点が入るかアウトになるか、って事か?



「なにより…プロ入り4年目にして異例の年棒7億超え!」


「更に最高162kmの速球に7種類の変化球!緩急も自由自在と言う走、攻、投の三拍子揃った最高のプレーヤー!それが潮崎昌士!」



二人は俺にズイズイ迫り寄って来てさながらマシンガントークのように説明してくれた。



「…つまりは天才王子様ってワケか」


「「そう!!」」


「君面白いね、気に入った…名前は?」



二人を剥がすと男が爽やかな笑みを浮かべながら近づいてくる。



「野郎に気に入られてもな…」


「じゃあ勝負に勝ったら教えてくれるか?」


「いいぜ、ただし…万が一カップリングになったとしても俺はネコにはならないからな」


「カップ…?猫…?」


「なんでもねぇ、じゃあやるか」



念のための保険をかけてバッターボックスに向かう。



あの野郎…身長が190近くありやがる、だが身長が低いのが受けだと誰が決めた?



低身長×高身長でもいいじゃないか!



まあ一番良いのはその万が一が起こらない事だけど。



「そういやバットがねぇな」


「コレだ」


「ど~も」



バットを探してると捕手がスッと渡してくれた。



さっきと同じくヤンキーのように構える。



「潮崎!さっきこいつは田井の球を全球ホームランにした!最初っから全力を出せ!」


「あの田井から…?へえ、面白そうじゃん」



野郎は面食らったような顔をしたあとに、獲物を見つけた肉食獣のような目つきに変わった。



「じゃあ全力でいかせてもらうぜ!」



野郎はおっさんと藍架達が部屋から出た直後にモーションに入り…投げる。



「ほいっと」



さっきと同じスイングで音を鳴らさずに球を打ち返す。



ガシャ!!と天井に当たる音がしてボールが芝生の上に落ちた。



「…な…!?」


「この部屋狭いからホームランかどうか分からなくね?」


「あ、ありえねぇ…!もう一球!」


「ほいしょ」



鋭く落ちるフォークをアッパースイング気味に振り抜く。



「…ま、マジかよ…なんだよあのスイング…ありえねえぜ…」


「どうしたー?もう終わりかー?」



肩にバットをポフポフ当てながら呆然としてる野郎に話しかける。



「き、金属バットだからだ!汚いぞ!も、木製を使え!」


「木製?」


「お兄ちゃん、はいコレ」


「おっ、サンキュー」



愛梨が木製のバットを三本ほど抱えて持ってきてくれた。



「よし来い」


「…へし折ってやる!」



野郎はさっきよりも威圧感のあるフォームで球を投げる。



「っせ…い?」



受け止め、振り抜こうとした時に…バットの根本がバキッと折れた。



その所為で勢いはなくなったものの、一応天井の端っこに当たる。



ガシャ…とさっきとは明らかに当たった音が違う。



「ははっ!はははっ!やっぱり木のバットじゃ出来ないようだな!」


「それでも多分スタンドには入ってたと思うぞ?」


「抜かせ!今度もまた…へし折る!」


「んじゃあ普通に打つか」


「え…?」



俺の言葉に野郎は不思議そうな顔になったものの…もうモーションに入ってたためそのままボールを投げた。



「らよっと」



右手で振り抜いたバットからカッキーン!!と木製ならではの音が響き…



ボールは天井の端っこに最初の時と同じような音を立てて当たる。



…つまり、完璧なホームランだ。

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