43

異世界から少年が来て4日後。



リザリーがユニオンに戻って3日が経つ事になる。



あの後直ぐマキナから電話があり、朝早くに戦闘機に乗って戻って行った。



なんでも研究レポートの提出期限が云々聞いたな。



ソレが終わったらまた戻ってくるから、それまで待っててと去り際?に言われた。



それからずっとこの宿屋に泊まってるが…



あの少年がギルドでなかなか活躍してるようで良く噂を耳にする。



たった4日でこの街での知名度がかなり上がったみたいだ。



まあでも少年が所属してるギルドは上から3、4番目だからなー。



規模的には微妙だが今から上に喰い込むのか?



「よう少年、朝早くからご苦労だな」


「あ、おはようございます。まだ滞在してたんですね…一本どうです?」



外に出ると朝早くから牛乳配達の手伝いらしき地味な依頼を受けてる少年が走り回っている。



「んー、コーヒー牛乳かフルーツ牛乳はあるか?」


「はい、ありますよ」


「じゃあソレを一本づつ貰おうかな」


「ありがとうございます…では」


「おう、ありがとう」



少年は二本のビンを渡すと忙しそうに走り去って行く。



この牛乳の代金は最初に札を数枚渡してあるため、ソレから引かれる形になっている。



「…元気ダナー」


「おっ、あんた今日は早いね」



もう見えなくなった少年から視線を外して呟くと宿屋の主人が出てきた。



「まあたまには…奢りだけど飲む?」


「ラッキー!ありがたく頂くよ」



宿屋の主人に一本渡して残りの一本の蓋を開けて一気に飲み干す。



「っぷはー!やっぱり朝はコレだね!ありがとよ」


「いえ、それで情報は集まった?」


「ああ…中で話そうか」



実は…って言うか最初から分かってたんだけど、この宿屋の主人は調停の使者だったりする。



調停の使者の定義は『世界のバランスを均一にして平和にする事』。



そして調停の使者は主に調停者の使者がスカウトする。



稀に俺のような調停者に直接会って話を聞き、調停の使者になるケースもあるが。



調停の使者へのスカウト基準は

『情報網が広く他言無用で見返りを求めず我が身を犠牲に世界を平和にする』

と言う人物に限る。



聞くだけではどこの聖人君子だよ…と思うかもしれないが、そういう人間は結構いる。



実際にはちょっと違うが、それでもスタンスは変わらない。



みんな大切なナニカ、誰かを守りたいと思っている。



大切な誰かを守るためなら我が身を捨てても構わない!と。



俺もその一人だし。



調停の使者はみんな『世界を平和にする事によって自分の大切な人達を守れるのなら…』と考えている。



俺の目の前の宿屋の主人だってそうだ。



だから必死に情報を集めている。



実はこの宿屋の主人も合わせた調停の使者の7割は情報収集専門ってば。



残りの3割が俺みたいに行動専門。



その割り振りは戦闘能力によって決まる。



戦闘能力が無ければ情報収集、有れば行動。



今の俺は調停の使者としての責務を遂行中…では無い。



完全にオフだ、言えばプライベートタイムである。



別に宿屋の主人に関連性のある事を聞いてるわけじゃ無いし。



この街の噂やらなんやら…ただの世間話だ。



ただ、内容が外では話せないってだけで。



「全く…邪神信仰団も最近活発になってきて困るよ」



そう、この邪神信仰団についてのアレコレを噂だろうとなんだろうと聞かれると厄介な事になる。



誰にって?もちろん邪神信仰団の信者共にだよ。



外で話して聞かれようものなら意味不明な難癖つけてきて面倒な事態になるんだなーこれが。



警察とか治安部隊が来ても一方的に喚いて噛み付いてくるんだぜ?



頭がイカれてるとしか思えん奴らだよ。



「その邪神信仰団?…って長すぎない?略称とかないの?」


「じゃあ…邪団か邪神団って呼ぶか?」



うーむ…どっちも微妙だ…まだ邪団の方が言いやすいではあるけどさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る