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「しゃーねえ…ミリア!」


「はいさーい」



…異国の南に位置する島の挨拶のような事を言ってマキナが鍵を持ってきた。



「はいさい?」


「はいはーい、を噛んじゃった」



てへっ☆と可愛らしく舌を出して俺の手と足の手錠を外す。



可愛いなぁ…今すぐ食べちゃいたい。



…性的にって意味ね。



本当に食べるってわけじゃないよ?俺は人間は調理しないと食えないし。



「バニシュ君と戦うなんて命知らずだねー…えい」



マキナは会長の背中を叩き無詠唱で魔術を発動させた。



「…!痛みが…消えた…だと!?」


「一時的に痛覚を麻痺させただけ、だけど気休めにはなるでしょ?」


「敵に塩を送るなよ…おっと」



リザリーの方から投げられた木刀を受け取ってマキナがこの場から完全に離れるのを待つ。



ハンデ無し言いがち木刀って事が既にハンデじゃねえか。



まあ学生相手に真剣ってのも大人気ねぇよな。



「ミイリ」


『はあい』



会長がなんかの名前を呼ぶと隣に女性が現れた。



「火の精霊…?」


『んん?その色って…もしかして貴方、ニーナちゃん達が話してた噂の君?』



どうやら俺は天界では結構な有名人らしい。



そういやニーナも精霊的な存在だったな…



ニーナとアニーとユリは多分精霊、ファイは…なんだろ?



男の精霊…か?…分からんな~、次会ったら聞いてみよ。



ってかただ忘れてるだけなんだけど。



何回聞いても覚えきれねぇなー。



「ニーナの知り合いか?」


『だけじゃなくアニーさんやユリちゃんとも結構話すわね』


「…知り合いか?」


『いえ?見るのも会うのも初めてよ、ただ…』



精霊は俺をチラ…と見るとまた会長の方へ視線を戻す。



『話には良く聞いてたわ。会えて光栄よ、私は火の精霊ミイリと申しますわ』



そして俺の前まで来るとお嬢様のようにスカートを軽く持ち上げて頭を下げた。



「ミイリ、そんな庶民に軽々しく頭を下げるな」


『ソレは私の勝手でしょう?』


「あいつは敵だ、やるぞ」



会長が手を横に払い臨戦態勢?を取るが精霊の方は乗り気じゃない。



『多分、今の主じゃ…あの人には勝てないわよ?』


「誰に向かって言っている?」



会長はイラついたように精霊に殺気を向けた。



『今の主の魔力量では難しい、と親切心で忠告してあげたのだけど…まあいいわ』



精霊は諦めたようにため息を吐くと剣に姿を変える。



契約主の魔力を消費して精霊の姿を変えさせた、いわばニーナの人化の逆パターン。



因みに、火の精霊は会長と契約を結んでるらしいけど…



ニーナ達はリザリー達と契約を結んでるワケではない。



確か…精霊や神獣と言った類と契約するには自身の魔力を対価にしてたはず。



んで精霊とかは魔力を糧に契約主の手となり足となる。



当然魔力の質や量が高ければその分強い精霊と契約が結べるが、質や量が低ければ契約は結べない。



つまり…使い魔を使役できるのは強い者だけ、と言う事だ。



あと、リザリー達はニーナ達を使役してるわけじゃない。



ニーナ達が自分の意思で手伝っている、に近いかな?



今でこそリザリー達を認めて仲良くしてるが…最初の頃はヤバかった。



リザリーもエルーもマキナも意識を乗っ取られて暴走しまくり。



しかも何十回も。



少しは止める立場にもなって欲しいよ。



何回死にかけた事か…思えば俺がリアルに死にかけたのはエルーの暴走を止めた時が初めてだったな。



そして始まりだ。



保健教師が治癒魔術を使える人じゃなかったら何年入院してた事か…



因みに治癒魔術と治癒魔法は違う。



治癒魔術は傷や病気を治すだけだが、治癒魔法はソレに加えて再生までできる。



今の所、治癒魔法が使えるのはエコー・アルバトロスを含めてたったの二名。



人類側では治癒魔法の使い手は賢者の内の一人のみ。



さて…話を戻そうか。



今、高等部の生徒会長は何回目かの素振りを終えた所だ。



直ぐに斬りかかってくるのかと思いきや、急にその場でブンブン素振りを始めた。



何かの伏線かと警戒したが…本人曰くただの素振りだと。



「よし行くか…死んでも怨むなよ!」



会長が俺の懐へ飛び込んできた。



そして剣を袈裟斬りにするように振り下ろす。



俺は右斜め後ろに下がるようにして避けて素早く半回転し、屈み込んで会長の足を払った。



「ぬおっ!」


「隙あり」



俺は足を払ったあとに地面に手を着き、倒立のように足を上げてそのまま踵落としを喰らわせようとする。



『残念』


「熱っ!」



会長は態勢を崩してるため確実にモロに食らうと思ったが、精霊が剣から人型に戻り両腕でガードした。



俺は直ぐさま火の精霊から足を離してバク転しながら距離を取る。

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