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「バニシュ……さん」


「もしくは村人Bな」


「むぐー、むぐー」



塞いだ手を剥がそうとするクレインに、本名はマズイ…と耳打ちして手を離した。



「て…バニさん!酷いですよ!」


「バニさんて…まあいいけどさ」



クレインってなかなか順応性がある子だな…



「ルメラちゃんはちゃんと良い子です!」


「お前の前では、な」



人は誰しも裏表の顔を持ってんだよ、と言うとクレインは黙って椅子に座った。



「とりあえず勉強をしろ、分からん所があったら聞け。答えられるかは知らんが」



俺の言葉に早速カバンの中から本を取り出す二人。



そして真面目に勉強をする事二時間。



俺はテーブルに突っ伏して寝ていた。



「バニさん、起きてください」


「ん?」



クレインに肩を揺すられて起こされる。



「この問題なんですけど…」



なになに…『魔術の詠唱方法の五つを答えなさい』?



なんだ簡単じゃねえか。



「何が分からないんだ?」


「詠唱、簡易詠唱、詠唱破棄、無詠唱の他にもあるんですか?」


「いっぱいあるぞ」



主に有名なのは複合詠唱、重複詠唱、大衆詠唱とかかな?



重複詠唱は前にリザリーとニーナがやってたやつね。



アレは二人だったから二重詠唱ってこと。



「大衆、重複、複合…」


「あまり知られてないのならまだあるぞ?」


「ホントですか!?教えて下さい!」



うーん…俺が知ってるだけで略式詠唱、増挿詠唱、複式詠唱、複製詠唱、減抜詠唱ぐらいだな。



念誦詠唱は……どうだろ、念誦(ねんじゅ)だけで良さそうだし。



「色々あるんですね…」


「まあ自分で新しい詠唱方を作る奴もいるけどな」



ナターシャは俺が言った詠唱方を全て紙に書き写してた。



こんなマイナーなもん覚えてどうする気なのかねー?



「ナターシャ、多分この問題は引っ掛けよ」


「?引っ掛け?」


「授業では簡易と破棄、無詠唱しか習ってないでしょ?おそらく他のは自分たちで調べろって意味かも」



うわー面倒くせー、コレだから学校は…



俺、養成学校で良かったー、あそこはひたすら鍛えるだけのカリキュラムしかないし。



なんやかんや盛り上がってる?二人を見て内心そう思う。



因みに俺やリザリー達の知識のほとんどは独学だ。



学校が休みの日に本などを読み漁って身につけた。



『戦いは力じゃなくて頭だ』と教官が良く言ってたな…



『考える事を放棄した時点で敗北したと思え、考えろ、そして感じろ、己の持てる力を全て戦いに活かせ』



教官が口酸っぱく言ってたなぁ…懐かしいぜ。



学生を見ると学生時代を振り返る不思議。



「どう?勉強は進んでる?」



リザリーが紅茶とケーキ、クッキーが置かれてるお盆を持ってきた。



「あ、ありがとうございます」


「お姉ちゃんありがとう」



えーと…女の子(名前忘れた)は未だにリザリーを見ると萎縮している。



「お姉ちゃん…?」


「いつまでもさん付けじゃアレでしょ?それともなに、文句?」


「いや、あり得ない事に似合ってるなー…と」



そういや、リザリーにはお姉さんしかいないらしい。



俺は勝手に三人姉妹だと思っていたんだが…どうやら違った。



「あり得ないとはなによ、またお仕置きするわよ」


「…両手両足を拘束か?SMプレイがマジに思われるぞ」



流石にあんな動き辛い状態は勘弁したい。



「お、お姉ちゃんとバニさんってそんな関係だったの?///」



俺たちの会話を聞きながら顔を赤らめる二人。

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