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それから二時間後。
「はぁ…!はぁ…!」
「なんだ?もうヘバッたのか?」
「だ…まれ…!」
少年?はさっきよりも遅い動きで俺に斬りかかってきた。
「違うだろ、直線的に行くんならもっと速くだ…その速度ならフェイントとか緩急をつけた方がいいな」
半身ズラして軽く避けてアドバイスする。
もはや一時間前から斧を使ってすらいない。
こいつの動きに慣れたからか全て避けている。
「俺が半歩右に避けた、なのに剣を直線に振り下ろしてるだけじゃ当たらんぞ」
「うる…さい…!お前も……結局は……!」
ザワザワと少年?の髪が動き出す。
風の流れが変わった…?いや、こいつの魔術か。
すいっと右に移動するとさっきまで立っていた地面に亀裂が入った。
真空の刃…いや、かまいたちを縦に放ったのか。
「奥の手はとっておく…コレは教えるまでもなかったな」
ありゃ、せっかくいい所なのに姫様が来ちまった。
「村人B、何をしておる」
お姫様が宮殿側から優雅に歩いてくる。
「ん?テロリストの退治?危ないから戻って」
次々と襲いかかってくるかまいたちをひょいひょい避けながらお姫様の元に向かう。
「あの顔…ぐっ…!」
少年?が姫様を見た途端に頭を抑えた。
「なんだ…!?この頭痛は…!俺は…あいつを、知って…?ぐぅ!!」
俺とお姫様が不思議そうに少年?を見てると相当酷い頭痛なのか呻き始める。
「ぐうぅ…!痛い…何かを思い出そうとすると…!頭が割れるようだ…!!」
「………!まさか!貴様、リネンか!?」
「知り合い?…てか危ないて」
お姫様が驚いたように頭を抑え呻く少年?に近づこうとした。
俺はお姫様の前に腕を出してこれ以上近づかないように制する。
「私の数少ない友達で幼馴染だ、7年前に行方不明になったと聞かされたが…生きていたのか」
わお、ナニソレ…小説みたいな展開だあ。
普通じゃありえん…うーん倒錯的だねぇ。
「ぐ…うぅ…!…うっと…おしいん…だよ!!」
「!?」
ありゃりゃ、言わんこっちゃない。
少年?が叫ぶと俺とお姫様の周りが空気の無い真空状態になった。
まあ俺には空気なんて無くても多少は動けるんだけど。
魔物になって肺活量もかなり強化されてる。
人間の時は息を止めても動かなければ8分は保ってた。
動けば5分ぐらいしか保たなかったったけど…
今は動かなければ1時間とちょっと、動けば一時間ギリいかないぐらいは保つ。
つまり…俺は良いとして、お姫様が問題って事だ。
無呼吸状態がどれだけ続くかは精神状態によっても左右されるし。
「…!?」
どうやらあんまり続かなそうだ。
うーん…空気を送り込むにはマウス・トゥ・マウスだけど、お姫様が初めてだったら気まずいよな?
俺はポーチから風船を取り出して膨らませる事にした。
間接なら気にしないだろう、多分。
風船は二酸化炭素を出さないで、酸素だけで膨らませる。
人命救助?の空気を送り込むマウス・トゥ・マウスの応用編。
人間は呼吸する時に空気を吸い込んで二酸化炭素を吐き出す。
…水中とかで酸素不足で苦しんでる仲間にそのままマウス・トゥ・マウスで息を送り込んだら、二酸化炭素中毒になる可能性が上がるって事だ。
酸素不足で二酸化炭素を送り込まれたらたまったもんじゃない。
まあ酸素を送り込む方法はぶっちゃけると呼吸方だよね。
詳細は企業秘密…と言う事で。
そんなこんなで膨らませた風船の口を姫様の口に咥えさせる。
周りが真空状態だからねぇ、下手に動けねぇんだよなー。
俺一人なら速攻で倒すけど…ほら、護衛対象のお姫様がいるし。
敵の状態を見てもこの魔術はそう長くは続かなそうだから動かなくても大丈夫でしょ。
そして俺の予想は当たり、約五分で真空状態は解除された。
解除されると同時に俺は姫様を抱え、その場からダッシュで離れる。
真空状態の恐ろしさは『息ができない』だけじゃない。
真空状態から元の状態に戻ろうと、周りの空気や分子を急激に引っ張り…ソレらがぶつかり合う。
わかりやすく言うならば爆発だ。
風属性って厄介なんだよなー…いや、魔術を使える奴はみんな厄介だけどさ。
真空状態の軌道や形を変えれば真空の刃や真空波になる。
今みたいにドーム型にすれば爆発…
アレ、真空って攻撃に超向いてんじゃん。
俺はお姫様を抱えたまま少年?の後ろ側に移動した。
「いやー、ヤバかったね」
「なぜだリネン!なぜ私に攻撃する!」
「あ、ちょっ!」
お姫様を地面に下ろした途端に少年?に向かって駆け出す。
「目を覚ませ!お前は…お前は本当は優しい男だっただろう!」
お姫様は片膝を着いてる少年?の両肩を掴んで揺さぶった。
…コレってあれだよね?フラグ立ってるよね?まじか…
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