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「ふむ…あの一緒にいた女性は元同僚、と言うわけか」


「ご名答…と言いたい所だけどちょっと違うな、一応今は友達…的な立ち位置だと思う」



幼馴染ではあるが、マキナとリザリーは友達かどうかよく分からんからな。



「まあ大体は察しが付いたぞ、腑に落ちた」



王女はカップを取ってふんぞりかえるようにミルクティーを飲む。



さっきまで少し怯えてたのに…元に戻りやがった。



なんか惜しい事をした気分だ。



「そう言えば…さっきの奴から取った紙、見てみ」


「む?……なんだこれは!!」



姫様は俺から紙を受け取るとテーブルをバン!!と激しく叩いて立ち上がる。



店内の少数の客が驚いたようにこっちを見た。



すいません、すいません…と軽く頭を下げて謝る。



「凄くね?姫様の首に100億だよ?今、姫様を殺せば一生遊んで暮らせるキャンペーンを開催中。らしいな」


「やはり貴様も金が欲しいのか?」


「冗談!あんなんいっぱい持っててもでしょ」



姫様の疑いの目線と声を俺は鼻で笑って一蹴した。



「そうなのか?」



意外な反応だったのかキョトンと顔で聞いてきた。



うん、そうしてれば姫様も普通の女の子と大差ないのに。



「今の俺に大金なんて興味の欠片も無い、そこいらの埃と同価値だぜ」



魔物の俺が金なんて持ってても意味無いしな。



『欲しい物は自分の力で手に入る』


強盗、泥棒、盗賊、強賊、山賊、海賊そして魔物の心得だ。



今挙げた行為は人の事を微塵も考えないという人でなし、だからこそ出来る事。



魔物に人の事を考えろなんてちゃんちゃら可笑しいわ、って話しだろ?



「…変わってるな」


「惚れたか?いやー俺ぐらいイケメンだと仕方ないかな」


「その余計な一言が私の好感度を下げた」



ワザと下げたんだよ、ハーレムなんて作る気ないし。



鈍感な主人公だと、無自覚で女の子に気を持たせるだろ?



俺、アレ嫌い。



最終的に選ぶのは一人なのに…他の女の子を無駄に傷つけるだけやぜ?



…ほとんどが後先考えないから仕方ないと言えば仕方ないんだけど。



でもどれだけ酷い事をしてるかぐらいは…ねえ?



自覚して欲しいと思う。



主人公に惚れてる女の子に、惚れてる男の気持ちを考えた事はあるかい?



まあ逆転の発想で主人公にフられた直後に近づけばオトし易くなるけどね☆



知ってる?女の子って傷ついてる時に優しくされたら簡単にオチるらしい、って事。



…だから悪い男に引っかかったりするんだけどさ。



でも、ソレは主人公にフられた後の話。



主人公に夢中になってる間はアウトオブ眼中なんだぜ?



いくら女の子の為に尽くしても『ごめんなさい、私…好きな人がいるんです』の一言で終わる。




どんなに頑張っても振り向いてくれない女の子を、好きになった男の気持ちが分かるかい?



自分の好きな女の子が報われないと分かってる恋に全力を尽くしてる姿を、どういう気持ちで見てるか分かるかい?



ってか女の方からアプローチしてくる、ってどうよ?



流石に複数の女から言い寄られたらどんなバカでも気づくだろ。



無自覚は罪じゃない、自覚しようとしない事こそが罪なのさ。



おっと、脱線しまくった。



まあ俺は人を好きになった事がないから全っ然、全くその気持ちが分からないんだけどね。



色んな小説を読んでるとなんか…ねえ?



女の子を大事にしない主人公に殺意が沸いてくる。



「どうした?大丈夫か?」


「姫様の一言が俺の心にグサッときたんで」



考え事をしてると俺の目の前で姫様が手を振っていた。



「そんな酷い事言ったか…?」


「冗談だよ、冗談」



軽く笑ってジュースを飲み干し店員を呼んでおかわりを頼む。



どうやら姫様も俺と同じのが飲みたいらしく、もう一つ追加で頼んだ。



「特製ドリンク2つお持ちしました」


「ども」


「む、ごくろう」



置かれたジュースの一つを姫様に渡して残りの一つを飲む。



「あま…」



姫様はジュースを飲んでついそんな一言を漏らす。



「お前はなぜこんな物を平然と飲めるんだ?」


「え?甘くて美味しいじゃん」



姫様が理解できん…と言いジュースをお冷やで割ると、喫茶店のドアが勢いよく開きいかにもな不良達が入ってきた。



「あ!こんな所にいやがった!」

「おいあんた!探したんだぞ!」

「さっさと来やがれ!」



俺を発見するや否や重なるように発言する不良達。



「ぐああ!!」


「態度がなってないなぁ…お前ら雑魚が俺と姫様になんでタメ口なの?姫様より強いと自惚れてるの?」



俺の肩を掴んだ不良の腕を掴んで折れる寸前まで捻る。



「それぐらいで勘弁してやれ、話が進まんではないか」



ミシミシ…と捻った腕の骨が軋む音が聞こえ始めたあたりで姫様が俺を止めた。

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