18
「うーん…今、何時だ…?4時50分…起きる時間かよ…」
ふと目を覚ますとアラームが鳴る10分前だった。
備え付けの風呂に入り一緒に服を洗濯してからギュッと絞り、そこらへんのハンガーを取って干す。
今の俺の格好は生乾きのパンツを履いただけ、つまりはパンツ一丁だ。
まあ服は20分もしたら乾くと思うし…さて、生地を捏ねてパンでも焼こうかな。
王女が起きる前に朝食の準備をして、アタッシュケースを開けて勝手に片付ける。
アタッシュケースAが衣類。
アタッシュケースBが生活必需品の雑貨。
アタッシュケースCはその他、で分けた。
あ、姫様の昨日の召し物を洗わないと。
洗濯機で洗っても大丈夫かな?一応表示マーク的なのを見て洗うか。
結果、全部手洗いだった。
頑張って洗い、干してから朝食を作る。
現在時刻7:43、そろそろ王女を起こさないといけない時間が迫って来ていた。
「う~む…おはよう…」
丁度紅茶を淹れ終わった時に王女が起きてくる。
「寝起きは姫様と言えどもだらしねぇな」
「む?貴様、誰だ!」
俺を見て急に険しい顔つきになって臨戦態勢を取り、構えた。
「昨日の事覚えてねぇのか?姫様の護衛だよ」
「…そうか、思い出した…村人Bか」
構えを解いて俺が引いた椅子に座る。
「言葉使いや態度は気に入らんがバトラーとしての礼儀はなってるようだな」
「言っとくが俺は執事じゃねぇぞ」
潜入任務で何回か屋敷に執事として潜り込んだ事はあるがな。
疑われないように必死になって勉強して振舞ったから…多分その時の癖が抜けないんだろう。
まあ元々が女性至上主義と言うのもあるかも。
レベルが高い女性限定だけど。
「ほい、紅茶…モーニングティーだな」
「うむ、今日の朝食はなんだ?」
「ベーコンエッグとタコさんウインナー…あとツナサラダ」
皿に盛り付けた料理をキッチンからテーブルに運ぶ。
「そうか」
「待て」
俺は早速食べようとナイフとフォークを取った王女の手を掴む。
「…なんだ?」
「いただきます、が抜けてるぞ?」
いきなり手を掴まれたからか王女は不快感を露わにして眉間にシワを寄せた。
「なんだそれは?手を離せ」
「命っつーのはな…虫も植物も動物も人間も平等だ、食べるにはそれなりの礼を尽くすっつーのが礼儀だろ?」
俺が他人に道徳を説くのはいつぶりだ…?
いくら俺でも殺す時には何も思わないが、食べる時だったら感謝ぐらいはするぜ?
まあソレを俺が言う矛盾感は際限無いけど、間違ってないからいっか。
「は?何を言ってるか分からんな」
王女の反応に俺はちょっとピキッとくる。
「いいから言え」
「…い、いただきます…」
有無を言わせぬ雰囲気を恐れたのか王女はボソボソと呟いた。
俺は手を離してそのままキッチンに行って自分の分をテーブルに運び、いただきまーす。と合掌?する。
「ほら、着替えてこい」
俺はアタッシュケースから着替えを出して王女に渡す。
「?調印式は夕方からだろう?」
「ああ、観光したいんだっけ?じゃあ…あと少し待ってな」
渡した着替えをそのまま受け取りアタッシュケースに戻して、皿を洗う。
「よし、行くか」
結局使わなかった魔札を回収して鍵を閉めフロントに預ける。
あ、一応言うけど…今はパンツ一丁じゃないよ?
姫様が起きてくる少し前に着替えてるし。
ってか姫様の格好可愛いんだけど…ナンパとかされるだろうなぁ。
「嬢ちゃん可愛いね、どう?俺と遊ばない?」
「ん?なんだ貴様は?」
俺の心配が的中する。
ホテルから出てわずか10分でチャラい格好の男にナンパされた。
「すいません、俺の連れなんで」
「ああ?チッ、なんだ野郎付きかよ」
俺を見ると悪態を吐きながら去って行く。
それからと言うもの、10分おきぐらいに王女はナンパされた。
その度に、俺の連れですー。とか、止めて下さい。とか、鏡見て出直せ。とか…
面倒くせぇー、そろそろヤンキーみたいのが出てくるんじゃねえか?
「村人B!あれはなんだ?」
「ああ、あれは…」
実は姫様はユニオンに来るのが初めてだったらしい。
時間まで近くの観光名所を回る事にしたんだけど…
精神的に疲れるのなんのって、ねえ?
「おいおい、釣り合わないカップルがイチャイチャしてるって聞いて来てみれば…」
「ぎゃはは!本当に釣り合ってねぇな!」
やっぱりきた…まあお決まりっちゃあお決まりか。
前もその前もこんな事あったし。
俺の故郷の言葉で言えば、二度ある事は三度ある。ってやつだ。
「おい、ちょっと付き合えよ」
12、3人ほどで囲まれている…ここじゃ人目に付くし、別にいっか。
「なんだこいつらは?」
「暇潰しにはなるんじゃない ?」
とりあえず王女の肩を後ろから掴んで押すような形で移動する。
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