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「な…な…」



『な、なんたる剣捌き!!目にも止まらぬ速さで傭兵20人を斬り伏せたぁ!!まさか今まで剣を抜かなかったのは実力の差ゆえなのかぁ!?』



…あいつ実況のプロだな。



普通ならこんな予想外の死人が出たら客席がパニックになる所を、見せ物のように扱いやがった。



一瞬シーンとした客席もわあぁぁ!ってまた湧き上がったし。



「さて、聞きたい事があるんだが?」



腰を抜かしてるおっさんの首に剣の先を突き付ける。



「ひっ!な、なにが聞きたい!?」


「あの槍を持ってきた奴を教えろ」


「あ、あの槍は…あの実況の隣に座っている奴から買ったんだ!」



ん?あいつか…よし、後で必ず殺そう。



「たのむ、その出来損ないの人魚はくれてやるから命だけは…!」


「あ?どういうことだ?」



MK5って昔はやった言葉を知ってるかい?



マジでキレる5秒前って意味らしい。



今の俺はまさにそんな状態なんだけど。



「ひっ!魔物との遺伝子がうまく結合せずに反作用を起こしているらしい!あと一ヶ月も持たないと聞いた!」


「お前ゲスだな」


「わ、ワシはただ廃棄処分になるのを買い取っただけだ!むしろ少しの間長生きさせたと言ってもいい!」



振り上げた剣をおっさんに当たる直前で止める。



「チッ…少しは命の恩人てわけか、じゃあ殺すのは勘弁してやる」



俺は剣を鞘に収めるとクレインの所へ向かう。



「とりあえず宿に戻るか」


「え?あ、はい」



へたり込んで放心状態だったクレインを背負って水槽を押す。



おっと、愛槍が入った箱も水槽の中に入れとくか。



『今回の大会はコレでお開きだぁ!!次の大会も楽しみにしていてくれよー!!』



鉄門をくぐって闘技場から出て一旦換金所に向かい、換金してから今まで泊まっている宿に向かった。



いやー、優勝賞品の水槽を台車で運んでると目立つのなんのってねぇ。



「え…?お母…さん…?」


「な、ナターシャ!?なぜここに!?」



宿に着いてクレインをソファに座らせるとどうやら正気に戻ったみたいだ。



水槽の中にいる人魚を見て驚いていた。


まあ驚いてたのは人魚の方もだったけど。



愛槍が入った箱を水槽から取り出して開け、久しぶりの感触を確かめる。



さて、と…今夜ユニオンに帰るとして宿の人に色々と口止めしとかないと行けないか。



「俺はちょっと出てくるから母娘水入らずでな」


「あの、どこ行くんですか?」


「ん?復讐に近いかな?俺の愛槍を盗んだ奴を殺してくる」


「…!き、気をつけて下さいね」



笑顔で明るく言ったつもりだったがクレインは戦慄していた。



闘技場に行く前に受付の人に口止め云々の話し合いをして口止め料を渡す。



うーん…口止め料で500万は少な過ぎたかな…?まあいいや、帰りに銀行で小切手を現金に変えよ。



闘技場に着くとまず最初に実況をしてた人を探す。



そこらの警備員に聞くとすぐに教えてもらったから手間はかからなかった。



教えてもらった部屋に入り実況の人を確認すると、すぐ近くに目当ての人を発見。



「ん?これはこれは…道化師のピエロ選手、なにか用ですか?」


「そいつに話があってな」


「俺?」



一応確かめないと…違う人だったら大変な事になる。



「あの槍を魔王城から盗んできたのはあんたか?」


「ああ、俺だよ。大変だったんだぜ?」



それから男は得意気に自慢話を始めた。



「俺の槍を盗んだ代償は重いぜ?なんせこんな茶番劇に付き合わされたぐらいだからな…死をもって償え」


「…!な!?」



男が話してる最中に剣を抜いて斬りかかった…が、驚いたように腰に差してた剣でガードされる。



ふむ、なかなかやるな。



「う、うわぁ…!!」



実況をしてた奴が情けない声を出して部屋から出て行くのを見送ってから、盗人の男を細切れになるまで切り裂く。



その後にドアの鍵を閉めてイスやらテーブルやらでバリケードを作った。



そして元人間だった細切れの肉片の血を少し舐めて銀行のそばの路地裏に影移動する。



「お、お客様…大変申し訳ないのですが、どのようなお仕事をされているのですか?」



銀行で小切手を現金に変えようとしたら店長みたいな人から質問された。



「ん?ああ、今回のコロシアムで大穴として参加してた」


「なるほど、御疑いして本当に申し訳ありませんでした」



まあこんな短期間に大金を何回も引き出してたら怪しまれて当然か。



ちなみに金額が35億7000万らしい。



現金で用意するのに時間がかかるって言われた。



待つこと30分、ようやく持ってきたカバンを返される。



かなりの額の現金が入ったカバンを持ったままそこらに買い物に行く。



絡まれる度に返り討ちにしてたのが広まったのか、流石にもう絡まれる事は無いっていう。



かなりの量の買い物を済ませて宿に戻り、お疲れ会みたいな小パーティを開いた。

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