25

「うう…南無阿弥陀…」


「なにワケの分からない事言ってんのよ」


「だってよ…」



俺は目の前にある大量の白紙のカードを見てため息を吐いた。



「もう1000枚は書いたぞ?」


「それじゃ足りないわよ」


「自分の分と合わせると2000枚は超えてるぞ?」



俺が魔札と魔石の研究を完成させてから早一週間。



俺はリザリーとマキナによって研究所に監禁されずっと白紙のカードに術式を書かされていた。



なんでこんな事になったのか…始まりは自分のためだったのに…



俺が自分で使う分の魔札を書いているとリザリーが、あら、丁度いいわ…これもお願い。と押し付けてきたのである。



ただ覚えている術式を書くだけならまだいい。



だが奴は紙の束を持ってきてコレを写してね、とか吐かしやがった!



毎日毎日見た事もない術式を写経のように白紙のカードに書き写す作業をしてたら、南無阿弥陀仏と言いたくなるのも当然だろう?



…俺は坊さんか!



ちなみに今使っているインクはデロッサの血と油性のインクを混ぜた物だ。



自分の物は当然自分の血で書いたけど。



その時はリミッターを外して魔力をひたすら込めた血を99%と、濃ゆい油性のインクを1%混ぜ合わせた特製のスーパーなインクを使った。



約1000枚弱で、当然全部ラミネート加工済み。



雨の日だろうが台風の日だろうが嵐の日だろうが使える。



火の中、水の中でも使えるようにラミネートにも更に特殊な仕様を施した。



…完璧だ!完璧過ぎて自分が怖い!



だが一つ誤算があるとすれば…





調子に乗って思わずリザリー達に自慢して見せびらかした事だろうか。



おかげで今の状況に陥ってるのだから。



「終わった?じゃあ次は雷系の術式を…」


「まだあんのかよ…」


「安心なさい、コレで最後だから」


「だったら自分で書けよ」


「私とマキナの二人掛かりで書いてもあんたの三倍の時間はかかるから嫌よ」



俺の説明を聞いてると分かりにくいかもしれないが、実は術式を書くだけでも結構な時間がかかる。



俺は昔取った杵柄で今でも早く書けるけど。



きねづかってなんだっけ?何かの柄か?



…まあいいや。



書く時間にして一枚30秒くらいかな?



俺は簡易的なルーン文字を全部調べて覚えているけど、普通の人はちゃんとしたルーン文字で書くんだよね。



決して俺が速筆なわけじゃないよ?



逆に普通の文字だったら書くのは遅い方だし。



「ぐおぉ…!南無阿弥…!」


「…この束は持っていくわよ」


「おう」



なんで俺がこんな面倒な事を引き受けたかと言うと…



ご褒美としてコートがもらえるからだ。



コートの内側に魔札を入れるポケットを作ってくれる、と言われて即引き受けた。



魔札の大きさはだいたい横4cmに縦8cm、幅は0.4cm。



トランプの大きさとだいたい似たかたーかな?



…流石に1000枚弱をそのまま持っては歩けんし、この交渉はお互いの利益が一致した瞬間だった。




世の中ギブアンドテイク…善き哉善き哉。



「お…終わった…」


「お疲れ様」



結局魔札を全て書き終わったのは日がどっぷりと暮れた頃だった。



明日からは起きてすぐに写経…もとい魔札を書かなくても済む。



もう手首が腱鞘炎になるかもしれない…と心配しなくていいんだ。



「フリーダム万歳!」


「全部で5372枚…コレだけあれば足りそうね」


「1000枚どころじゃねぇー」


「宝石の数が2500個までしかないわ…魔石もそれぐらいかしら」



魔石…そう言えばマキナは俺が書いた魔札を投影魔術で石にトレースしてたんだっけ?



ぶっちゃけ宝石も石も魔石にするんならあんま変わらないけどな。



そこらの石ころでも投影魔術を使えば魔石にできるのに。



まあ宝石の方が当然段違いでレベルは高くなるけど…でもその分高価だし。



金が無いと出来ないよなー…



「明日あたり知り合いの彫金師の所へ持っていこうかしら」


「…俺に聞こえるように言ってるって事はまさか?」


「あら、鋭いわね」



マジか、俺も強制的に連行されるパターンのやつだ。

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