3 二人のセッション

 外には雪が降っていた。あれだけ熱気を漂わせていた町は静まり返り、私たちの活動を迎える様だった。

 病院での行動のしやすさを考えてなのか、夏帆は随分と軽装だった。私のマフラーを首に巻き、少しでも暖を取った。体は割と軽い。

 食事とかちゃんととってるのかな。血が滲む包帯の先にある肢体の様子、大丈夫だろうか。


「気にするなよ、負荷かけ過ぎてただけ。しばらくしたらちゃんと立てる」


 悴む手で押す車椅子を握りしめ、冗談じゃないことを願った。


「本当だよね。立てる、よね」

「安心しろよ、空気は読める方だ」


 ああ、そうだ。夏帆が真面目な場面で冗談を言うことなんて滅多にないし、正直な奴だと私は分かっていたはずなのに。どうしても、不安がよぎってしまっていた。信用をしなくちゃ。最愛のパートナーなのだ。


「……私ね、あの後女帝と会ってきたの。でも、何故か本名で呼べなかったの」

「なにそれ」


 笑う。人を小馬鹿にするような。やっぱりこいつはこいつなんだ。


「きっとそれ、私たちだからの事だと思う。なんていうかさ、女帝っていうのは私たちが躍ってられる、条件みたいなもんなんだよ。絶対に彼女がいないと何もできないと思うんだ」

「そうなのかな」

「そうさ。あ、あれ。あれだよなんだっけ、フォン?」

「ファンね」

「それそれ」


 ファン、か。確かに女帝は夏帆のそれで、そうでありすぎるからああなってしまったんだ。私たちを思うがあまり、少しずれた行動をとってしまったんだ。


「あー、もっと踊りたいなー」

「雪ばっかりだよ」

「雪の上で踊ったら気持ちいかもな」

「バカ言わないでよ」


 子供の様に手足を振り回す。冗談混じりに、私がカノンを口ずさみながら。

 私たちのセッションは、あの公演会が最後なんかじゃなかった。こうして誰かに見られながらではなく、最高のパートナーと二人だけで楽しみながら。


 そう、ダンスとピアノのように――

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ダンスとピアノ 酔歌 @suicaa

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