4 沙合と協力

「柳が?」

「うん」


「あのヤンキーがねぇ」

「その言い方やめてよ」


 先日のコンサート以来、夏帆は暗がりに逃げ込んでしまった。学校にも来ず、しばらく顔も見ない状況にあった。

 あの公演で、女帝に魅せられたコラボダンスを、夏帆は重くとらえているんだろう。それは自身のプライドの様なものではなく、私に対しての礼儀を感じているんじゃないだろうか。本当は、すごく優しい子だから。

 だから、君に頼むしかない。夏帆を唯一理解している男子、同じ中学の椎原嬰しいはらえい。君しかいないんだ。


「嬰、協力してほしいことがあるの」

「何さ」

「夏帆にダンスをやらせる」

「本人が嫌がってるのにか? そりゃちがう」

「だけど……」


「沙合が柳にしてやりたい気持ちは解る。そりゃ俺だってハッピーエンドを望んでいるわけだけど、それがあいつのして欲しいこととは限らん」


 嬰の言うことももっとも。そりゃ、それが夏帆の本当にしてほしい事かなんてわからないけど……でも、私が夏帆にできることっていったらそのくらいだから。


「お願い」


 頭を下げるって、たぶん私が知ってる中で一番丁寧なお願い方法だ。誰でも謙譲心を感じるわけじゃないと思うけど、それでも、夏帆のために。というか、こんな状況が続くなんて、こっちから願い下げ。


「まあ、やってやらんことはないけど」

「マジで!」

「あいつのためになるかは知らんぞ」

「それは私が保証する」


 協力者が一人できた。これだけでも大きな一歩だが、私にはもう一人仲間に加えないとどうしようもない人物がいる。要求だけ伝えて、私は別の場所へ向かった。


 例のバス停。雨の中いつもより遅く到着すると、やっぱりそこには彼がいた。


「今日もいるんだね、ヨッシー」

「……もちろんです」


 夏帆が閉じこもってからも、バス停でヨッシーは待っていた。恋心と不安感に駆られて、いつもより早く、そして長く待っていたこともあった。それだけ、夏帆が好きなんだ。だからこそ。


「ヨッシー、協力してほしいことがあるんだ。とっても大事なこと」

「何をするんですか?」

「夏帆を更生させる」


 一覧の件を口頭で伝え私は、夏帆が本当に好きなら協力してほしいと伝えた。


「そうですか……僕のせいで、僕がダンス見たいなんて言うから夏帆さんは……」

「違うよ。ヨッシーは悪くない。あいつの独りよがり」

「そんな……」


「気持ちに封をしているのよ。本当にやりたいことができなくて、落ちこんでる」

「それは、分かります。自分の特技を奪われたりして、黙っていられる人なんかいません」

「うん。でも、夏帆は黙っちゃうの。優しいから」


「……協力します。夏帆さんのダンス、やっぱり見たいですから」


 まったく、どこまで良い子なんだ。

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