2 夏帆とリンク
「ただいまより、第7回学生ダンス公演会を行わさせていただきます」
席についてから10分後ほど経ってから、そのコールと共に幕は上がった。シート上には社会人かと思われる人や、もちろん学生も多くいた。
ただ私が驚いたことが、意外にも男性の割合が多いことだ。
「初めて参加したの、中一だったよね。何回目だっけ」
「3回目、かな」
当時はダンスというと、割と女性向けであったように感じられる。そもそもバレリーナのように変体を彷彿とさせる動きが多かったり、やはりまだダンスが男性社会に浸透していなかった。そう感じていたが、たった4年でここまで変わるのかと思うと、ヨッシーの夏帆に対するダンス欲も分かる気がした。
「けっこう男の人いるんだね」
「……昔はさ、女帝みたいな人がいたんだよ。その人のおかげで、軽いネズミはねみたいに男の参加どころか視聴すら認められないコンペが多かったのさ」
「なにそれ、独裁政治?」
「みたいなもんさ」
パンフレットを私に渡した。
「今じゃ3組も出演する」
「へー。女帝さん、もうダンス辞めちゃったんだ」
「いや、やめてない。大トリさ」
「沙合、一組目始まるぞ」
夏帆の瞳は、何時にも増して真剣だ。過去の経験からか、楽しんでいるようには見られない。きっと。しょうがないという一言で片づけたくはないけれど、やっぱり、しょうがないよ。
パンクな音だ。それに伴って女子高校生が躍る。美しい旋律に合わせてなめらかなダンスが炸裂する。力強い。
だけれど、どこか分断されている。音楽とダンス。そのコンビネーション。私には分かる。いや、私にしかわからない。これは、生の音じゃないからだ。生きている私のピアノと、仮死状態の録音。圧倒的な差が頭の中に広がる。
5分休憩が入り、再び会話できる環境に入った。夏帆は、満を持して私に話しかけてきた。
「沙合、これさ、見てて楽しい?」
「……夏帆」
「私はさぁ、沙合とあのコンサートホールで共演できたあの瞬間が好きだった。だけどさ、これは違うじゃん。これは、ただ好きに踊ってるだけ。
私は、誰かに見せて、誰かとリンクしたいんだ。きっと」
「……そうね。それは同意だわ」
「……だから」
「でも、最後まで見て行きましょう。彼等だって、ダンスが好きなはずだから」
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