38th try:Return
前略、父さん、母さん。
この世界は最低です。
いきなり召喚されたと思ったら、わけのわからない呪いをかけられ。
そのせいで、女の子とイチャイチャどころか、まともな生活さえ送れず。
触れたら即死という環境で、なんどもなんども色んな形で殺されて。
挙句の果てに、唐突に出会った魔王から、お前は単なる人形だと言われました。
185人目らしいです。
あ、そう考えると俺はあなた方の本当の息子じゃないってことになりますね。
すみません。慣れ慣れしくしちゃって。
はは。ははは。あはははは。
……。
俺は今、すべての元凶である女神の元に向かおうとしています。
そうするしか、どうやら自分が自由になる方法はないようなのです。
拒否権はありません。
援軍もありません。
魔王からはサポート用の道具をいくつか渡されましたが、本当に気休め程度です。
もう一度いいます。
父さん、母さん。
この世界は最低です。
※※※
異空間を開けると、そこは洞窟だった。
壁際で揺れるたいまつの炎。鼻を刺すかびと湿気のにおい。
幾度も幾度もここで戦い殺された記憶に、奇妙な懐かしささえ覚えてしまう。
迷いの森の洞窟。
そこに俺は転送されていた。
俺がいま立っている場所は、細長い通路だ。
通った記憶がないところを見ると、どうやら洞窟の出口側に近い場所らしい。
俺は部屋の中央へと歩み寄る。
戦いのときに俺がぶち抜いた天井から、明かりが差し込んでいた。ハイネの城では一日中赤い日が差すためわかりづらかったが、どうやら今は昼のようだった。
穴の向こうから、にぶい爆発音が聞こえてくる。
上がる歓声。続いて、連続して何かが破裂するような音。
どうやらここはすでに戦場になっているようだった。
――あまり長居もしていられないな。
そう思ったそばから、通路を複数の足音が近づいてくる。
身を隠す間もなく、広間の入口側のドアが開いた。
「――ッ!」
俺は絶句する。
やってきたのは三人の男だった。
いずれも兵士の恰好で、複雑な文様が刻まれた革鎧を身にまとっていて、その全員が、本来は動けるはずもないケガを負っていた。
ひとりは鼻から上が消失していた。
ひとりは右手が肩口から消失していた。
ひとりは腹に大きな穴が開いていた。
にも関わらず、彼らはまったく平然とした様子で広間へと入ってきていた。頭のある二人の顔には、苦痛のかけらも浮かんでいない。……というより、表情がない。
さっきの会議で魔物の一人が言った『人形』という言葉が頭をよぎる。
事実……彼らが怪我をしているその傷口からは、血の一滴も漏れていなかった。傷の断面からは、光沢を帯びたワイヤーのようなものがはみ出している。
こいつらも魔装人形なのか。
ガラス玉のような目が、広間の中央に立っている俺をとらえた。
思わず身構える。
くそっ、ここでさっそく戦闘かよ!
しかし、やつらは動かなかった。
相変わらずしばらくじっとこちらを見ていたが、やがてくるりと背中を向け、何事もなかったかのように去っていく。
見逃された……のか?
俺の見た目が人間だったからだろうか。
ほっと一息をついたのもつかの間、再び遠くで爆発音が響き、地面が揺れた。
行かなくちゃ。
俺は地面を蹴り、天井に開いた穴から地上へと飛び出す。
間髪いれずにもう一度ジャンプし、樹上へ。木々をつたって、森の外に出る。
幸いにも、魔物側にも人間側にも見つかることはなかった。
目の前に広がるカビナ平原――
生い茂っていた金色の草は焼け落ち、ところどころに残り火がくすぶっている。
地平線の近くで、いくつものうごめく点がぶつかりあっていた。花火のような閃光が断続的にひらめく。
風に乗って漂ってくる、焦げ臭いにおい……。
ふと木の上から目にした先に、大きな人型の穴が開いていた。
俺が最初にこの森へと訪れたときの墜落痕だ。
空を見上げる。
あの日も、今も、空の色は変わらない。
俺は地面に降りて、クラウチングスタートの姿勢をとった。
街の入り口や城門で、グズグズしている暇はない。
ここからアルメキア城まで、一気に飛んでやる。
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