第6話

気を取り直して、さらに荷物を確認し始める。


食糧、といっても缶詰三つ。これは本当に食べ物がないときの、いわば予備だ。


マッチ、一箱。

野営をするときなどに。


そして、はじめての勇者ハンドブック。


これは六年ほど前に有名になった本だ。とある勇者が、旅の中で必要な知識をまとめたもので、その内容は多岐に渡る。ミナトが勇者を志すきっかけにもなった。その証拠に、勇者国家資格赤本とは違い、擦り切れてぼろぼろになっている。


ハンドブックには、勇者の旅の過酷さと、そしてそれ以上のやりがいが詰まっていた。ミナトはまだ見ぬ仲間たちを思い、ハンドブックを胸に押し付ける。


「早く仲間が欲しいなあ」


柴犬のシーバは、ミナトの袖を咥えて、ひと吠えする。


「わふばふふ(そろそろ休憩、終わりにしないか)」

「そうだよなーシーバも仲間が欲しいよな?」


愛犬の心中をまったく察することなく、ミナトはぶんぶんうなずく。


「やっぱ魔法使える系の仲間がいると助かるよなあ。俺は勇者だから戦闘系だし」

「ばふわうううわ(おまえ、戦いとかしたことないよな?)」

「あとはやっぱ女の子。女の子の仲間が欲しい。具体的に云うと……おっぱいの大きい女の子の仲間が欲しい」


躊躇なく願望を口にできるのが、ミナトの数少ない長所のひとつだった。


そんなこんなで、いつのまにか日が暮れ。

ミナトは待ちに待った野営をすることにした。


とはいっても、テントや寝袋といった道具はいっさい無い。両親に持って行ったほうがいいのではないかと云われたが、重いので断った。ミナトは、野営のつらさを完全に舐めていた。


「あのへんなんかよさそうじゃないか?」


ミナトはシーバを呼び寄せ、指差す。

横に長い、レンガ造りの建物があって、道との境には芝生の敷地があった。木も植わっていて、とても景色のいいところだ。


「ばふわふわふ(あんな場所不用心すぎないか?死にたいのか?)」

「お、シーバも気に入ったか!決まりな」


そう云って、一番端の木の根元に向かう。シーバを寝かせると、ミナトはリュックサックを脇に置いて、そのままシーバのちょうど腹のあたりに頭を置いた。さながら生きたベッドだった。


「夏だから、布団なくても平気だな。楽勝だぜ」


ミナトはそっと目を閉じると、体勢を変え、シーバの腹毛に頭をうずめる。


「……おやすみ、シーバ」


旅はまだ始まったばかりだ。

明日起きたら、まずはタチカワ地区の中心部へ向かう。仲間を捜しつつ、いわゆるモンスターを倒して、ゼーニを得る。余裕ができたら、武器や装備を新調しよう。


きっとうまくいく。

オレは立派な勇者になれる。


まどろみの中、ミナトはぼんやりと、そんなことを思う。


そして翌朝。


目覚めたミナトは、全裸になっていた。



第7話へ続く

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