第2話

 ミナトが生まれたのは、ちょうど世界崩壊エスカトロジアその日だった。


 いたって普通の家庭に生まれ落ちたミナトは、すくすくと育った。かつての子供たちが慣れ親しんだテレビやゲーム機などを全く知らなかったが、それに違和感などまったく感じていなかった。ミナトの年の子供は、元の世界を見たことがなかったからだ。


 誕生日にたまたま拾われた柴犬のシーバ、そして両親と暮らしてゆくなかで、ミナトは、次第に世界へと目を向けるようになった。


 この世界には、職業ジョブという概念がある。

 かつての職業とは違い、その人間の特性をも表す。


 闘士、騎士、戦士、呪術師、僧侶、魔導士などなどなど。


 今までの仕事を失った人々は、職業ジョブを宣言し、新たな職についた。それまでと同じ仕事を生業とする者もいれば、全く違う仕事についた者もいる。いずれにせよ、世界崩壊エスカトロジア以前と大きく変わったことがある。


 すなわち魔力の存在だ。


 それまでは証明されていなかった、魔術の類が、別世界と共になだれ込んできた。

 それにともない、ただの人間でも、きちんとした訓練さえ受ければ、いわゆる魔法を使うことができるようになる。


 幼い頃は、ミナトも魔術師に憧れた。

 しかし、学校で行われた魔術適性試験の結果が芳しくなかったため、ミナトは考える。魔術師って案外モテないかも。暗そうだし。


 果たしてどの職業ジョブがモテるか。

 これはミナトにとって大きな問題だった。


 必死で努力をして仕事をしてもモテなかったら意味がない。

 ミナトは来る日もあらゆる職業ジョブを研究し、そして十歳の誕生日にこう結論付けた。


 多分、勇者が一番モテるわ。


 特に明確な根拠があったわけではないが、その思い込みは日増しにミナトの胸の奥を満たしていった。

 ある日、ミナトは意を決して、両親に相談する。


(以下、回想)


「母さん、父さん。オレ……勇者になりたいんだ」

「あらそう。いいんじゃない?」

「ああ、がんばれよ」

「いつ旅立つの?」

「え……いや、すぐじゃなくてさ」

「勇者にならないのか?」

「いや、なるよ……なるけどさ。こういうのって、もっと止めたりしない?一人息子だよ?」

「でもお母さんたち、ミィちゃんの意見は尊重したいし……」

「そのミィちゃんっていうのやめろって!」

「じゃあ、わかった。危ないから、勇者になるのはやめなさい」

「いやだ!オレは勇者になる!」

「そんなに云うなら……わかった。父さんたちも応援するから、明日朝イチで旅立ちなさい」

「いやいやいやだから。気が早いから。オレ、十歳だよ?おかしいじゃん。十歳の息子に翌朝旅立てっておかしいじゃん」

「そうよね、善は急げっていうし、今夜の方がいいわよね?ミィちゃん、そういうことでしょ?」

「そういうことじゃねえよ!なんで早まるんだよ出発が」

「おまえは一体旅立ちたいのか、旅立ちたくないのかどっちだ」

「だから……旅立ちたいけど、もう少し大きくなってからというか」

「だが、そうやって何事も先延ばしになるのはよくない。決めなさい、日付を」

「そうよ、ミィちゃん!」

「え……いやそんな、いきなり決めろって云われても」

「決めろ!」

「決めなさい!」

「いや、だから!」

「二十歳か?二十歳はどうだ?」

「やだ、お父さん!そんなんじゃ遅すぎるわ!主人公として許されるのは十代までよ」

「全国の二十代以上の主人公に謝れよ!」

「十九か?十九歳か?」

「だめよ、お父さん!中途半端だわ!それに十九歳じゃ、自然な流れで学園物パートを作れないじゃない!」

「がくえ……?」

「そうだな、母さん!なら、十六から十八でどうだ!よし、選べミナト」

「なんで勝手に三択にしちゃうんだよ」

「十六にしましょう!十六歳!なんか……特に意味はないけど!」

「そうだな、それがいい!そうだ、キリがいいし、誕生日はどうだ?」

「いいわね!じゃあ、十六歳の誕生日に、旅に出るので決まりね!」

「勇者になるなら、ついでに魔王も倒してこい!」

「頑張ってね!ミィちゃん!」


(回想終了)


 そういうわけで、ミナトは十六歳の誕生日に、半ば強制的に旅立つことになったのだ。


第3話へ続く

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