第三十三幕:移り変わる虹

昨日の出来事の違和感が取れない。七夏ちゃんの心が分からないまま、俺は七夏ちゃんと一緒にお客様への朝食準備を手伝っていた。凪咲さんと直弥さんは、既に朝食を済ませている。お客様が居る時は皆、別々に朝食を頂く事になっている。直弥さんがお仕事へ出掛けるようなので、俺は声をかけた。


時崎「直弥さん!」

直弥「時崎君、いつもありがとう」

時崎「いえ。先日お話してました、無線ネットワークの設置を行っておきますので、お部屋にお邪魔します」

直弥「そうか! ありがとう。よろしく頼むよ」

時崎「はい!」

七夏「あ、お父さん! これ!」


七夏ちゃんは、お弁当を直弥さんに手渡した。


直弥「ありがとう! 七夏!」

凪咲「いってらっしゃい!」

直弥「ああ! それじゃ!」

七夏「くすっ☆」


七夏ちゃんの様子が特に変わっているようには思えない。俺の知っている限り、いつもの七夏ちゃんだと思うけど、引っ掛かりはある。俺は七夏ちゃんに可愛いと話すことを躊躇っている。


七夏「? どしたの? 柚樹さん?」

時崎「え!? あ、いやなんでもない」

七夏「あ、おはようございます☆」

時崎「え!?」


後ろを振り返ると、お泊りのお客様が階段から降りてきていた。


時崎「あ、おはようございます!」

泊客「おはようございます」

七夏「えっと、朝食、出来てますので、どうぞ!」

泊客「はい」


俺は、泊り客が七夏ちゃんに対して「可愛い女将さん」と話す事を期待したが、それは無かった。もし、その時の七夏ちゃんの反応が俺の時と違ったら・・・と思ってしまうけど、他人に頼らず、なんとか自力で引き出すことは出来ないだろうか?


七夏「柚樹さん☆」

時崎「え!?」

七夏「後は、任せてください☆」

時崎「俺も手伝える事は手伝うよ!」

七夏「ありがとです☆ えっと柚樹さんは、お父さんのお部屋で用事があるのですよね?」

時崎「あ、無線ネットワーク機器の件だよね?」

七夏「はい☆ えっと、今日は、午後からここちゃーと笹夜先輩が来てくださるので、柚樹さんの用事も午前中の方がいいかなって☆」

時崎「確かに、早い方がよさそうだな」

七夏「くすっ☆ 午後からは、みんな一緒がいいなって☆」

時崎「ありがとう! じゃあ、早速、直弥さんのお部屋で用事を済ませるよ」

七夏「はい☆」


直弥さんの部屋に向かう。部屋の中に置いてあった有線のネットワーク機器に追加する形で、無線ネットワーク機器を追加する。これは、説明書に従って行えばそれほど難しくは無いが、二つの機器を見なければならない点と、無線ネットワーク機器のセキュリティーの設定が少し複雑だ。説明書を見ながら、自分の持っている携帯端末と、MyPadを登録して接続してみる。


時崎「よし! ネットワークに接続できた!」


電波の状態も良好だ。更に説明書を読み進めると、ゲストユーザーアクセスの設定があった。これは、未登録のネットワーク端末を自由に接続できる設定だ。七夏ちゃんの家が民宿である事を考えると、お泊りのお客様にもネットワークが利用できるように設定しておく方が良いと思うので、設定しておく。とりあえず、IDとパスワードは「KAZAMI」としておいた。ゲストユーザーとしても無事接続できた。あとは、直弥さんにIDとパスワードと、ゲスト用のIDとパスワードを伝えておけばよい。


時崎「あ、七夏ちゃんのMyPad!」


七夏ちゃんのMyPadは、俺の携帯端末と接続されているので、ネットワークは利用できるが、俺がこの街を去る時には、設定を変更しなければならない。忘れないように、今設定を行っておこうと思う。居間へ向かうと、凪咲さんがひと息ついていた。


凪咲「柚樹君、お疲れさま」

時崎「お疲れ様です。無線ネットワーク機器の設置が終わりました」

凪咲「ありがとう」

時崎「これ、IDとパスワードのメモになります。直弥さんにも同じ物を渡しておきますので」

凪咲「これは、どうすればよいのかしら?」

時崎「大切な情報になりますので、無くさないような場所に保管をお願いします」

凪咲「わかりました。ナオにも伝えておくわ」

時崎「はい」

凪咲「七夏なら、自分のお部屋に居ると思うわ♪」

時崎「え!? あ、はい。ありがとうございます! お客様は?」

凪咲「先ほど、お帰りになられました」

時崎「あ、すみません。お見送りできなくて・・・」

凪咲「気にしなくていいのよ」

時崎「ありがとうございます」


俺は、会釈をして七夏ちゃんの部屋に移動する。トントンと軽く扉を叩く。


七夏「はーい☆ あ、柚樹さん☆」

時崎「七夏ちゃん! お疲れ様! 今、忙しいかな?」

七夏「えっと、お客様は帰られましたので、少しのんびり過ごしてました♪」

時崎「そう。少し、時間あるかな?」

七夏「はい☆ あ、どうぞです☆」

時崎「ありがとう」


七夏ちゃんに案内されて、部屋の中に入る。机を見ると宿題をしていた様子は無く、小説を読んでいたのだろうか? そうか! 今日は土曜日なので、宿題はお休みなのかも知れない。セブンリーフの写真立てが目に留まる。俺が七夏ちゃんへプレゼントした写真立てだ。後から知った事だが、結果的に「お誕生日プレゼント」になった思い出の品だ。しかし、その写真立てに写真は入っていなかった。まだ、七夏ちゃんにとって写真は重たい存在なのだろうか?


七夏「えっと・・・」

時崎「あ、ごめん。あまり女の子の部屋を眺めるのは良くないよね」

七夏「いえ。片付いてなくてその・・・」

時崎「充分、綺麗で可愛いと思うよ!」

七夏「え!? あっ・・・えっと・・・」


しまった! 俺は部屋の事を話したつもりだったが、間接的に七夏ちゃんの事を「可愛い」と話してしまった事になる。俺は慌てて話題を変える!


時崎「七夏ちゃん!」

七夏「え!?」

時崎「MyPad、あるかな?」

七夏「あ、はい☆」

時崎「直弥さんの部屋に無線ネットワーク機器を設置したから、七夏ちゃんのマイパッドも登録しておこうと思うんだけど、少し、借りてもいいかな?」

七夏「はい☆ どうぞです☆」

時崎「じゃ、少し借りるよ」


俺は、七夏ちゃんのMyPadの設定より、端末の固有番号(MACアドレス)を調べてメモをする。


時崎「ありがとう!」

七夏「え!? もういいの?」

時崎「後は、直弥さんの部屋で設定の追加を行うから、少し待ってて!」

七夏「はい☆」


俺は、直弥さんの部屋へ移動し、無線ネットワーク機器に七夏ちゃんのMyPadを追加登録する。そして、再び七夏ちゃんの部屋へと移動する。


時崎「うっ!」


扉の角で、足の小指だけぶつけた。時々、こういう事が起こるけど、何故小指「だけ」ぶつけるのだろうか? と、とにかく七夏ちゃんの部屋に急ごう!


時崎「七夏ちゃん!」

七夏「あ、柚樹さん☆ どうぞです☆」

時崎「お邪魔します!」

七夏「!? 柚樹さん? どうしたの?」

時崎「え!?」

七夏「えっと、足・・・」

時崎「あ、ちょっと小指をぶつけちゃって・・・」

七夏「大丈夫?」

時崎「ああ。大丈夫だよ!」


七夏ちゃんは、ちょっとした変化に鋭いなと思う。


七夏「私も、小指をぶつける事がありますから、気をつけないと」

時崎「七夏ちゃんもあるの?」

七夏「・・・はい。おかしいですか?」

時崎「いや、七夏ちゃんがそんなに慌てるような印象がなくて」

七夏「普通に歩いてて、ぶつける事があります。どおして小指だけぶつけるのかなぁ?」

時崎「っ! くくっ!」

七夏「え!? あ、柚樹さん笑うなんて・・・」

時崎「いや、ごめん! ついさっき、俺も七夏ちゃんと同じ事を思ったから!」

七夏「同じ事?」

時崎「小指だけ」

七夏「あっ! くすっ☆」

時崎「もう一度、MyPad借りていいかな?」

七夏「はい☆ どうぞです☆」

時崎「ありがとう」


七夏ちゃんのMyPadで、無線ネットワークの検索を行い、無事ネットワーク接続が完了した。


七夏「何か変わったのかな?」

時崎「ネットワークの接続を追加しただけだから、特に何も変わってないよ。今までと同じように使えるから!」

七夏「はい☆ ありがとうです☆」

時崎「今日は、午後から天美さんと、高月さんが来るんだよね?」

七夏「はい☆」

時崎「天美さんと、高月さんに、この前みたいにアルバム作りの協力をお願いしてもいいかな?」

七夏「はい☆ もちろんです☆ えっと、私からお話しておきますね☆」

時崎「ありがとう」

七夏「くすっ☆ 花火大会も楽しみです☆」

時崎「そうだね。花火大会の写真を撮ってから、お願いすると思うから、明日になると思うけど」

七夏「はい☆ 私も、そろそろお着替えしようかな?」

時崎「あ、七夏ちゃん、風水の浴衣のままだったね。じゃあ、俺はこれで部屋に戻るよ!」

七夏「はい☆ 柚樹さん、また後で☆」


部屋に戻り、時計を見る。もうすぐお昼の時間だ。少しの時間も無駄には出来ないので、俺はアルバム作りを再開した。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


七夏ちゃんと一緒に昼食を頂く。民宿風水の浴衣姿から私服に着替えている七夏ちゃんとの昼食は、いつもとは少し違う感覚を与えてくれる。でも俺は「可愛い」と話したくてもその言葉が言えなくなっていた。


昼食を済ませて、部屋へ戻ろうとした時---


心桜「こんちわー! つっ! あっ! お兄さん!」

時崎「天美さん! いらっしゃい!」

心桜「どうもー!」

時崎「つっ! あっ! お兄さんって何? ・・・って、なんとなく分かるけど」

心桜「あはは!」

時崎「七夏ちゃんなら、台所に居るはず」

心桜「そっか! よいしょっと!」


天美さんは、いつもよりも大き目の鞄を持ってきていた。恐らく浴衣が入っているのだろう。


時崎「お荷物、お持ちしましょう!」

心桜「いいよいいよ! 大丈夫だから!」

時崎「かしこまりました」

心桜「・・・やっぱ、お願い!」

時崎「え!?」

心桜「~♪」

時崎「あ、了解いたしました!」

七夏「ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」

心桜「こんちわー! お邪魔します!」

七夏「くすっ☆ お荷物、2階のお部屋にどうぞです☆」

心桜「この前、泊った部屋でいいのかな?」

七夏「はい☆ ご案内しますね☆」

凪咲「心桜さん、いらっしゃいませ!」

心桜「凪咲さん、今日もお世話になります!」

凪咲「はい♪ こちらこそ!」


この前、天美さんが泊った部屋に荷物を運ぶ。七夏ちゃんが扉を開けてくれたけど、俺は一歩下がって天美さんが先に部屋に入るのを待つ。


心桜「ありがと。つっちゃー、お兄さん!」

七夏「くすっ☆」

時崎「天美さん、荷物、ここでいいかな?」

心桜「うん。適当でいいよ。ありがとね!」

時崎「それじゃ、用があったら声をかけてくれていいから」

心桜「なんかさ、お兄さん、つっちゃーと息が合ってきてるよね?」

七夏「え!?」

時崎「えっ!?」


七夏ちゃんと同じタイミングで言葉を返し、お互いに見つめ合う形となった。

七夏ちゃんの瞳の色が大きく変わる・・・見慣れている事だけど、意識するとやはり綺麗だなと思いつつ、俺も自分の瞳・・・ではなく耳の色が赤く変わってゆく感覚を覚えた。


七夏「・・・・・えっと」

時崎「あっ・・・と!」

心桜「何してんのさ!」

時崎「と、とにかく、ごゆっくりどうぞ!」


七夏ちゃんと天美さんを部屋に残して扉を閉める。相変わらず、天美さんの不意打ちは突然で慣れない。


七夏「もう! ここちゃー!」

心桜「あはは!」


扉から七夏ちゃんと天美さんの声が聞こえてきた。自分の部屋に戻ろうかと思ったけど、そろそろ高月さんも来ると思うから、そのまま1階の居間へと移動した。


凪咲「柚樹君、お疲れ様、七夏は?」

時崎「七夏ちゃんなら、2階で天美さんと一緒だと思います。呼んできましょうか?」

凪咲「いえ、前にも話したかも知れないけど、今日と明日は、七夏へお手伝いは頼まないつもりですので♪」

時崎「なるほど、俺は何かあったら手伝いますので!」

凪咲「ありがとう、柚樹君」


凪咲さんは、七夏ちゃんのお友達がお泊りに来る時は、七夏ちゃんもお泊りのお客様として見ている事、お友達と一緒に楽しむ時間の大切さを意識させられる。


??「ごめんください♪」

凪咲「はい!」


玄関から声がした、高月さんも来られたようだ。


凪咲「高月さん、いらっしゃいませ!」

笹夜「こんにちは♪ 今日もお世話になります♪」

凪咲「こちらこそ! ようこそ風水へ!」

時崎「こんにちは! 高月さん!」

笹夜「あ、時崎さん♪ こんにちは♪」

時崎「お荷物、お持ちいたします!」

笹夜「まあ♪ ありがとうございます♪」

心桜「お! 笹夜先輩! こんちわ!」

七夏「笹夜先輩☆ いらっしゃいです☆」

笹夜「こんにちは 心桜さん、七夏ちゃん♪ 今日はお世話になります♪」

凪咲「お茶とアイスは如何かしら?」

心桜「わー! ありがとうございます!」

凪咲「では、居間へいらしてくださいませ」

笹夜「ありがとうございます♪」

時崎「七夏ちゃん?」

七夏「はい?」

時崎「高月さんの荷物は、前にお泊り頂いたお部屋でいいのかな?」

七夏「はい☆」

時崎「ありがとう。高月さん!」

笹夜「はい!?」

時崎「どうぞ、こちらへ」

笹夜「ありがとうございます♪」


俺は、高月さんをお部屋に案内する。七夏ちゃんは、どうしようか迷ってたみたいだけど、天美さんに連れられて居間へと移動したようだ。


時崎「どうぞ!」

笹夜「ありがとう♪ 時崎さん♪」


荷物を置いて、高月さんと一緒に1階の居間へと移動する。


心桜「お、お兄さん! こっちこっち! 笹夜先輩も!」

時崎「ああ!」

笹夜「ええ♪」

心桜「なんかさ、お二人って、息ぴったりだよねっ!」

笹夜「え!?」

時崎「なっ!」


高月さんとお互いに見つめ合う形となったが、すぐに視線を逸らし合った。そのタイミングまで天美さんの思惑通りの形となっているのが、少し悔しい。


笹夜「こ、心桜さんっ!」

心桜「あははっ!」

笹夜「すみません! 時崎さん」

時崎「え!? あ、いや全然構わないよ」

七夏「どしたの?」


台所から七夏ちゃんが、お茶とアイスを持ってきてくれた。


心桜「おー! アイスちゃん♪」


なんとか、天美さんの独走を止める事は出来ないだろうか・・・なんて考えてしまうけど、まあ、これがいつもの三人なのかも知れないのなら、このままが良い・・・と思い込む事にする。


凪咲「柚樹君、少しいいかしら?」

時崎「はい!」

凪咲「今日の花火大会、帰りが遅くなると思うから、七夏たちの事をお願いしてもいいかしら?」

時崎「もちろんです! 頼まれなくても、そうさせてもらいます!」

凪咲「ありがとう♪ あとこれを!」


凪咲さんは封筒を俺に手渡してくれた。その中にはお金が入っていた。


時崎「これは・・・! こんなに沢山!?」

凪咲「今夜のお夕食代とお小遣い。みんな夜店で頂くと思いますので。七夏たちと一緒に柚樹君も楽しんで貰わないと!」

時崎「いいのですか?」

凪咲「そうしてほしいのよ。私からお願いいたします!」

時崎「ありがとうございます!」


七夏ちゃんたちの為に、頂いたお小遣いを有効に使いたいと思う。

居間に戻ると、三人は楽しくお話しに花を咲かせているようだ・・・けど、高月さんは少し疲れているのだろうか?


時崎「高月さん?」

笹夜「え!? は、はい!?」

時崎「大丈夫?」

心桜「ん? どうかしましたか? 笹夜先輩?」

七夏「柚樹さんも、そう思いました?」

時崎「ああ。なんとなくだけど」

笹夜「すみません。昨夜、なかなか眠れなくて・・・」

時崎「宿題でもしていたのかな?」

笹夜「そうではなくて・・・その、今日の事を考えてたら・・・」

時崎「なるほど! 分かるよ!」

心桜「遠足前も、なかなか眠れなかったよね!」

七夏「くすっ☆」


今夜は、花火大会があるから、少し心配だ。


時崎「高月さん! 少しお休みしたらどうかな?」

笹夜「・・・いいのかしら?」

時崎「もちろん!」

七夏「私、お布団の準備をしますね☆」

笹夜「すみません、では、少しお休みさせてもらいます」

時崎「ああ」

七夏「笹夜先輩☆ どうぞこちらへ☆」

心桜「おやすみなさい! 笹夜先輩!」

笹夜「おやすみなさい」


七夏ちゃんに付いてゆく形で、高月さんは2階へと移動した。


心桜「お兄さん、よく気付いたね!」

時崎「え?」

心桜「笹夜先輩の事!」

時崎「ああ、なんとなくだけど、七夏ちゃんも気付いてたみたいだったよ」

心桜「そっか・・・あたし、浮かれてて気付かなかったよ。ありがと。お兄さん!」

時崎「あ、ああ」


天美さんから、素直にお礼を言われると、少し恥ずかしくなった。


心桜「てっきり、笹夜先輩をお部屋まで案内するかと思ったけど」

時崎「それは七夏ちゃんに任せるつもり。お着替えとかあると思うから」

心桜「流石、手堅くなってますなー」

時崎「いやいや、天美さんには適わないよ!」

心桜「お着替えと言えば、あたしもこの後、浴衣なんだけど、これ完全につっちゃー頼りだからなー」

時崎「色々、大変みたいだね」

心桜「まあね! お兄さんは浴衣着ないの?」

時崎「俺は、このままの予定」

心桜「そっか! まだ花火大会まで時間あるよねー。何か楽しめる事はないかなー」


天美さんは、そう言いながらテレビの前の引き出しを物色し始める・・・この辺り、七夏ちゃんと友達暦の長い天美さんだからこそ出来る行動だと思う。


七夏「柚樹さん☆」


七夏ちゃんが戻ってきた。


時崎「七夏ちゃん、ありがとう!」

七夏「こちらこそ、ありがとうです☆ 笹夜先輩も、ありがとうって☆」

時崎「そう」

七夏「柚樹さんが声をかけてくれて良かったです☆」

時崎「七夏ちゃんも気付いてたでしょ?」

七夏「はい。どうしようかなって思ってたところでした☆」

時崎「少しでも休めば、だいぶ違うと思うから」

七夏「はい☆」

心桜「つっちゃー!!」

七夏「どしたの? ここちゃー!!」

心桜「これっ!!」

七夏「なぁに?」

心桜「ぴよぴよ!!!」

七夏「あ、ぴよぴよさん」

心桜「懐かしいー! 何年くらい前だっけ?」

七夏「えっと・・・5年くらい前・・・かな?」

心桜「5年くらい前・・・って事は、5年生の時か・・・5年5年だねっ☆」

七夏「くすっ☆」

心桜「ねねっ! 少し遊んでみない?」

七夏「はい☆ でも、本体がどこにあるのかな?」

心桜「ん? これPSって書いてあるから、このPSでも動くんじゃないの?」

七夏「そうなの?」

心桜「試してみよーよ」

七夏「はい☆」

心桜「お兄さんっ!」

時崎「え!? 天美さん、それは!?」

心桜「ぴよぴよ! お兄さん知ってる?」


天美さんは、何かゲームソフトを見つけたようだ。


時崎「いや、知らないけど、ゲーム?」

心桜「っそ。 対戦型パズルゲームなんだ」

時崎「テットリスみたいなゲーム?」

心桜「そうそう。お兄さん、テットリスは知ってるんだ」

時崎「まあ、一時ブームになってたからね」

心桜「んで。今から、この『ぴよぴよ』を、つっちゃーと遊ぼうかなと思って・・・そだ!お兄さん、あたしと対戦してみる?」

時崎「いや、遠慮しておくよ。この前の音楽ゲームの件もあるし・・・」

心桜「あははっ! 大丈夫だよ。あたしも『ぴよぴよ』はブランクあるから!」

時崎「七夏ちゃんと一緒なら・・・」

七夏「え!?」

時崎「あ、いや・・・その、2対1なら勝ち目あるかなーなんて」

七夏「・・・・・」

心桜「でも、これ、2対1はできなかったと思うよ」

時崎「まあ、俺は二人が遊んでいるのを見させてもらう事にするよ」

七夏「柚樹さん」

時崎「え?」

七夏「これって、使えるのかな?」

時崎「PSシリーズだから動くはずだよ。確か上位互換だったはずだから」

心桜「よし、早速、起動してみよう!!」

時崎「そうそう。二人が遊んでいるところ、写真に残してもいいかな?」

心桜「あたしはいいよ。可愛く撮ってくれるなら」

七夏「はい☆ 柚樹さん♪ よろしくです☆」

時崎「ありがとう」


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


心桜「お、映った・・・って、画面荒っ! こんなだったっけ?」

七夏「もう少し柔らかだった記憶がありますけど」

時崎「テレビが大きくなって、デジタル接続になったからじゃないかな? 写真を引き伸ばした感じ?」

心桜「なるほど。 ま、つっちゃーと遊べるなら!」

七夏「えっと・・・」

心桜「まずは、遊び方の再確認から・・・って、お兄さん、どしたの?」

時崎「あ、天美さんは説明書なんて見ないと思ってたから・・・って、すまない」

心桜「あははっ! 確かに! 一人の時はそうかもね」

時崎「え!? どういう事?」

心桜「あたしは、直感でなんとかする派だけど・・・」


そう言うと、天美さんは此方に近づいてきて、


心桜「(つっちゃーに、遊び方を思い出してもらう為!)」


小声で、俺にだけそっと教えてくれた。七夏ちゃんは、とてもよく気が利く女の子だと思っていたけど、天美さんもそれは変わらないという事か・・・違うのは、その表現の仕方だという事。ストレートに気を遣う七夏ちゃんに対して、天美さんは、こっそりと気を遣うタイプなんだなぁーと思う。自然にそのように振舞える二人が羨ましい。


七夏「??? どしたの? ここちゃー?」

心桜「いや、なんでも! んじゃ、遊び方の再確認から!」

七夏「はい☆」


---ぴよぴよの遊び方---


「ぴよぴよ」は、樹の枝にとまってくる色の異なる小鳥さんの場所を入れ替え、同じ色の小鳥さんを縦横3羽以上に揃えて飛ばす、対戦型パズルゲームです。


同じ色の小鳥さんが3羽以上揃うと、飛び去ってゆき、その数に応じて対戦相手の樹に白い小鳥さんが現れます。一度に沢山の小鳥さんを揃えるほど相手の木に沢山の白い小鳥さんがとまります。小鳥さんを沢山相手の樹にとまらせて、その重みで対戦相手の樹が一定の角度以上倒れると勝ちとなり、逆に自分の樹が倒されると負けとなります。


白い小鳥さんは横、縦に何羽並んでも飛び去りません。白い小鳥さんは他の同じ色の小鳥さんで挟むと一緒に飛び去ります。

ただし、白い小鳥さんを挟めるのは最大2までで、挟む羽数に応じて両隣に同じ色の小鳥さんを揃える必要があります。

(例)

赤白赤

青青白白青青


ゲーム開始時は赤青黄緑の4羽が木に止まっています(オプションで設定変更可能)。

自分の枝にとまっている小鳥さんは自由に入れ替えられますが、お互いの場所が離れているほど入れ替えに時間を要しますので、なるべく近い小鳥さん同士を入れ替える方が効率的です。


小鳥さんを入れ替えると「NEXT BIRDS」の上側に居る小鳥さんが、1羽自分の樹にとまってきます。とまる場所は小鳥さんにおまかせですが、自ら「NEXT BIRDS」の小鳥さんを呼ぶこともでき、その場合は、とまる場所を指定できます(既に小鳥さんが居る場所は指定できません)。また、「NEXT BIRDS」の2羽どちらの小鳥さんも呼べますので、手詰まりになりそうなら、積極的に呼んでみましょう。


時々、七色の小鳥さんが飛んでくる事があります。七色の小鳥さんは、樹に止まらず、空中を飛び続けます。上手くつかまえて、色の付いた小鳥さんと入れ替えることができれば、自分の樹にとまっている、その選んだ小鳥さんと同じ色の小鳥さん全てが飛び去ります。


自分の樹の小鳥さんが全て居なくなったら、その時点で完全勝利を選ぶか、対戦相手を完全に負かすかを選ぶ事ができます。試合を終了する場合は「勝利」を、続行する場合は「NEXT BIRDS」から小鳥さんを選んでください。


自分の樹がある程度倒されると、反対側に新たな小枝が出現します。そこにも一時的に小鳥さんをとまらせることができますので、上手く活用してください。樹の小鳥さんが減って、樹の傾きが回復すると新たな小枝も無くなり、そこにとまっていた小鳥さんは、他のとまれる場所に移動します。移動先は小鳥さんにお任せですが、そうなる前に自分で移動させる方が良いでしょう。


小鳥さんが枝に止まれず、地面に落下する事があります。優先的に枝にとまらせてあげると良い事があるかも知れません。少しだけ効果を紹介します。


・七色の小鳥さんの出現率が上がります

・風が吹いて、自分の樹の小鳥さんが一定数飛び去り、樹の傾きが回復します(オプション設定で「風の効果あり」の場合)


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心桜「・・・だってさ、つっちゃー分かった?」

七夏「はい☆ なんとなくですけど」

心桜「よし、んじゃ、始めるよー」

七夏「はい♪」


二人は「ぴよぴよ」を始める。二人とも最初は操作がおぼつかなかったが、俺の予想通り天美さんの方が早く操作に慣れて行き、七夏ちゃんとの差は大きくなってゆく。


心桜「よっ! ほっ!」

七夏「えーっと・・・わぁ!」


まあ、二人とも楽しそうなので、その様子を写真として切り取る。


心桜「えいっ!」

七夏「ひゃっ☆ こ、ここちゃー!!」


どうやら、勝負あったようだ。天美さんが優勢だと思っていたが、七夏ちゃんには頑張ってほしかった。


心桜「あたしの勝ちだね!」

七夏「ここちゃー凄いです!」

心桜「じゃ、もう1回!!」

七夏「え、えーっと・・・」


七夏ちゃんは、俺の方を見てきた。その意図は分からないが、俺と代わってほしいという事なのだろうか。けど、俺はもう少し楽しそうな七夏ちゃんを撮影したい。


時崎「七夏ちゃん! 頑張って! いい表情撮るから!」

七夏「は、はい!」


二人は再び「ぴよる」・・・って、めまいがするみたいな言い回しだな。しかし、天美さんの勢いはそう簡単に覆せないようだ。


心桜「とう!」

七夏「あっ!」

心桜「飛んでけー!」

七夏「ひゃっ!」


必死に防戦して頑張っている七夏ちゃんを、俺は写真に残す。


心桜「よし! 2連勝!!」

七夏「うぅ・・・ここちゃー強過ぎです」

心桜「んじゃ、今度は、つっちゃーがどんな風に操作しているか見てみるよ」

七夏「え!?」

心桜「それで、つっちゃーの弱点が分かれば、それを克服して勝率も上がると思うんだ」

七夏「なるほど☆」

心桜「・・・って、これ、前につっちゃーが話してた事だよ。数学の宿題時に・・・」

七夏「あっ! はい☆ よろしくです♪」


天美さんは、勝負事には真剣で手を抜かないけど、七夏ちゃんへの配慮もしっかりと考えている。ゲームとはいえ、負け続けると楽しいとは思えないだろう。負け続ける人への配慮が出来てこそ、本当に強い人なのだろうなと・・・。そういう意味では、七夏ちゃんも負けてはいない。困っている人への配慮を忘れない事を俺は知っている。


時崎「七夏ちゃん!」

七夏「はい!」

時崎「俺も七夏ちゃんの、遊び方をよく見ておくから、頑張って!」

七夏「はい☆ 頼りにしてます♪」

心桜「よし! じゃあ、3回目!!!」


二人は3度目の「ぴよりんぐ」・・・。俺も七夏ちゃんの方の樹と小鳥の様子を見てはいるが、どうもこの手のゲームは苦手なのか、次々と天美さんの方から飛んでくる小鳥さんによって刻一刻と変化する状況が掴めない。七夏ちゃんもそれは同じなのか、上手く操作が出来ていない。俺は再び写真機で七夏ちゃんを捉える。


時崎「七夏ちゃん! 撮るよ!! 楽しんで!!!」

七夏「え!? は、はい!!!」

心桜「どばーっと!!!」

七夏「ひゃっ!!!」

心桜「よし!!! 3連勝!!!」

七夏「うぅ・・・」


やはり、天美さんには敵わないか・・・。俺は、七夏ちゃんには悪い気もするが、満面の笑みを浮かべている天美さんの写真も切り取る。とても楽しそうでいい表情だから、きっと七夏ちゃんも喜んでくれるはずだ。


心桜「見てて思ったんだけど、つっちゃーさぁ・・・もっと、こう真面目に・・・って、ゴメン!!!」

七夏「・・・・・え!?」


俺は勢いで撮影してしまった・・・七夏ちゃんの涙を・・・。


心桜「なっ、ま・・・つ、つっちゃーが泣くとは思わなかったから!」

七夏「え、えっと・・・」


俺も驚いた。七夏ちゃんは、悔し涙を流すタイプとは思えなかったからだ。


心桜「あたし、ちょっとつっちゃーの気持ち考えれてなかったよ。ごめん!!!」

七夏「そ、そうじゃなくて・・・その・・・」

心桜「え!? どういう事?」

七夏「ちょ、ちょっと、昔の事、色々と思い出しちゃって・・・」


昔の事・・・何があったのか俺は知りたいけど、七夏ちゃんが涙を浮かべる辺り、悲しい思い出なのだろう。本人にとって辛い思い出を無理に引き出す事なんて出来ない。俺は七夏ちゃんの笑顔を追いかけなければならない。


心桜「昔の事?」

七夏「はい」


七夏ちゃんはしばらく黙ったままだ。


---七夏の回想---


直弥「参った。七夏は『ぴよぴよ』強いな!」

七夏「お父さん! もっと真面目に・・・同じ色の小鳥さんを揃えて!」

直弥「え? そうしてるつもりなんだけど・・・」

七夏「時々、違う色の小鳥さんを合わせてるみたいだから・・・」


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


凪咲「七夏、お父さんはね。七夏とは色覚特性が違うのよ」

七夏「しきかくとくせい?」

凪咲「七夏とお父さんとは、見えている色が違うかも知れないの」

七夏「え!?」

凪咲「七夏には七夏の、お父さんにはお父さんの世界があるの」

七夏「えっと・・・」

凪咲「七夏は、ピーマン苦手よね?」

七夏「う・・・はい」

凪咲「だけど、お父さんは、好きよね。ピーマン」

七夏「はい」

凪咲「同じピーマンでも、人それぞれ、受ける印象が違うの。それが個性なのよ」

七夏「・・・・・」

凪咲「大切なのは、自分には分かっても、他人はそうとは限らないという事。だから、自分が分かる事は支えてあげて、自分が分からない事は支えてもらって、そういうのが人なのよ」

七夏「はい☆」


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


??「なんだその虹、おい! 水風の虹が変だぞ!」

七夏「え?」

心桜「あたしも、こう見えるんだけど!!!」


---七夏の回想---


突然、鳴り出した音に3人とも驚いた。放ったらかしにしていた「ぴよぴよ」のデモが、空気を読む事無く始まったのだ。


心桜「あーびっくりした!!! 背後から急に音が鳴るから」

七夏「くすっ☆」

時崎「七夏ちゃん!」

七夏「あ、ごめんなさい。大丈夫です☆」

心桜「つっちゃー、本当にごめん!!!」

七夏「ここちゃー、ありがとうです♪」

心桜「え!?」


涙の残る七夏ちゃんから「ありがとう」と言われて、目を丸くしている天美さん。俺はこの二人の今の表情を撮影した。七夏ちゃんの「ありがとう」という言葉と表情から、溢れ出た涙は、悲しみだけではない事が伝わってきたから・・・この一枚は大切な思い出になるはずだ。


その後、気を取り直して、再び「ぴよぴよ」で、天美さんに挑戦した七夏ちゃん。なんと、七夏ちゃんが天美さんに勝てた。唖然とする天美さんに、七夏ちゃん本人も何が起こったのか分かっていない様子。二人の呆然とした表情が面白く、これも写真に残しておく。


心桜「ちょっ! お兄さん!!! 今の撮った?」

時崎「くくっ、二人とも『いい表情』してたよ・・・色々な意味で!」

七夏「・・・・・」

心桜「あたし、『可愛く撮って』って言ったよね?」

時崎「可愛かったよ。二人とも!」

七夏「・・・・・」


天美さんと一緒なら「可愛い」と話してもいいかなと思ったけど、七夏ちゃんは色々と複雑な表情をしている。まずかったかな?


心桜「ま、まぁ、可愛いって言われて、嫌な気はしないけどさ・・・」

七夏「・・・・・」

心桜「・・・って言うか、つっちゃーどうやったの?」

七夏「え!? えっと、フクロウさんみたいな鳥さんが飛んできて・・・」

心桜「何? あの黒い鳥ってフクロウ? そんなの居たっけ?」

七夏「よく分からないのですけど・・・」


天美さんは「ぴよぴよ」の説明書を再確認する。


心桜「あ、これか!!! こんな所に追加の情報が!!!」

七夏「え!?」


---ぴよぴよの遊び方 追加---


天敵は見方!?

自分が不利になっても、最後まで諦めないでいると、ある条件が揃えば小鳥さんの天敵(フクロウ・ミミズク・ワシ・ハヤブサ)が現れます。小鳥さんの天敵が現れた場合、その天敵が苦手な小鳥さんは大パニックを起こし、一気に飛び去ります。どのような条件で天敵(見方?)が現れるかは、遊びながら見つけてみてください。ひとつ「フクロウ」だけ条件を紹介しておきます。


赤青黄白黄青赤・・・天敵フクロウ飛来!


-----------------


心桜「・・・だってさ。天敵は見方!? さっきのはフクロウだったのか・・・」

時崎「説明書は最後まで読みましょう!!!」

心桜「うぅ・・・参りました」

七夏「くすっ☆」

心桜「こうなったら、ぴよぴよの設定まで全部読んでやるっ!」

時崎「あ、天美さん・・・」


---ぴよぴよ 設定---


・CPUの強さ・・・コンピュータの強さを決めます(甘め/微糖/普通/苦い/無糖)

・進行速度・・・ゲーム全体の進行速度を決めます(のんびり/ふつう/おいそぎ)

・小鳥さんの移動速度・・・入れ替えた時の小鳥さんの移動速度を相対的に変更します(のんびり/ふつう/すばやい)

・ゲーム開始時の小鳥さんの数(4羽~8羽)

・樹の演出・・・樹が傾くか、背景が傾くかを選択します(樹は固定で背景が傾く/背景固定で樹が傾く)

 ↑樹が傾く設定は対戦中に姿勢が悪くならないようにお気をつけください

 ↑樹が傾かない設定では体は傾きにくいですが「新たな小枝」は出現しません

・樹の樹齢(耐久度)を選択します(5年~5000年)

 ↑樹齢が上がれば枝数や耐久度は高くなりますが、上げ過ぎると脆くなり、突然倒れるリスクが上がります

・風の設定・・・風の有無を選択します(風により、自分の樹の小鳥さんが一定数飛び去り、樹の傾きが回復します/対戦相手の樹が突然倒れる事もあります)

・音響設定・・・ゲーム内の様々な音の設定を行います


---ぴよぴよ 設定---


心桜「よし! 説明書読破完了!」


説明書を読破した天美さんは、敵無しと言う感じだったが、七夏ちゃんもある程度は慣れてきたのか健闘している。


心桜「よし! これで何連勝だったっけ!」

七夏「もう、ここちゃーには勝てません☆」

心桜「んじゃ、お兄さんっ!」

時崎「え!?」


天美さんは、コントローラーを俺に手渡してきた。そういう事か!


七夏「えっと・・・」

時崎「七夏ちゃん、一緒に頑張ろう!」

七夏「は、はい☆」


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


時崎「うおぁ!」

心桜「おぉ! つっちゃー! お兄さんに勝った!」

七夏「ゆ、柚樹さん! ごめんなさいっ! 大丈夫ですか!?」

時崎「いや、謝らなくてもいいよ! 七夏ちゃん上手くなったね!」

七夏「ここちゃーのおかげです☆」

時崎「いやー実際、見てるのと操作するのでは随分と違うんだね」

心桜「そだね。簡単そうに見える事ほど、実際難しいよね!」

時崎「天美さん、その言葉、深いな」

心桜「あはは!」

笹夜「おはようございます♪」

七夏「あ、笹夜先輩☆ おはようです☆」

心桜「あ、笹夜先輩! すみません、騒がしくて。起こしちゃいました?」

笹夜「いえ♪」

時崎「高月さん、気分はどう?」

笹夜「はい♪ 少しお休みして、すっきりいたしました♪」

七夏「くすっ☆ 良かったです☆」

心桜「そろそろ、花火大会の準備の時間かな?」

七夏「はい☆ それじゃ、みんなで浴衣です☆」

心桜「つっちゃー! 今度は、お手柔らかによろしくです!」

七夏「はい☆」

笹夜「?」

心桜「笹夜先輩もご一緒に!」

笹夜「え!? ええ♪ それでは、失礼いたします♪」

七夏「柚樹さん☆ また後で☆」

心桜「楽しみにしてていいからねっ!」

時崎「ああ!」


三人は、2階へ移動した。俺はPS3(ゲーム機)と「ぴよぴよ」を片付けておく。そう言えば七夏ちゃんが見せた涙の理由が気になったが、その後の七夏ちゃんの様子から、何か思い出が移り変わったのかも知れないな。大切な人の過去の記憶を引き出すのは、本人にとって辛い事も考えられる。少しずつでも、良い思い出へと変わってくれる事を願う。


この後、いよいよ三人と花火大会だ。皆で楽しめるよう、俺は気合を入れるのだった。



第三十三幕 完


----------


次回予告


色とりどりの花火! 浴衣 ! ふたつの虹を持つ少女には、どのように映るのだろうか?


次回、翠碧色の虹、第三十四幕


「夜華に舞う虹」


「みんなと一緒」を特に喜ぶ少女にとって、同じ感覚だと思ってもらう事は大切な事だ。

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