015 - 守人の試し(前編)
「!?」
驚きのあまり言葉を失った二人を、その人型は幼さの残る顔に悪戯っぽい笑みを浮かべながら見詰めていた。
『これを、取りにきたんでしょう? それなのにどうしようか、って、どういうつもりなのさ? ……まぁ、まだ、渡すわけにはいかないんだけどね』
宝珠を抱きながら、それはクスクスと笑う。
「……貴方は?」
セフィは静かな声で尋ねた。
『僕? 僕はこれの守人だよ。ふふ……そんなに僕が珍しい? 随分と警戒してるみたいだけど……。大丈夫、取って食うようなことはしないよ』
身構えた、アレスを嘲笑うように、"宝珠の守人"は言う。
「……」
セフィは慎重に相手の気配を探った。確かに、殺意は感じられないが、その腹の内は計り知れない。
『それにしても驚いたよ。……こんなにも早い段階でここに来るなんてさ。アレ、あの封印、ケッコ―厄介だったろ? ……――最後の方……せめて半分よりかは後だと思ってたのにな……』
最後の方は消え入りそうな呟きだった。
「……? 何のことだ?」
『……そのうちわかるよ……』
「そのうちって?」
アレスが、突き詰めるように問う。
『そのうち、さ……。さて、これから僕は君たちがこれを守るだけの力があるかどうか、試さなきゃならない』
守人は神妙な表情を一転、明るく不敵な笑みを浮かべた。
「守る?」
「試す?」
二人は口々に尋ねる。
『そ。これ、欲しいんでしょ?』
「……」
セフィは思わず、どちらともつかない複雑な表情を浮かべる。
『ま、せっかくここまできたんだしさ。ただで帰ることも無いんじゃない?』
「そーだよなぁ……苦労したし。何を迷ってるんだ?」
セフィは、これを手に入れるために、ここの調査をしていたのでは? アレスも疑問に思い、セフィの方を見る。
「え? ……いえ……」
"それ"が何か、なんとなく検討がついてしまったから。
「責任を取る」なんて言ったくせに、不安になってしまっている自分が腹立たしい。
今自分が持ち帰らなくとも、封印は解かれたのだ。誰かが持ち出す可能性は十分にある。
「……何を、すればいいんですか?」
意を決したように、鋭い瞳でセフィは守人を見る。
『そうこなくっちゃ』
守人は楽しそうに宙を蹴った。そして、二人のすぐ側までくると、
『単純に、戦闘能力を見せてもらう。……自信がなかったら、逃げ帰ってもいいんだけど……』
自分で誘っておきながら、なんという挑発的な言葉。アレスは思わずムッとした。
「そんなこと……」
『しない、よね?』
「!?」
ウットリと大きな瞳を細め、言いかけたセフィの頬に触れる、小さな白い手。感じるのはただ冷たい感触。突然の守人の行為に、アレスは再度身構えた。
『そう焦らなくても、相手はちゃんといるよ』
セフィの前に浮いたまま守人は
『ハイ、これ。いくらなんでも丸腰じゃあねぇ』
アレスの方に剣を――別の部屋に置いてあったはずのアレスの剣を差し出した。
「なんっ……で!?」
『勝手に持って来させてもらったけど、僕なりの配慮だよ。感謝してね』
ニッコリと、笑う。
『キミは、いいんだね?』
「えぇ」
守人の問い掛けに、セフィは頷かないまま応える。
『そ。じゃ、がんばって』
守人はパチンっと指を鳴らした。
次の瞬間二人は、硬い感触の水の上に立っていた。
そして、現れ出でる幾つもの大きな人影。
「
アレスが叫ぶ。
それは、ヒトの形に荒く切り出した岩石の塊。身の丈は、大人の倍以上もありそうだ。
『ご名答』
どこからともなく守人の声が響いた。
――魔物……? では、ない……? ここには結界が張られて……。すると、これは……
現れた敵を見据えながら、思案するセフィに
『色々と疑問もあるようだけど、今はそんなこと考えてる暇、ないよ?』
「……」
「セフィっっ!!」
アレスに呼ばれ、そちらに目をやると既に剣を鞘から抜き放ち、身構える姿が映る。
次々と湧き出した岩巨人は総勢7体。
セフィは頷き、急ぎアレスに駆け寄る。
「セフィ、闘えるのか!?」
アレスには、この細身の青年の闘う姿など到底想像できなかった。しかも、どう見ても明らかに、セフィは丸腰である。
「大丈夫ですっ」
カツン――という足音とともに、セフィが身構えた瞬間、にじり寄って来ていた3体の岩巨人が勢いをつけて二人に襲い掛かってきた。
「!!」
二人は左右に分かれ、その場を飛び退く。
岩巨人の拳が、鈍い音を立て硬い水面を打つ。
――スゲェ……!
アレスが思わず驚いたのは、その岩巨人の攻撃に対してではなかった。
瞬発力、跳躍力、判断力ともにアレスに勝るとも劣らぬ、その外見からは想像もつかないようなセフィの身のこなし。
考えてみれば、セフィはここまでたどり着いているのだ。凶悪な魔物の多く潜む森と洞窟をぬけて、ここに。
――心配、ないよな……?
「アレスッ後ろっ!!」
「!?」
セフィの声に振り返ると、もう1体の岩巨人が丸太ほどもありそうな太い腕を振り上げ、すぐそこに迫っていた。
「っ!」
寸でのところで後ろに避け、すぐさまその太い、岩の腕に剣を振り下ろす。
ガキィィィン――!!
不快な鈍い音が迸り、弾かれた剣から鋭い痺れが伝わってくる。
「くそっ!」
アレスは慌て、その場を飛び退いた――。
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