旅行者たちと
この辺りでは見慣れない恰好の二人組は、日本から来たと話した。
「ずっと東の国さ」
「まぁ西にずっと行っても着くだろうけど」
客のほとんどが物珍しがって二人の話を聞いている。
「へー、そりゃまた遠くから」
「何のために?」
「世界中の狐を見てみたくて」
背の高い方が頭を掻く。
「狐? お前さんたちのとこにはいないのかい?」
「いやいや」
小太りの方が背の高い方を指差して、
「こいつが狐でね。自分みたいなのが他の国にもいないか知りたいんだと。俺はそのお供」
そして、にやりと笑う。
「日本の狐は化けるのさ」
隣の客が肩を叩いて、
「それじゃ、あんたは兎かい?」
「俺が兎だったら、出発した翌日にはこいつの腹の中だろうな」
「違いねぇ」
皆で笑う。
「あんたたち、もう一杯どうだい? ギネスでいいかい?」
「そうだ、日本ではこういうとき何て言う?」
日本から来た狐と狸は顔を見合わせ、手に持ったグラスを掲げる。
「乾杯!」
それを皆が真似して、かつて砦だった石組み以外は何もない丘で「乾杯」と声が響く。風が吹き抜けると、月光を受けた草が波のようだった。
終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます