竜の骸布

作者 阿部屠龍/ウル

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★★★ Excellent!!!

あらすじにも悪夢という単語が使われているように、物語をたどっていくと、決して幸福ではない結末の気配が死臭のように漂ってきます。
はじめはうっすらしていたそれは、ある事実が明らかになった瞬間にむせかえるような濃度になり、同時に、事態が恐れていた方向へと転がり落ちていくのです。

それでも一気に読んでしまったのは、きっと、重厚な描写の力に惹きつけられたからでしょう。
閉じた村の中で、人々にはそれぞれの背景があり、目的があり、感情がある。血が通う肉を持つがゆえに分かり合えないのではないかとさえ思わせるやるせなさは圧巻でした。
しかし、竜でもなく、確執そのものでもなく──本当はわかっていたことを口に出せなかったそれぞれの”おそれ”が、悲劇の本質であるようにも感じられました。

理性的な主人公には明確な目的があり、絶望的な状況の中でも、それが小さな希望となって物語を駆動します。
その結末を、どうか見届けてください。
物語の最後の一行まで。

★★★ Excellent!!!

人。
というもの。
そして、死。あるいは祝福。
こんなにも生々しく、強く、弱く、腐臭が漂ってくるほどの近さで描き出す作品がほかにあるでしょうか。
決して万人におすすめできる作品ではないと思います。
しかしだからこそ、読んでほしいと願ってしまう。
この言葉にできない感情を、味わってほしい。
ラストの台詞で膝から崩れ落ちるこの感覚を、共有してほしい。
おそろしく、素晴らしい作品です。

★★★ Excellent!!!

山中に落雷とともに落ちてきたのは、存在すら怪しまれていた竜だった。
竜の鱗や爪は高く売れる。貧しい村が存在するために神が贈りたもうた大いなる恵み。
村人たちは喜んだ。領主にも隣村にも隠し、自分たちのものとして。
村人たちは解体した。巨大な神にも等しき竜を。
誰もが欲に目がくらんでいた。
誰もが考えもしなかった。
たった一人気が付いた者がいた。
どうして竜は死んだのかーー
だが、取り合うものはいなかった。
やがて村の中に蔓延る不穏な影。影。影。

一体の竜が村の運命を変える物語。是非ご一読を。

★★★ Excellent!!!

 そうとしか言いようがない、ドラゴンの死骸をめぐる群像劇です。
 最初から最後まで、血と腐った肉の吐き気をもよおす臭いが鼻先に届いてきているかのような気にさせられる文章力が、空から降ってきたドラゴンの死骸という出来事に沸く、困窮した村の顛末を生々しく描いています。神に救いを求める者、疑心の狂気に駆られる者、罪と知りながら犯す者、救おうとする者、見守る者。描かれていくそれぞれの運命、怯え惑う村はまさしく、西洋芸術の一様式である死の舞踏そのもの。やがて見えてくる業火と静寂の終焉まで、一気に読んでしまいました。

 彼らは一体どうなるのかと、一話一話に気になって仕方なく、退屈することは一度もありません。シリアスな異世界ファンタジーを求めているなら、是非読んでほしい作品です。

★★★ Excellent!!!

郡を抜いた文章力と、裏付けとなる現実の知識に支えられた、圧倒的な終末感が、この作品にはあります。
空想上の存在である竜と、実在する事柄の混交、そして丁寧に成される心理描写により、ファンタジックな世界は徐々に現実の様相を呈していきます。
そうして失われる幸せには、胸を締め付けられる様で……この作品の存在感には、感心させられるばかりです。
皆さんも、是非読んでみて下さい。

★★★ Excellent!!!

 柳田国男は伊良湖岬への旅行中、浜辺に流れ着いた椰子の実を見つけました。この話を聞いた島崎藤村は『椰子の実』という詩をしたため、そこからは彼の異郷へのロマンチズムが感じ取れます。
 対して柳田はこの時、はっとひらめいたのです。そして書かれることになるのが『海上の道』――日本民族のルーツを海の外へと求めるこの書も、結局ロマンチズムという言葉に帰結できてしまいます。

 それらはいつも、海からやってきます。海は海と繋がっています。椰子の実――民族――それらは漂い、どこかへと打ち上げられる。海へと放ったものは、やがて浜へと。
 それはある時は思いもよらぬ富であり、ある時はただの土左衛門であり、ある時は得体の知れない怪物でもあります。
 イザナギとイザナミの最初の子である蛭子は、不出来であるがゆえに、海へと流されました。海は罪も呪いも邪悪も流してしまえる便利な廃棄場でもあるのです。
 でも、海は海と繋がっている。それは必ず、どこかへ流れ着く。

 海の話を長々としてきましたが、この小説に海は一切登場しません。舞台は山間の寒村。そうです。いくら海が海と繋がっていようが、陸が、山がそれを阻むのなら、浜辺は遠い異国の地でしかないのです。
 ところが、それは空からやってきます。
 至極簡単な話です。空は空と繋がっている。切れ目もなしに、あるいは、果てもなしに。
 ただ、空は本来人間の、ものの飛び交う場所ではありません。今でこそ多大な技術と費用をかけて空を道として使うことができていますが、それができるようになったのは本当につい最近のことなのです。
 そして、だからこそ、この小説は異世界ファンタジーなのです。
 竜――その屍。物語のきっかけであり、全ての動機はこれによって生まれます。
 空を自由に飛び、あらゆる種の頂点に立ち、それゆえに財宝に等しい――その、屍骸。それはなぜか作中で、重ねて「… 続きを読む