第74話 しんりんらいす

 図書館への道は。

 

 かつて訳のわからんバリケードに封鎖されており、クイズの森を抜けなくてはならなかったそうだ。


 でも俺の大好きなかばんちゃんが現れたことによりそれも今や必用の無いことだ、というか俺が料理し続ける限りはマジでいらない、故にバリケードは撤去済みだ。


 道を真っ直ぐ抜けると我が家であるジャパリ図書館が見えた、帰ってきたぞ… なぜかずいぶん前のように感じるよ。


「博士~!助手~!ただいまー!」



 しん…。

 辺りからは心地より鳥のさえずりが聞こえるが、フクロウの声は聞こえない。



 返事が無い… 留守かな?

 と思われたその時だった。


 ドンッ!

「うぎゃ~!?」ゴロゴロ


「あ、サーバルちゃん!大丈夫!?」


 えぇ!?なに!?どうしたのこれ!?


 一度サーバルちゃんから目を逸らし原因であるものを探すため周囲に目を配る。


 するとゆっくりと俺達前に降り立つ2つの影が。


「お、おぉ~シロ…!」ウルウル

「よく、よく帰って来たのです…!」ウルウル


 はいその通り、The 長である。


「二人とも!サーバルちゃんを蹴ったらダメだよ!ちゃんと謝るんだよ?」


「うわーん!シロぉー!?」ギュウ~

「会いたかったのですぅ~!?」ギュウ~


 え、なに?泣くほど?ほんの数日の話のはずだが… 状況が把握できないのでかばんちゃんに助けを求めるように目を向けて見た。


「…?」


 どうやら抱きつかれたことには怒ってないようだ。

 彼女に状況が把握できないのであろう「ん?」と疑問を浮かべた顔してるだけだ、なので俺もその返事に「さぁ?」ってジェスチャーを返した。


「なに二人ともなに!?どうしたのさ!」


「うどん怖いのです…」

「全身がうどんまみれなのです…」


 なんだそれは?触手プレイでもしたいのかな?うどんは魔法でもかけない限りうどんでしかないんだよ?うどんはなにもしてくれないよ?

 

「ダメだよ食べ物で遊んだら!」←不正解


「違うのですよ!アライグマたちの仕業です!」

「お前がいない間我々はうどんを強いたげられてきたのです!」


 あぁ… 飽きたのか。


 なるほどアライさん、やはりうどんに逃げてしまったか。

 他の料理に自信が無いのはわかるけどそれではダメだ、彼女は俺の弟子… 料理人だ、うどん屋さんじゃない。


「はぁ… わかった、予想通りだったねかばんちゃん?」


「あはは… はい、それじゃあ?」


「うん、手伝ってくれる?」


「はい!」ニッコリ


 あぁ~いいっすねぇ?眩しい… エプロンつけたらあれやってほしいな?「ご飯にする?お風呂にする?それとも…」をやってほしい、それで俺の答えはこうだ「うーがおー!お風呂で君をべちゃうぞ~!」よしやる気でた!


「よーっし!やるぞー!」料理です


「わたしも手伝うよ!」料理です


「何を作りましょうか?」料理です


 なに言ってんだい?そんなのもちろん赤ちゃ…ゲフンゲフン

 カレーにしよう、おふくろの味と評判なカレーライスを作ろう。


「今日はカレーライス!やる気は… あるかい?」


「はい!」「オッケー!」


 おいおいそこはYes We Can!だろう?←ネタの強要


 さておき、すぐに作るということを長に伝えると二人は無言で涙を流しながらそれはもう満面の笑みで頷いていた。


 どんだけキツかったんだよ、ケチャップ飲んでないだけましだけどさ。


「…の前に、アライさんはどこ?」


「中にいるみたいですよ?」


 長のうどん恐怖症の原因となった我が弟子よ、君に話しておかないといけないことがあるのだよ。


「落ち込んでたらフォローしてあげないと、少し話して来るよ?」


「はい、サーバルちゃんといろいろ準備しておきますね?」


「うん、ありがとう」


 彼女にならなんでも任せられるな、旦那の手伝いを進んでしてくれる嫁の鏡、彼女になら絶大な信頼を寄せることができる愛してる好き好き。


 ってそれよりも今は。


 どこにいるのかと思い図書館に入ると、そこにはうどんのやけ食いをするアライさんの姿が… かなりムカついたらしい。


「頭にくるのだ!アライさんが全部食ってやるのだ!」ズビズバー


「アラーイさ~ん?お腹壊さないでよー?」


 怒ってるね~… そらせっかく作ったものをないがしろにされたら怒りたくもなるのは分かるが。

 にしても博士たちよっぽど嫌だったんだな、料理を拒否するなんて。


「ただいま二人とも、俺の分は残りそうかい?」


「シロさん!」

「おかえりー」


 ぶちギレモードと思われたアライさんだったが、俺が声を掛けるなりぱぁっと花が咲いたような満面の笑みでこちらに駆け寄ってきてくれた。


 自分で言うとあれだが慕われてるんだなと照れくさい気持ちになった。


「しばらく任せきりにしてごめんね?」


「それはいいのだ!元気になってうれしいのだ!」


「ってことは~… 何かいいことがあったんだね?」


「まぁそれは後で話すよ?それより…」


 うどんの件で二人と話し合ってみた、ここで一方的にうどんばかり作った君が悪いと咎める訳にはいかない、というかせっかく作った物を拒否する博士たちが普通に悪いんだ。


 でもここで博士たちが悪いで彼女に共感してもなんの為にもならない、でも博士達が悪いことに変わりはないのでその方針で進めつつうどんの件を注意することにした。


「博士たちがうどんを食べたくないって?」


「そうなのだ!せっかく作ったのにひどいのだ!」


「飽きさせないように~味だって毎回変えたんだよー?」


「なるほど、考えたね… 確かに拒否した博士たちが悪いよ」


 まず行いそのものは正しい、そこは素直に評価するし気転を利かせたのは普通にすごい、でも料理人としてはそれだけではいけないんだ。


「でもアライさん?君は立派な料理人になりたいんでしょ?」


「そうなのだ!」


「それじゃあ得意だからといってうどんにばかり頼ってはいけないよ」


「う…!それは…」


 図星を突かれた彼女は分かりやすく目を逸らし複雑な表情を浮かべた。


 だが聞いてくれ。


「いいかい?君はうどん職人じゃない、料理人だろう?料理人は時に理不尽な客を相手に注文に答えなくてはならないこともあるさ、でもそんな客にだってうまいと言わせて黙らせるのがプロだと思わない?」


「おーなるほどねー?そう聞くとアライさぁん?私達もやってしまったねぇ?」


「ぐぬぬぅ…」


 酷なようだが、これも彼女の為だ。

 いや博士たちがワガママなのが悪いんだけどそれだけではダメなのだ。

 

 というわけで、責めてるわけじゃないからもう一度フォローを入れておく、彼女たちは悪いことをしてるわけではないのだから。


「だけどね?うどんなら俺よりずっと美味しく作れてると思うよ?」


「本当かー!?」


「もちろん、俺はそんなにいろんな種類のうどん思い付かないよ?それもらってもいい?」


 アライさんのやけ食いうどんを指差し頂けるか確認、だが食わなくたって分かる、それがうまいってことくらい見れば分かる。


 彼女は自信をなくしてしまったのか、少し遠慮がちにうどんを差し出してくれた。


「どーぞなのだ…」


「ありがとう、いただきます」


 フムこれは… 味噌煮込みうどんか?前回は心の病から吐いてしまったが… これは!


「美味しい!いや勿体無いねこれを独り占めするのは、かばんちゃんとサーバルちゃんも来てるから分けてあげよう、いいかな?」


「私はいいけどー?アライさんはどう?」


「アライさんもいいと思うのだ!」


 よし、そうでなくては。

 これで自信を損なうことなく料理人の自覚を取り戻すことに成功したな、しっかしこれうまいな~?うどん職人かよこの子?前回吐いたのが本当に勿体無い。


 というわけでさぁ戻ろうかとうどんを持って外に出ようとした時だ、かばんちゃんがやや焦り気味にこちらに駆け寄ってきた。


「シロさん!スパイスが…」


「あ… もしかして足りなかった?」


「ちょっとだけ… 具材の量からしてあのスパイスだと…」


 参ったね、二人分くらいなんとかなりそうだが今日は大人数だし後で作り直すと手間だ。


「ごめんねシロさーん?少し前にカレーうどん作ったんだよー?」


「中途半端にしか残らなかったのだ!」


 なるほどカレーうどんの仕業だったのか。

 

 これからシチューに変えてもいいけどご飯炊いてるし、今更失敗したくないんだよなぁ~?しばらく失敗続いたからなぁ?


 仕方ないな、調べるか。


「かばんちゃんこれちょっと持っててくれる?あ、食べていいよ?」


「わぁ… アライさんが作ったんですよね?すごいですね!美味しそう!」


「実際美味しいよ?食べだしたら止まらないからサーバルちゃんと分けてね?」


 さてと…。


 俺は料理の本をパラパラとめくりカレーの項目付近を調べた、代わりになるものをさがすのである。


 ん~…スープカレー?どうだろう… もっとちゃんと作りたいな、あとは~…?


「わぁおいしい?それにこれ温まりますね?しんりんちほーはサバンナより寒さがあるから今の時期は特に美味しく食べれます!」


「えっへんなのだ!うどんならシロさんを超えたと褒められたばかりなのだ!」


「アライさーん?調子に乗らない方がいいよー?」


 しんりんちほーは雪こそ降らないけど春と秋くらいの寒さはあるみたいだからね、この時期ベッドから出るのも一苦労だ… ん?森林… 林… ハヤシ…


「そうかハヤシライスだ!さすがハニー!冴えてるよ!」


「「ハニー?」」


「し、シロさん…!?」


 パラパラパラ… と大急ぎでページを捲りハヤシライスを探しだす。


「あった!ハヤシライス!」


 ハヤシライス。

 薄切り牛肉とタマネギをデミグラスソースで煮たものをご飯の上にかけた料理。


 “ハヤシ”というのは諸説諸々でよくわからないが、細かく刻むみたいな意味の“ハッシュ、はやす”などからきてるとかなんとか。


 いろいろありすぎてわからないが、とりあえず我が家では肉を使わないスタイルなので野菜ゴロゴロハヤシライスだ。

 

 カレーのようなものかと思ってたら違うんだな…?でもいいね、これなら作れる。

 残りのスパイスとソース、それからケチャップを使えば似たような物が作れるはずだ


 なんかこう試行錯誤でそれっぽいもの作るのは久しぶりだなぁ、よーし燃えてきた!


「あの、ハヤシライス?…ってなんですか?カレーは作らないんですか?」


「うん、似たようなものはなかったかな?って思ったら思い出したんだ、学校給食でしか食べたことないけどね?」


「「「がっこーきゅーしょく?」」」


 おっと… ここで学校の話をしても仕方ないか、それよりも。


「さぁかばんちゃん!結構本気で共同作業になるよ?俺もこれ始めて作るんだけど、かばんちゃんがいればなんでも作れる気がするよ!やる気出てきた!」


「ふふっシロさん楽しそうですね?」

 

 もちろん楽しいとも、新しい料理を作るのは楽しいんだ。


 しかもかばんちゃんもいてくれるし、失敗する気がしない、根拠はないが一緒なら本当になんでも作れる気がする、肉がなくたってハンバーグも作れるって気持ちにさえなる。





「みゃーみゃみゃみゃみゃ!… あ!シロちゃんかばんちゃん!野菜切ったよ!」


「ありがとう!後は任せといてー?うどん食べる?」


「うみゃあ… あったかーい!」ズビズバー


「かばんちゃん、本を元に指示をくれる?」


「はい!それじゃあまず、みじん切りにした玉ねぎを…」


 はいはいなるほどね?こう作るのか… へぇ?結構お洒落料理だなぁ?


 かばんちゃんは指示も的確で手が空くと他のことをやってくれる。

 でも頼りきりではいけない、彼女の手料理を腹いっぱい食べてみたい気持ちはあるけど、やっぱり料理人としては彼女に美味しいものをたくさん食べさせてあげたい、俺の作ったもので笑顔になるとこが見たいんだ。


 たまに思うんだよ、もう彼女さえ幸せにできたらいいかって。


 自分のことは二の次で周りの子も関係無くって、ツチノコちゃんとの約束以前に悲しませたくなんてないし、泣かせるなら嬉し涙にしてあげたいんだ。


 彼女の笑顔の為なら、俺は何だってやってやるさ。



 そして出来上がったものがこちらです。



 一口味見するとなんとも懐かしいハヤシライスの風味が、成功だ!やったぜ!

 本当は牛肉の旨味があるんだろうけど、ものよっては豚肉を使うらしいし案外肉は関係無いんだろう。


「かばんちゃん、はいあーんして?」


「じ、自分でできますよぉ?」


「やめとく?」


「ください…///」アーン


 口に運んであげるとパッと目が開き顔が綻んだ… 彼女も気に入ってくれたようだ、にこにこと笑っている、可愛い。


「美味しいです!やっぱりシロさんは料理がお上手ですね!」


「かばんちゃんと作ったからだよ?いつもは初めての料理って失敗すること多いんだよ?味のイメージが付きにくいものが特にね?」


「僕は大したことは…」


「ねぇかばんちゃん?俺頑張ってもっといろんな物作れるようになるよ?みんなの喜ぶ顔もみたいけど、やっぱりかばんちゃんに一番喜んでほしいから…」


 照れくさい、これは人に聞かれたくないな… こんなことを言うのは君にだけ特別だよかばんちゃん?


 そうしてハヤシライスの方に向き直し中身をかき混ぜたりしていると…。


「えいっ」ギュウ


「わっとと…!?」


 背中が温かく、腰の辺りに手が伸びている、後ろから抱き締められているのだろう。

 お嬢さん?あまりそういうことされるとケチャップの代わりに鼻血がお鍋に入りますよ?


「じゃあ僕は、シロさんに一番喜んでもらえるように頑張りますね?えへへ」


「…あ、ありがと///」ボソッ


 えー… 今、世界で一番幸せなのはSHIRO

だと思います… ホワイトはどう思う?


 ん~…ホワイトも以下略。





 そんな二人の愛情が死ぬほど詰まったハヤシライスが完成した、では長の二人には食べていただきましょう。


「シロ、これはカレーではないですね?」「似てますが違うのです」


「それはハヤシライス、スパイスが足りなくてね?急だけどメニューを変えたんだ」


「まぁいいのです… では助手?」

「はい博士…」


「「いただきますッ!」」パンッ!


 なんかそれも久しぶりだなぁ~…。

 挨拶するなりがつがつと貪り食い始めた二人、そしてそんな博士達はなんとお行儀の悪いことにお喋りを始めだしたのだ。


「しかしシロ!お前はおかしなことを言うのです!」モグモグ


「何が?」


「そうですシロ、何を言うかと思えば“ハヤシ”ライス?」モグモグ

「バカも休み休み言うのです」モグモグ


 二人は何の話をしてるんだ?味は問題ないはずだけど… ハヤシライスは好みに合わなかったか?


「これはダメですね」モグモグ

「問題ありなのです」モグモグ


 これに関しては皆さんも物申したい様子。


「食べてるじゃん!」

「あの、なにがいけないんですか?」

「ワガママも大概にするのだ!」

「さすがに失礼すぎないかなー?」


 まるで意味がわからんぞ、めちゃめちゃ綺麗に食ってますやんか?皿が白いぞ。


「「おかわりをよこすのです!」」完食


 \え、えぇ~!?/


「二人とも!なにが気に入らないのさ!話すまでおかわりはなし!」


「わからないのですか?」

「頭を使うのですよ?」


 二人の言い分なんだが… どうやら名前が気に入らないらしい、そしてなかなかに妙なことを言い放った。


「ここはしんりんちほーですよシロ?」

「なら、ハヤシライスではなく“しんりんライス”にするのが筋なのです」


「…」 


 いや…。


 「筋なのです」ドヤッ じゃない!林じゃないんだよ!諸説あるんだよ!


「いやハヤシってそういう意味じゃ…」


「わかったら早くしんりんライスのおかわりを持ってくるのです!」

「我々はしんりんライスを待っているのですよ!」


「あぁもうわかったよ… しんりんライスの追加オーダー入りまーす」


 確定してんのかよ、まぁいいさ。


 愛情たっぷりハヤ… しんりんライス、レシピに追加っと… 気に入ってくれたらそれでいいさ?


「ところでシロ…」


「ん?なに?」


 俺を呼び止めた長、皿を避けようとした俺を前に二人は流れるような動作でなにか始めた。

 まず博士が助手の後ろから「えいっ」と抱きついた、そして…。


「助手の分のおかわりを多くしてあげてほしいのです~?やっぱり助手に一番喜んでほしいのでぇ~?」ニヤニヤ


「ッ!?」「わぁ~!?」


 俺それ知ってるわ、さっきやったもん… かばんちゃんも耐えられないのか両手で顔を覆っている。

 

 やってくれるなしんりんのヤベーやつら?


 二人はくるっと反転すると今度は助手が博士に「えいっ」と抱きついた。


「では私は~?博士に一番喜んでもらえるように頑張るのですぅ~?」ニヤニヤ


「わぁ~!?なななんで知ってるんですかぁ~!?///」


 よしわかった、宣戦布告か?いいだろう?皿の上の物を誰が支配してるのか思い知るがいい、愚かな猛禽類よ。


「助手ぅ~///」ニヤニヤ「博士ぇ~///」ニヤニヤ


「みんなーしんりんライス食べていいよー」


「わーいなのだ!」

「よかったねぇアライさぁん!」


「ッ!?シロ!」「何のマネですか!?」


「わーい!いいのー?でもシロちゃん!二人のおかわりは?」


 おかわりならあるだろう?とても美味しい物がな。


「おかわりは!」

「我々のおかわりは!?」


「チェーンジ!やっぱうどん!」


「「あぁぁぁぁぁあッ!?!?!?」」


 すり替えておいたのさッ!

 



 さぁ~て明日はなに作ろうかなー?

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