第27話 獣の心
「ヒグマさんはピザを!」
「わかった!」
「かばんちゃんは俺のサポートを!」
「はい!」
「二人ともわからないことがあったらなんでも聞いて!じゃあ始め!」
フレンズは動物の頃の名残で火を極端に恐れる子が多い。
が希にこうしてへっちゃらな子がいるのだ、そう火を使えるこの二人。
潔く二人に手伝いを頼んだらなんと心強いことか、一人でどれ程大変だったというのも同時に理解した。
「焼けたぞ!」
「大皿に乗せて!」
「どれだ!」
しまった!
洗い物が進んでいない、作るのに手一杯でとても俺が洗っている暇はなかった、ラッキーに頼んでいたがそれよりも遥かに使う方が早かった… がしかし何も料理をするだけが助っ人ではないのだ。
「アライさんにお任せなのだ!」
その声と共に現れたすでにピカピカの洗い物たち、その美しさについ目を奪われた。
「すごいよアライさぁん!」
「えっへんなのだ!」
「助かった!ありがとう!」
アライグマのアライさん、そそっかしいと思っていたがなるほどさすがアライグマってことか… その名は伊達ではない。
「混ぜながら焼けばいいんですね?」
「そう、こんな感じ」
かばんちゃんにはサポートしてもらう上でいくつかレクチャーしなくてはなるまい、俺は手本としてフライパンの上の物をシャンシャンと宙に舞わせた。
「わぁ!すごいですね!」
「無理にこれでやることはないよ?焦げなければ大丈夫だから」
「こう… でしたね?」シャンシャン
嘘!?で、できちゃった!?さては天才かよこの子?
俺の三ヶ月とはかばんちゃんの一瞬だったのか、少し虚しいが嫉妬してる場合ではない。
というか素直にすごいのである、サーバルちゃんが言う「かばんちゃんってすごいんだよ!」これはオーバーな表現でもなんでもなくマジでハイスペックなのである。
「シロちゃん!わたしもなにか手伝うよ!」
と噂をすればサーバルちゃんも力を貸してくれるそうだ。
「ありがとう!じゃあ~何がいいかな…?」トントントントン
「え、えぇー!?爪も無いのに切るの早すぎるよ!余所見して危なくないの!?」
フフン… さすがにこれは努力の賜物だ、かばんちゃんにもそう真似できないだろう。
さておき、そんな固有スキルもだんだんと手元が狂ってきたかもしれない、大きさもバラバラだし黙ってたがほんの少し指も切った、血はすぐ止まったけど疲れが出ている証拠だ。
「わたしが切るよ!」
「OK!じゃあこれ細切れにしてここに入れてって!」
「よーし!… うぅみゃみゃみゃみゃみゃみゃあ!」スパパパパ!
おぉすごいなサーバルちゃん、スナネコちゃんより切るのうまいんじゃ?結構正確な切り方だ。
でお次は…。
「鍋に水を!」
「もってきたぞ!」
「さすがツチノコちゃん!言わなくても俺のことがわかるなんて!」
なんかトントン拍子に事が進むし疲れのせいかだんだんハイになってきたフー!
「た、たまたまだよ!いちいち取りに行くと面倒だと思って溜めといたんだ!」
「そこで気を効かせることができるのがさすがなんだよ!スナネコちゃんもありがとうね?」
「満足」
すっげー早い、すぐ終わるよこれ… そうかこれが群れの力か。
こんな風にみんなで協力して何かを成し遂げる楽しさや頼もしさ、これまでになかったことだ。
俺は今一人じゃない、みんなの中にいる。
ケモノはいてもノケモノはいないんだ。
…
その後、新たなカレーの味付けはかばんちゃんに任せることした、同じ味より変化があったほうがいいだろうと思ったからだ。
俺はまたふわとろオムライスに移る、うまいこと包みひっくり返すとこを見せるとみんなは褒めてくれて実にいい気分になり疲れも吹き飛んだ。
「すっごーい!」「上手ですね!」「器用だな!」
いい気分だ。
いい気分だがふと思った。
もしかすると今のでかばんちゃんは覚えたんじゃないだろうか?余裕もできてきたしちょっと聞いてみようかな?彼女がどれ程優れた存在なのか確かめたい、好奇心だ。
「かばんちゃん、今のできそう?」
「さ、さすがに… どうでしょう?」
で、ですよね… 無茶を言いました、今のは少し意地悪だったかな?
「どんな感じでやればいいんですか?詳しく教えて貰えれば…」
詳しくか… 詳しくって言うと… 方法はあるが初対面の子にこんなことあまり良くない気がするのだけど。
待ってそんな… そ、そんなまっすぐな視線を向けられると…。
「やってみたいとは思うんですけど、失敗もしたくないので」
「あ、やって… みる?」
「はい!」
くそ!何ていい返事なんだ!いいだろう!やぁぁぁってやるぜっ!!!←ヤケクソ
「じ、じゃあ嫌だったらいってね?ちょちょっと後ろから、しししし失礼します…!」
というのは… 後ろから体をくっつけて手の動きを合わせる… 手取り足取りというやり方だ。
さっきまでまともにしゃべっているようにも見えていたかもしれないが、それは料理に集中して彼女と目を合わせていないからだ。
だが今は話すのも緊張する初対面の女の子と密着してふわとろオムレツを作るというエクストラモードに挑戦しなくてはならない、そうするとどうなる?
知らんのか?
欲望が男の子になる。
きっとこれはこんな純真無垢でとてもいい子な彼女の才能に一瞬でも嫉妬した罰だ、いやむしろご褒b… 集中だ集中…。
後ろから体をくっつけると「フェッ!?」と彼女は小さく驚きの声を挙げ、その細い肩をピクリと震わせた。
「ごごごめんね!?やっぱりやめとこうか!?」
「い、いえ… 大丈夫!大丈夫です!」
引いてるなこれは、絶対引いてる、震えてるもの。
はぁ…。
って落ち込んでる場合か!集中しろ!
「コホン… じゃあいくよ?、力を抜いて?」
「は、はい!」
それにしても、中性的な彼女だがこうして近づいてみるとやはり女の子だ、肩は狭く背は俺より小さい、帽子を脱いだその髪は女性から見ればショートだが男の俺から見れば長い方で少しクセっ毛気味だ。
どの程度なのか定かではないが、見た目年齢にして14~16歳ってとこだろうか?年頃だ。
いや、変なことはしませんよ?誓います!父と母といろんななんか凄い人達に誓います!
でも知ってる?女の子っていい匂いがするんですよ… それはシャンプーとか香水とか洗濯洗剤からでるものではなく、とにかくいい匂いです、疲れてるのも忘れるほどに。
おい待て、集中だ…。
「まず卵を落として端から真ん中に寄せるようにかき混ぜる… こんな感じ」シャカシャカ
「こ、こうですね?」
「そう、で今度はこう傾けて角に寄せてとんとんと…」トントントン
「あ、なるほど… これで丸まっていくんですね?」
「うん、それじゃあ最後の仕上げいくよ?さっきの炒め物の時みたいな感じでこう滑らせて… はい!」クルン!
その時玉子は華麗に宙を舞い、華麗にフライパンに着地した。
どんなもんだい、大成功だ。
やれやれまだドキドキしてるよ、こんなにくっついたらこれ聞こえてるよ絶対。
「わぁ… 凄いですね?できました!」
「はい、良くできまし… た… ?」
“ 失敗しちゃった…
まったく、君はすぐ見栄を張る… 俺がやるよ
わーい!パパすごーい! ”
まただ!また母さんの声だ、どんどん間隔が… しかも今度は父さんまで出てきた。
やっぱり疲れてる、まさか意識が遠くなってるんじゃ?ボーッとしてないで夢なら寝てるときにしてくれ、今忙しいんだ。
「あ、あの… シロさん…」
「…え?あ、はい?」
「も、もう大丈夫です… だからその…」
「あ、あぁ~!?ごめんごめん!」
かばんちゃん、俺の印象最悪だろうなぁ。
ボーッとしてる間もずっと手取り足取りの密着状態だった、そもそも料理中にボーッとするなんて危ない、きっと白昼夢ってやつだと思う。
「…」ムス
「ツチノコちゃんなんか怒ってる?」
「ほっとけッ!」
「ひぇ… なんかごめんなさい」
怒ってる怒ってる… 絶対怒ってるよ…。
それからふわとろオムライスなんだが。
「ねぇねぇかばんちゃん?さっきのできそう?」
「わかんないけど、やってみるね? …それ!」クルン!
「わぁーい!すっごーい!」
て、天才かよ…。
…
数人で作った甲斐もあり俺にもかなり余裕ができた、フレンズさんもみんな満足気なご様子だ。
では最後にスイーツ… ミニパフェなぞご用意させていただきました、ソフトクリームを添えて。
「フリシアンさん、ソフトクリームバッチリだね?」
「バターもチーズもヨーグルトもお気に召しました?シロさんが教えてくれたおかげですよ?フフフ」
「あ、いや~照れますね… ハハハ」
相変わらず目のやり場に困る人だ、かばんちゃんとは別の理由で見れない。
さておき、それから特設ステージにPPP登場、ライブが始まったようだ。
「みんな今日は楽しんでる?」
\ワーイ!/ \タノシー!/
「それじゃあ一曲目!大空ドリーマー!」
♪ ♪ ♪♪ ♪ ♪ ♪ ♪♪
…
へぇ?すごいや本当にアイドルだ…。
俺としてはフルルが素早く動いてるのが意外で仕方ない、歌も上手だし。
ところでリーダーってあのプリンセスちゃん?じゃないんだ?あの、あの… なんていうかグラマラスな… ほら、コウテイさん?だったよね?彼女がリーダーなんだね?足回りの露出が激しいリーダーだ。
聞くにPPPは初代が4人で先代が3人だったんだそうだ。
人の世界では最近やたら人数の多いアイドルが流行ってるが、実質5人くらいまでが丁度いいかもしれない、顔も覚えやすいし。
にしてもすごいなぁ、PPPハマりそう… 娯楽の少ないジャパリパークだからこういうのは実に新鮮で良い。
「ロックに行くぜーッ!」
と叫んだのはイワトビペンギンのイワビーちゃんだったか?ロック… ロックがあるの?楽器のない世界にロックが?興味深い、博士と助手やツチノコちゃん辺りなら楽器のことも知ってそう、今度聞いてみようかな。
…
やがてライブも終わりが近づきこちらの仕事も落ち着いてきた頃。
「シロ、そろそろお前の出番です」
「打ち明けるのですシロ、御膳立ては済んでるのです」
「あ、もうそんな時間?」
「プリンセスが呼んだらステージに上がるのですよ」
「もしかして緊張してるのですか?情けない… どんと構えていればいいのです」
なんでこんなときまでそんな辛辣な…。
いや、心配することはないって博士たちなりの気遣いだろうか?今日の雰囲気を見れば確かに俺の考えすぎかもしれないが…。
「み、見ててやるからな!ビシッと言ってこい!」
ツチノコちゃん、来てくれて本当にありがとう。
そうして背中を押してくれるから俺はステージに上がれそうだよ。
とそこで一つ…。
「ありがとうツチノコちゃん!あ、そうだ!ちょっとお願いあるんだけど!」
「なんだ?あんまり無茶は言うなよ?」
「ちょっとフードおろしてみてよ」
「な!?」
思えば、フードをおろした状態を見たことがない… ヘビの子って基本そうなのだろうか?頭と融合してるわけではあるまい、せっかく綺麗な髪なのに勿体無いので見せてもらおう、元気がでる… かも?
「頼むよ~?気になっちゃって!」
「んぐぐぐ… しかしだなぁ!」
「何をためらっているのです」
「さっさと取るのですよ」グイグイ
「おぉい!なにすんだ!?」ファサァ
「おぉ…」
おぉイェア!結構髪長いんだ?やっぱり綺麗じゃないか?口は悪いがしっかり女の子だ、ビダルサス~ン。
「ふぎゃー!?!?」
あ、すぐ被っちゃったよ勿体無い。
「いい顔いただき」
「なんだそりゃあ!ったく… 満足か?」
「うん、なんか元気でた」
そうして緊張もほぐれてきた頃、時は訪れる。
俺がここにいられるかどうかの審判の時だ。
「それじゃあこのパーティーの主催者を紹介するわ!シロ!出番よ!」
プリンセスちゃんが俺を呼んでる、行かなくちゃ。
「じゃ、行ってくるね?」
「さっさと行けッ!」
「はいはい… 博士?もしもの時は…」
「わかってるのですよ」
「心配はしてませんが、腕利きの連中に声をかけてあるのです」
よし、もう後腐れはない… 行こう!
\ワァー!/
俺がステージに上がると割れんばかりの喚声を頂いた、いやそんな大したこと無いですって?手を振る人に笑顔で答えってか?
そしてまずはインタビューを受ける。
「今日は美味しい料理ありがとうシロ!最高だったわ!」
「あはは、どうも!気に入ってもらえてよかった!」
「ご覧の通りみんなも大満足みたいよ?」
観客に目を向けるとキラキラと眩しい笑顔で各々が答える。
「美味しかったー!」「またつくってー!」「ひっくり返すやつ好きー!」
「ありがとー!また作るよ~!」
とこちらも爽やかな笑顔で手を振り返す、という前置きをした上で本題へシフトする。
「いろんな物を作ったり使ったり… ヒトってやっぱりすごいのね!でもシロ、あなたにはもうひとつ秘密があるって聞いたわ?今日はそれも教えてくれるの?」
「もちろん、そのためにパーティーを開いたようなものだからね?」
「じゃあ今、聞かせてくれるかしら!」
騒がしかった皆も急におとなしくなる、博士の言ったように御膳立ては済んだ、後は真実を伝えるだけ。
一度ステージの端の博士たちを見た… 目が合うとコクりと頷いてくれた。
心配するなってことだね。
「知ってる子も多いと思うけど、訳あってジャパリパークに来ました… 船でね?
俺にはご覧の通り耳も尻尾もない、種族はヒトです、そしてフレンズ化した生き物という訳でもないんです、今日会うことができたヒトのフレンズかばんちゃんとも少し違います、ただのヒト… ここまでは皆さんの知っての通りだと思う」
よし言うぞ… 俺に過去なんていらない、ここから人生の再スタートだ。
「それで訳あっての部分だけど、それは…」
深呼吸をして全身の力を抜く、そして内なる姿を皆の前に今さらけ出す…。
野生解放!それにより俺のもう一つの姿、ホワイトライオンの姿に変わる。
ザワ… ザワ… と姿が変わった俺を見て会場は一瞬だけざわついた。
俺は今、遂にみんなの前でフレンズの姿を見せたのだ。
「聞いてほしい!俺のこと!俺は半分だけフレンズなんだ!母はホワイトライオン!父は人間!そんな俺だけど… どうかよろしくお願いします…!」
よし言えた!
頭を下げていてもわかる、みんな驚いている、そりゃそうだろう。
それにこの姿、やっぱり少し落ち着かないな…。
しん… と一瞬だけ静寂がパークを包む、ほんの一瞬のことだがそれは俺には長く感じて、でもすぐに皆の声に包まれた。
「「すごーい!」」「「かっこいいよ~!」」「「こちらこそよろしくね~!」」
「勝負しよーッ!」
なんか今一瞬へんな声が… いやいいか。
よかった、受け入れられた…。
本当によかった… 俺やったよ、父さん?母さん?
「がぁーッ!!ありがとー!!」
高々に両手を天にあげ… 涙ながらに感謝を表す俺。
その時、どんよりとした雲がこっちに向かってくるのは見えた、よく覚えている。
でも…。
記憶はそこで途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます