-/7 余話
──そして、百と何十年かあと。
「──っ」
「どうした?」
隣を歩いていた狼の
少年は黙ったまま首を横に振ると、胸の前で握った手を狼の前に差し出した。
反射的に手のひらを差し出した、その上に落とされたのは雀の頭ほどもある
「……なんだ、これは」
狼は少年から渡されたそれをくんくんと
半分透き通ってはいるが、
何の匂いもしないそれを爪の先でつついてみると、
だが、妙な力のようなものだけは感じられる──何となく、居心地の悪いような気配。
いくら検分しても正体の見当がつかず唸っていると、少年はわずかに
「
言われて、狼は視線を宙に
「ああ、お前にしては珍しく持ち主に帰してやったやつだろ? もう百何十年か前だったっけなぁ、あれ。持ち主がえらく入れ込んでいたように記憶しているが、あれからあいつ、どうしたんだろうな」
「それ、あの子だよ」
「……は?」
狼はきょとんとした顔で、手の中の
「あいつ? この玉が?」
少年は生真面目な顔で頷く。
「そう、涼清刀。そう呼ばれた『鬼』の、これが根源。存在の
「……かたち? 意味? ……まさか」
その奇妙な塊が
画師は絵によって形を定め、己の血液をもって形に
その血の役目を
「
「ああ、あの──気の弱そうな男、死んだのか。だが、何故わざわざ」
僅かに悼むような表情を浮かべた狼に、少年はこともなげに手を振った。
「ああ。僕は人じゃないからね。何をするにも血の力は必要なのに、自分で生成できるだけの分じゃ間に合わないんだ。こうやって過去の遺物から霊性を
「……枯渇ってお前な」
「んー、まぁ、普段は生成が消費を上回っているからいいんだけどね、たまに大怪我するじゃない。ああいうの、本当はかなり辛いんだよ。土の上なんかだと回収するのも大変だし、水だったらもう手が出ないしね」
「あ、そ」
「大事なんだから、
呆れた顔の狼の手から玉を取り戻すと、少年はそれを掌の上で転がす。
「それにしても、ほんのひとしずくで十分だってのに。あれだけの形と力を与えるならもっと運気の調整をしてやらないといけないのに、それすらもしていないなんて」
そんな文句を誰ともなく呟いて、少年は掌の玉を大切そうに懐に仕舞った。
細い掌の下、それはじわりと融けて真白い肌に広がる。
「運気の調整って、そんなに都合のいいことまでできるものなのか、画師って奴は」
「まぁね。特に人型を取れる『鬼』は、
……最終的には大事にしてもらったみたいだし、それはそれでよかったのかもしれないけど」
すぐに消えたその赤い染みに気付く由もなく、狼はふいとため息をついた。
「……そうか、それなら良かった」
心底安心したかのような狼の様子に、少年は軽く肩をすくめる。
「全く。人の心配をしてる場合じゃなかろうに」
「ん。何か言ったか」
「いいや。どんなものでも、幸せに消えられるのが一番だねって話」
「ん、まぁ、そうかもしれんが。だがお前が言うと、何となく
「いや、それは君が妖だからだよ」
「そうか……いや、そうなのか?」
「判らないのなら無理に判ろうとしなくて良いと思うよ」
珍しくけらけらと声を上げて笑って、少年は先へ行くよ、と連れを
────────【使命果たすに過ぎたる刃/狂刃・了】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます