3 猫まみれの午後

「なーーーーーご」


 のしっ。


 自分のがっちりした鱗に覆われた手の上で、ごろごろしだした猫を見て、オディラギアスは思わず固まった。


「……あー……もしもし。セクメト様……?」


 そう。

 この赤い毛皮の猫は、あの冒険の旅で散々世話になった召喚魔神セクメトである。

 本来なら旅の仲間の一人、ジーニックと契約した召喚魔神なのだが。


「……ジーニック。そこにいるな?」


 うっそりした顔を上げたオディラギアスの視線の先に、ドアの隙間から半分顔を覗かせたジーニックがいた。


 で、猫は、オディラギアスの執務机の上に、堂々と寝そべっている。

 メイダル産の、いわばパソコンに相当する機械――仕組みがあれこれ違うが――を占領され、ルゼロス国王オディラギアス、政務続行不可能である。


「なーーーーご」


 何か世界を滅ぼしたことがあるとかいう猫様が、オディラギアスの腕に、しきりに自分の毛皮をこすりつけていた。

 かゆいのかも知れない。


「ふふふ。オディラギアス様。いい加減、やる気なくなってきたでやしょう?」


 にやにやと扉の隙間から顔を覗かせたままで、一応立場的には、オディラギアスの臣下ということになっているジーニックが言葉を投げた。


「どうでやす、何だかご自身が疲れていることに気付いたんじゃないでやすか? ほう、たまにはお昼寝したい? 過労死なんてごめんでやすよね?」


 相変わらず心霊写真みたいに顔を半分だけ覗かせて、ジーニックが言い募る。

 その間にも、ネコメト……じゃなかったセクメトは、オディラギアスの腕の中でごろん、と丸くなった。ごろごろと喉を鳴らして眠りの姿勢に入っている。


 ……何だろう、前世で実家で飼っていた猫を思い出す……いやいや。


 いやでも……

 もふもふもふもふ。

 もふもふもふも……


「……隣に、仮眠室あるでやすよね? さあ、レッツお昼寝!!」


「……ちょっと待て。どういうことなのだ」


 ああ、猫がもふもふ。

 まるまる。

 何かこう、戦いの女神セクメトは、戦闘モードを解除すると猫になるとか何とか聞かされたようなぼんやりした記憶が蘇るが、それはそれとして……ねこ!! ああ、このやろう、ねこめ!!!


「あっしら陛下の腹心五人が、『オディラギアス様の過労死を食い止める会』を発足させたでやすよ!! リーダーはレルシェちゃん」


「あやつめ……」


 愛妻の顔を思い浮かべて、オディラギアスは苦笑してしまった。

 彼女に実家の猫の話をしたのはまずかったか。


『寝る。わしを寝床まで連れていけ、下僕』


 ネコメト様からそう下知され、オディラギアスは逆らう気力も起きなかった。


 まあ、いいですけど。

 神様なんだから、国王より格上なのは分かります、ええ。

 これでも、嫁は巫女なんでね。

 そもそも、人間って猫様の下僕だよね。


「……すまん。少し寝る」


「おやすみなせえましっ!!」


「なーーーーー」


 猫を抱えて隣接する仮眠室に引き上げるオディラギアスを、その忠実にして猫にまみれた腹心が見送ったのであった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

しょーーーーかんまじーーーーん三重奏 大久保珠恵 @sichan09

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

神話と神々と幻想生物とオカルトと小説とTRPGと人生を豊かにする無駄全般を愛する小説書き。 セクシー・ワイルド・キュート・スレンダー・天然・知性派・耽美その他、魅力と個性溢れるイカした女子を舐め回…もっと見る

近況ノート

もっと見る

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!