練達
「……何故、ここに貴方がいるの?」
振り向きざま、問う。
ここは魔の森の入り口。
私はルーノと共に日課の訓練にやって来た。
プレアグレアから一週間、そろそろ訓練をしないと身体が鈍ると思ってのことだ。
それは良い。それは良いのだけど……何故か、私の後ろにはサーロスがいた。
「僕も訓練をしようと思って」
「……そうですか」
それは、そうだろう。
こんな夜にわざわざ魔の森に入るなんて、訓練以外に理由はないはずだ。
……薬草の収集であれば、視界が確保できる昼の方が効率が良い。
そんな分かりきったことではなく、意図を聞きたかったのだけれども……。
「では、お先にどうぞ」
まあ、良い。
私がサーロスが行った方角と違う方に行けば良いのだ。
テレイアさんやあの子たちならともかく、他人と行動するのは私にとってストレスでしかない。
自由時間に、わざわざストレスを抱える行動を取る人はいないだろう。
何より、ルーノが元の姿に戻れないのは可哀想だ。
狭い部屋で普段我慢してくれているのだ……この時ばかりは自由にさせてあげたい。
「せっかくだから、一緒に訓練をしようよ」
「申し訳ありませんが、私は私で訓練をしますので」
しばらく、じっと見つめ合うように目を合わせる。
強い風が吹いて、ザワリと森の方から葉が擦れ合う大きな音がした。
暗い最中木々が揺らめく様は、魔の森という名に相応しい不気味な様相だ。
風が治った頃、彼が折れて魔の森に入って行った。
少し疲れを感じてその場で重い息を吐く。
「……クゥン」
ルーノが心配げに私を見上げた。
「……大丈夫よ。さっ、行きましょうか」
私たちもまた、サーロスとは別の方向に向かって魔の森に入って行った。
プレアグレアが終息してから一週間、既に魔の森には魔獣が現れていた。
とはいえ出現する量はそこまで多くなく、プレアグレア前の平時に戻っているようだ。
その様を自らの目で見て、安心する。
またプレアグレアが起きたら……否、そもそもでプレアグレアが解決したのかどうか、正直なところ不安だったのだ。
とはいえ、私の記憶が正しければもう少しで聖女が交代する。
交代するということは、前代の聖女が亡くなるということだ。
歴史を紐解くと、前聖女が亡くなって新たな聖女を選定するその間……聖女が世界からいなくなるその空白の時間に、たいてい魔獣が活発化する。
この前のプレアグレアの時の対応を考えるに、王国は全くもってアテにはできない。
自らの手で、テレイアさんやあの子たちを守るしかないのだ。
そのためにも魔の森には今後も定期的に入り、自らを鍛え、なおかつ森の様子を注視した方が良いだろう。
そんなことを考えつつ、ルーノの戦いを眺めていた。
「……随分強くなったわね、ルーノ」
Bランクの群れに対し、一匹でそれらを討伐しきったルーノを褒める。
ルーノは当たり前だと言わんばかりに鼻を鳴らしていたけれども、心なしか誇らしげに胸を張っているような気がした。
ふと、気配探知に大物が引っかかった。
「……ちっ」
その近さに、思わず舌打ちをする。
魔力の大きさだけで言えば、Aランクはありそうだ。
向こうも私たちの存在に気がついたのか、一直線にこちらに向かって来ているようだった。
「……ルーノ。私が相手をするわ。雷光刃」
数十本の雷の刃を、出現させる。そしてそれらの内の何本かを魔獣の方に向けて放った。
草むらから飛び出してきた狼型の魔獣は、それらの刃を器用に避ける。
私は、その動きに応じて更に雷の刃を放ち続けた。
何故、Aランク相当の魔獣がこんなところにいるのか。
……やはり、聖女の交代劇が既に影響を及ぼしているのだろうか。
分からない。
分からないが、ここで倒して憂いを断ちたい。
雷光刃の圧倒的な物量によって、魔獣はそれ以上私に近づくことができず、一方私もその素早い動きのせいで完全に仕留めることができないでいた。
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