第76話


 ――屋敷


 それは、セロ12歳の誕生日。


 セロの父親は貿易の仕事をしており成功者と言われていた。

 セロの父親が子供のころ憧れた仕事……

 それは、ヒーローだった。

 しかし、セロの父親にはメロディを奏でる能力がなかった。

 それ故、能力に目覚めたセロに父親は大喜びだった。


「今日は特別な誕生日だ。

 君には、特別な誕生日プレゼントをあげよう」


 そういってセロの両親と妹はデパートに向かった。


「特別なプレゼントってなにかな?」


 セロは、オトナに尋ねる。


「さぁ、なんでしょうね?」


 オトナは、楽しそうに笑う。


「オトナ、なにか知っているの?」


 セロがそういうとオトネがいう。


「そんなこと姉さまが言えるはずなかろう?」


 オトネが、そういって胸を張る。


「こら、オトネ!

 ご主人さまに向かってその口のききかたはやめなさい!」


「てへ。怒られちゃった!」


 オトネが舌を出して笑う。


「……ん?」


 セロが首を傾げる。


「どうかなされました?」


 オトナがセロに尋ねる。


「なんか今地震があったような」


 セロが首を傾げる。


「地震?んなもんあるかよ」


 オトネがケラケラと笑う。


「オトネ!」


「いいよ、別に。

 今どき主人とメイドなんてエロゲーだけの世界だし」


 セロがそういうとオトナがいう。


「そういうのどこで調べたのですか?」


「セロのベッドの下の沢山のエロゲーとAVがあるぜ?」


「オトネは、どこでそういうのを調べたのですか?」


「……ひ・み・つ」


 オトネがケラケラと笑う。


 すると執事が部屋に入ってくる。


「あら?セバスチャン?どうかなされました?」


「お逃げくださいませ」


 執事のセバスチャンがそういってセロの方を見る。


「ん?」


 セロが首を傾げる。


「お逃げください。

 先程、ご主人さまが亡くなったとの情報が入ってきました」


「え?亡くなった?」


 セロにはなにが起きているかわからない。


「ヒーローの暴動に巻き込まれ、ご主人さまと御婦人。

 そして、みさきさまが亡くなられました。

 瓦礫の下敷きになり即死だそうです」


「貴方はどうしてそれを知っているのですか?」


 オトナがセロの前に立つ。


「それは……それ――は――あ?」


 セバスチャンの身体がガクンっと崩れる。


「きゃは!この玩具。

 あっというまに壊れたわね。

 老体に鞭を打ったからかしら?」


 だみ声で綺麗な容姿の少女が現れる。


「貴方は、アインのクレイジー・クレイジー!」


「アインって言うな。テオスよ」


 クレイジー・クレイジーが笑う。


「さぁ。今回の招待客。

 穴あけヒーローのジャム・ジャッキンの登場よ」


 ジャムが、ゆっくりと現れる。


「や……め……ろ……」


 ジャムが抵抗を示すがクレイジー・クレイジーの糸からは逃れれない。


「やめろ……親父」


 幼きジャキが、そういってジャムの前に立つ。


「ジャキ……逃げてくれ!」


 ジャムがそういって手を大きく振りかざす。


 オトナがジャキの身体を持ち上げると大きく後退した。


「クソが。

 俺はヒーローだぞ?」


 ジャムがクレイジー・クレイジーを睨む。


「だからなに?今は私のお人形さんでしょ?

 ここのメイドきれいな子が多かったから……

 遊びがいがあるわ」


 クレイジー・クレイジーが嬉しそうに笑った。


「お前に操られるくらいなら!!」


 ジャムが、ジャキの方を見る。


「親父?」


「あとは任せた!ジャキ!」


 ジャムは、自分の胸に手を当てると能力を発動させ自害した。


「あら……つまんない」


 クレイジー・クレイジーがそういうとため息を吐いた。


「てめぇ!」


 ジャキが怒鳴る。


「やめなさい」


 オトナが、そういってジャキを静止させる。


「あ、ちなみに貴女と貴女」


 クレイジー・クレイジーが、オトネとオトナのほうに指を向ける。


「これプレゼントよ」


「プレゼント?」


 すると丸いボールがふたつあしもとに転がる。

 ころころころころ。


 そして、オトネは言葉を失う。

 なぜならそのボールは、ボールではなく。

 ふたりの父と母の頭だったからだ。

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