第34話

 しかし、フィサフィーが笑みを浮かべる。

 ただ一笑。

 それだけのはずなのにセロたちの背筋に寒気が走った。


 死。


 それしかイメージできない。


「ご主人さま!しっかりしてくださいですのます!」


 オトネが、そう言ってセロの背中を叩く。


「オトネ?どうしてここに?」


 セロがゆっくりとオトネの方を見る。


「オトネからのキスが嫌だからって老人に走るとは見損なったですます!」


 オトネが、頬を膨らませて怒る。


「どうしてこんなところに来た!?

 コイツはヤバイ!僕が時間を稼ぐ!

 だから、オトネ!お前は逃げろ!」


 セロが、そう言ってオトネの前に立つ。

 しかし、足が震える。


 死。

 それで済むはずがない。

 まわりも騒がしくなる。

 当然のごとく、まわりはセロたちの戦いから距離を取っている。

 逃げている人、泣いている子ども。

 その全てが一瞬で訪れる死ではなく、惨たらしく残酷に殺されていく姿がセロたちには安易に想像できた。


「このおじいさんが悪なのですますか?」


 しかし、オトネは空気を読まずのんきな声でそう言った。


「お嬢さん、死にたくないのなら逃げたほうが良いよ」


 虎マスクの男がそう言った。


「え?」


 オトネの頭の中が真っ白になる。


「そうだよ、お姉さん。

 君も強いんだろうけどあの人の強さがわからない程度のつよさなのだから今すぐ逃げた方がいい」


 裕也もそう言った。


「星野新一さまと木村裕也さま?」


 オトネの頭が真っ白になる。

 それもそのはず、オトネの歳の女の子にファンが多い、大人気の勇者グループ、ですますスイッチのメンバーのうちふたりなのだから。


「え?まぁ、そうだけど」


 虎マスクの男、星野新一は一瞬が一歩下がる。


「ご主人さま!ですますスイッチの方々とお知り合いだったんですか?」


 オトネはフィサフィーの存在を無視してセロの方を見て目をキラキラと輝かせる。


「あ、ああ。

 そうだけど……」


 セロがゆっくりとフィサフィーの方を見る。

 フィサフィーが視界から消える。

 その瞬間、オトネとセロの間にフィサフィーが現れる。

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