第638話 赤い薔薇の花束を君に.9
「んー。なかなか戻って来ないですね」
神具を発動させたノノハラをナナハチが胡座をかきながら待っている。あまりにも戻りが遅いため隣で座っている本来の姿に戻ったコマに話し掛けたが、聞いていなかったのか、それともわざとなのか無視された。
コノンの能力によって作り出されていたゴーレムは既に大半が撃破され、更にコノンがノノハラの発動した神具の能力に掛かり、意識自体を強制的に深層心理の底へ連れて行かれた為にゴーレムの生成は停止していた。
もう両の手で数えられる程になったゴーレムはこうしている間にも次々に破壊されていった。
「多分あの子、本当なら物凄く強かったんでしょうが、心が無ければ宝の持ち腐れというものですよ」
といっても、自分が言えることではありませんがね、と心の中にナナハチは付け加えた。
背後に轟音。
振動と共に攻撃してくる気配がしたが、それはナナハチが張った結界に阻まれるよりも先に、飛来してきた何者かの攻撃によって体の半分が吹き飛ばされて崩壊した。
「アンタん所の相方は?」
すぐ近くにキリコが着地した。
後ろではついさっきキリコによって破壊されたゴーレムがマグマの中へと沈んでいっている。ナナハチはキリコを見ることなく、ノノハラの方向を指差した。
「あそこにいるんですけど、ちょーっと遅いですねぇ」
普通ならば数分後程で戻ってこれるはずだ。
なのに、もうすぐ10分は経とうとしているのにいっこうに戻ってこない。
深層心理に到達するのに掛かる時間はその人の心の損傷具合によって異なってくるが、あの女の子、本当に自我が壊れるほどに耐えていたのか。
これは連れ戻すのが難しい。
時間が掛かれば掛かるほどに過去を体験する。
酷い人は“体感”までする。
対象の心の痛み、体の痛み、それら全てを我が身の出来事として年月を過ごし、これならば仕方がないと諦めてしまう奴もいる。
ノノハラはどっちかはわからんが、少なくともこんなに時間が掛かるということは数年間は共に過ごしているはずだ。
頑固じゃなくては、心が揺れ動いてしまっていれば連れ戻せない。
「でも、もうそろそろですかね」
ナナハチは確信していた。絶対にノノハラはやるだろうと。
とんでもない頑固で、負けず嫌いで、努力家で。何よりもこの少女の事を想っていた。
伝わらないはずがない。
それに、うちの相方はやるときはやり遂げる奴なのだ。諦めるなんて選択肢など頭の中に存在しない。
「!」
横で主人の帰りを姿勢よく座っていたコマが突然立ち上がり、ワン!と鳴いた。次の瞬間、コノンの作り出していた巨体に無数のヒビが入り、崩壊した。
次々に落ちていく瓦礫の中、こちらへと向かってくる影があるのを確認すると、ナナハチはよっこらせと立ち上がり、すぐさまマーキングした印、ノノハラへ向けて防御魔法を飛ばした。
魔法はノノハラへと吸い寄せられるように飛んでいき、発動。
「これは、もしかしなくても早く逃げた方が良いかしら」
コノンの崩壊と共に激しく揺れ始めた地面、というより空間に何かを察したキリコが言う。
「ですね!」
ナナハチの目には、この空間内に溢れてきた魔力が見えていた。さっさと逃げなければこの空間ごと潰される。
「アウソ!!!逃げるわよ!!!道をつくって!大至急!!」
振り返れば既にそこにはキリコは居らず、遥か遠くへと駆けて仲間に指示を飛ばしていた。
本当、ハンター業の方々は行動が早くて助かる。
ベキンと空の一部が大きく凹んだ。
外側ではなく、内側に。空間の崩壊が始まった。
「ナナハチ!遅くなった!!」
「はいよ…、と」
戻ってきたノノハラの腕に抱かれていた人ではなくなっている少女に上着を掛けてやり、少しでも持つようにと空間内に固定の魔法を掛けた。
ギリスの魔法には至らないが、少しは持たせられるだろう。
「よーし!急ごう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます