第601話 第三の門番.18

未だに危機的状況ではあるのだが、心に余裕があるからか少し楽しい。ネコ酔い中のユイを除いて。


ネコが飛び、シラギクが鏡に穴を穿ち、アレックスがピエロの仮面や伸びてきた根を撃って撃退し、本気でヤバイと思った時にはオレの新技、瞬間移動を発動する。


五回、六回と瞬間移動を重ね、ようやくコツが掴めてきた。

まだ短時間での連続移動はできないが、もっと練習すればその内出来るようになるだろう。


『   ア“ァア"ア"ア"ーーーーッッ!!!!!  』


そしてピエロはとうとう言葉を失った。


色鮮やかだったピエロの服はくすんだ色をしたボロ切れへと化して、唯一原型を留めている仮面の剥き出しの目がひたすらにこちらを睨み付けて追ってきている。


きっと某ジブリの少女はこんな気分だったんだろうな。


こええよ。


── あれが本来のスイキョウの姿だ。まだ完全ではないが、な。


エルファラが楽しそうに説明をする。


鏡に閉じ込められたのは何も魔法だけじゃない。

姿を映したものの感情、主に嫉妬や欲望、妬みなどの様々な重い感情がヘドロとなって蓄積し、魔力で意思が、一人の哀れな男の体を依り代に“スイキョウ”を作り上げていた。


それが世代交代という名の乗り移り失敗で、ニックに能力の一部分が流れ、おまけにオレ達に魔力を根こそぎ奪われた為に、『スイキョウ』という自我が崩壊しかけているのだそうだ。


伸びてきた根を雷を纏わせた斎主で切断していく。


スイキョウは今、消滅したくないという本能だけで動いている。


その為、オレが奪った魔力と、ニックに流れた能力を取り戻さんとこちらに攻撃が集中していた。ある意味好都合だ。

攻略の要であるネコとシラギクが守られれば、あとはなんとかなる。


ネコの飛行スピードは最早人が耐えられない程となっており、ニックの結界がなければ呼吸もままならなかっただろう。ピエロが最後の力で閉じ込めようと複雑にされたこの鏡迷宮も、現在の反射するモノを通して全て“視る”ことの出来るようになったニックが意図も容易く攻略していき、繋がった尾を通して情報を共有し、ネコとシラギクが連携して壁を突破していく。


先回りしようと鏡から生えた根ごと粉砕する。


魔力を解放したシラギクは殆どの魔力を結界を斬るための刀、藤白刀とうばくとうへと回し、残りの魔力を色が濃くなった瞳へ流して、結界の魔力の綻びを見極めて斬り開いている。

だが、ニックの言う通り、負担がかかっているのだろう。


汗が玉となって吹き出て、激しく息切れを起こしていた。


少しでも助けになるならと魔力を回してあげたいが、オレの魔力を流してもシラギクの体は魔力を受け取る意識すら向けられないようだ。


「あと一つだ!!最後の罠が仕掛けてあるが…。ネコ!!更に速度を上げられるなら上げてくれ!!止まれば終わりだ!!頑張って飛び続けてくれ!!」


『オーケー!!しっかり掴まっててよ!!』


ドンッ!!!

ネコからソニックブームらしきものが発生し、最後の鏡へと飛び込んだ。


『ぐっうううううっ!!!これは、想定外いいい!!!』


やけに粘り気のある空間で、みるみるうちにネコは失速していく。


このままでは、と、魔力の手助けをするが、両腕に50キロの重りをぶら下げているのかってくらい翼が重たい。


「はっ!」


じわりじわりと視界が黒いシミが広がっていた。

なんだこれは。

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