第598話 第三の門番.15


「……ふーん。そんなこと出来るんだ」



エルファラの助言は目から鱗的なものだった。スイキョウ、ピエロの魔力はこの場に蓄積されている魔力を使っているのだという。

だから一見得体の知れない恐ろしい存在に見えるが、ピエロ自体の戦闘能力はそこまでではなく、厄介なのは物理攻撃を無効にする能力なのだという。


しかしその能力もキリコの使った蜘蛛の魔力で作られた魔法具には物理攻撃無効には適応されずに直撃し、おまけに無効にするにはピエロがソレを“視て、認識して”初めて発動するという限定的なものだ。


ソレ以外にもいくつか能力はあるのだが、例えば光を反射し鏡の役割をするものならば“それは己の目である”と現時点でありとあらゆる現象を視ることもできる。だけども、今警戒するのは物理攻撃無効のみ。それも魔法を武器に纏わせることによって、魔法だけ反射とかの攻撃も封じることができる。


それらを説明されたあと、エルファラはこう言った。




『 ここの魔力を全部吸い取ってみろ。アイツから逃げるのが簡単になるぞ 』と。




吸い取るなんてできるのかと訊ねれば、ネコを使えば出来るという。本当ならお前が直接の方が都合がいいが、ネコを介しても問題はないと。


そういえばこいつ、初期の頃はオレから魔力を枯渇寸前まで吸い取っていたんだという事を思い出した。なら、朝飯前って感じか。


そこまで考えて、思わず悪い笑みか浮かんだ。

吸い取る事でピエロは弱るし、オレとネコは消費した魔力の補充が出来る。一石二鳥だ。やってやろうじゃないか。


「ネコ!!エルファラの話は聞いてただろ?やっちまえ!!」


『よっしゃ!!最後の一滴までスッカスカにしてやるぞー!!』


未だに圧倒的に不利な状況にも関わらず士気を持ち直したオレとネコの様子にピエロと皆が怪訝な顔をした。ピエロは特に『ついに頭が絶望で可笑しくなったか』と言わんばかりだが、そんな顔をしていられるのも今のうちだ!


オレの合図でネコの尾が複数地面へと突き刺さる。


「…きた…!」


途端にネコを通じて凄まじい量の質の良い魔力が流れ込んできた。

流石はネコの吸引力。あの頃より衰えるどころかパワーアップしているではないか。


「………なんか、地面揺れてない??」


ウコヨが怯えたように言う。すると突如、ベゴンッ!!!と近くの地面が大きくへこみ、そこへバランスを崩した影人形が転がり落ちていく。


「ひぃっ!!?」

「なになになに!!???」


怯える双子を他所に皆の視線が一斉にこちらへと向けられたのを感じる。お前何してんの?って視線だ。やめて恥ずかしいから見ないで。


そこでようやくピエロがオレのしている事に気付いて慌て出した。


『何しちゃってんの!!!?お前!!!やめろよ!!やめんか!!!』


慌ててオレを止めようとしてピエロが影人形を操り一斉に襲い掛かってきた。が、それらはすぐに目の前で大量の魔法が炸裂して消滅させられていた。


「何やってんのか分かんないけど!!要するにそれが終わるまで守っておけば良いのかい!?やるなら徹底的にしてくれよ!!」


「私達の命を貴方に預けます!!手伝える事があればどんどん言ってください!!」


「弱体化しか出来ないけど、手伝うからね!」

「手伝うよ!」


「此処では俺の魔法は効果が薄いが…、とにかくできるだけ頑張ってみてくれ!!」


「右に同じさ!!」


「何もできなくてごめん」


さらっとキリコの謝罪が入ってて吃驚したが、双子含め頑張って足止めしてくれている。ならばオレも頑張らねば。

ネコから流れてくる魔力に上書きするように干渉し、吸引を強めた。ネコに出来るのならば、オレにも出来るはずだ!


『!!!?』


ぐんっと魔力の流れが突然加速してネコが一瞬驚いたが、オレの仕業だと分かるや同調を開始した。

体の隅々にまで魔力が浸透していく。

力が溢れてくる。


これは、いいな。癖になりそうだ。


ゴンゴンと音を立ててあちこちが陥没していく。上からは何かの破片がバラバラと落ちてきていて、柱も崩れて降ってきては床に突き刺さって折れた。黄金色に輝いていた箇所は灰色にくすみ、揺れは激しさを増していく。

その頃になるとピエロも本気で危機を感じたのか、何かの強力な魔法を放とうとしている気配を感じた。


「………そろそろか」


指の先まで魔力で満たされる感覚は初めてだ。

これなら、いけるかもしれない。


「シラギクさん!!お願いします!!」


「! はい!!」


『逃がすかああああーーーーッッ!!!!!』


ピエロから魔力が解き放たれる。

それとほぼ同時にネコが尾を回収し、翼を大きく広げた。次の瞬間、ドン、と、まるで打ち上げ花火のようにオレ達はシラギクの結界に天高く打ち上げられた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る