第588話 第三の門番.5
ドシャーと床に転がった。
「あたたた…。少し目が回った…」
額を押さえながらヨロヨロと立ち上がるユイ。どうやらノルベルト同様酔いやすいらしい。
「ネコありがとう」
『うにゃー…、流石のネコも8人抱えて飛ぶのはしんどいよぉ…』
「魔力補填する?」
『するー!!』
魔力繋げて補填しているが、その間ネコの状態が自分の事のように分かる。そう、例えば。
こいつ、疲れた良いながら、まだ少し余裕があった事くらいは。
「にしてもなんだここ」
円形の広場だった。壁は相変わらず鏡張りで、きちんと写っているメンバーとそうでないのがいる。違いが分からない。
「?」
ほんの一瞬、瞬き程の間に鏡の中にピエロの影を見た気がした。
目を擦る。気のせいか?
「扉だ」
アレックスが指差した。
「扉だぞ!」
扉があった。おかしい、さっき見たときには無かった筈だ。
しかし、その扉は入ってきたのと同様な模様が彫られており、第二の門番の時と同じであるならば、アレが出口。
(……本当か?)
だが、疑いが先に立った。
本当に本物か?
『本当に本物だよーーん』
ビヨーン。まさにそんな効果音が相応しい動きで、ピエロが盛大に伸びながら鏡のなかに写り込んだ。それがバネのように伸び縮みしながら回転し、扉のすぐ近くの鏡て静止する。
パッと見はよくあるピエロの着ぐるみなのだが、動きは骨のないぐにゃぐにゃのゴム人形のように変幻自在。スライムのような変態できる魔物がいるから今さらそんなことで過剰に驚きはしないのだが。
しかし、何故だろうか?
オレはその人形に異様な不気味さを感じていた。
そう、例えば、死んだ筈の動物の遺体が勝手に動いているような。
そこまで考えた時、ピエロの顔が突然こちらを向き、これでもかと言うくらいに顔を歪めて笑顔を作った。
『カンが良い、カンが良いカンが良いカンが良い…!!!』
ゲラゲラとピエロは腹を抱えて大笑いをする。
そして、突然止まると、一歩前へと足を出した。
ズニュウと音を立てて、平面的だったピエロの足が立体的に変わる。地面に影がつく。
鏡の中からゆっくりとピエロが潜り出てきた。
何処からともなく音楽が流れてきてピエロが楽しげに踊り始めた。
『じゃあ、サービスしちゃおう!大出血サービス!
あの扉は本物だよ!だけどだけどもだけだけどもよ!
オイラはずっとヒマだった、そこへやって来たお客さん!
たくさんたくさんオモテナシ!!
そんなオイラは無報酬!お褒めの言葉は結局無価値!
だからオイラは考えた!
客から巻き上げれば良いじゃんと!!』
音楽の変調が変わる。
楽しげだった音に、不協和音が加わっていく。
『オイラの体はボロボロで、結構古くさくなってきた。
そこで見付けたおニューの
ピエロの手が己の顔に伸び、指先が仮面の隙間に差し込まれた。
そして。
──ガパリ。
嫌に粘着質な音を立てて、仮面が外された。
「!!!!???」
仮面の下は、腐りきった肉がこびりついた頭蓋骨だった。
仮面が歌う。
『そろそろ取り替えてみても、いいんでなーい??』
ぞろりぞろりと床が壁際から黒く染まっていく。
「おい、見ろ、あれ…」
アウソの震えが混じる声。
「………まじか…」
鏡の向こう側。姿がしっかりと見えるメンバーがゆらりと立ち上がり、深い影を纏いながらこちらへと歩いてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます