第565話 第一の門番.4
何回かアウソとユイに水を浴びせられ、症状が落ち着いてきた頃に、もしかしてとキリコが口を開いた。
「あれ、ドライアドかもしれないわ」
「ドライアド?」
ヤテベオと同じく生きる植物の一種。ドライアド。
基本は人の形で、雄花と雌花が自立して日光や水を求めて動くが、繁殖期に人の形を見付けると襲い掛かる習性があるらしい。
「…ジャガーの形じゃなかった?」
どう見ても人の形ではなかったが。
「もしかしたら向こうのドライアド?なのかも」
「じゃああれ花粉か…」
酷い目に合った。
花粉症にはなったことないが、友達が春先の大惨事を見ていつも同情していた。
「とにかくあんたは剣を控えて、凍らせなさい」
「へい」
キリコに釘を刺された。
剣が駄目か。打撃、…なんだったら纏威のパンチでもいけそうだな。
いや、むしろ鞘でぶん殴れば良い話じゃないか?と、考えを巡らせていると。
「…流石に気付かれたか」
と、ニックが溜め息混じりに言う。
遠くでまたしても遠吠えが聞こえる。
「ネコ、なんて言ってるか分かる?」
『………………………、…うーーん、びみょー…』
たっぷりの間を開けて、曖昧な返答。
ただ、お互い遠吠えで何やら確認しているようにも聞こえる。
あの後、ニックとシラギクによる共同迷路(結界と光の反射による迷路)で錯乱させていたのだが、効果が切れてきている。
まだまだ先は長いのだ。余計な魔力は使いたくない。
「ねえ」
そこへ、ビギンが木から飛び降り、音もなく着地した。
「どうだった?」
ビギンが首を振った。
「やっぱり嵌められてるヨ。あの廊下で見えた塔、ちっとも位置も大きさも変わってない」
「うーーん」
「やっぱり簡単にはいかねーよな」
このまま塔へと向かっても恐らく辿り着けないのだろう。成る程、悪魔の言ってる閉じ込めるための罠は伊達じゃないって所か。
「……所で、なんで真っ先にライハを狙ったんだ?」
「…、さぁ?」
何でだろう?
服を見ればまだくっついてる。
繊維に入り込んでいるらしく、水を掛けただけじゃ取れ切れていない。
「そう言えば、ヤテベオの仲間で常に移動している個体を辿るために臭いを付ける奴がいたわね」
突然のキリコの豆知識。
皆がオレを見る。
正確にはオレの服を、だ。
「…やってみる価値はあるかな」
クスジュは空気中に漂う臭いを嗅いで首を傾げた。
臭いが長時間同じところから動かない。
先程は何故かジャトゥラントが混乱していたが、臭いがある限りはいずれ辿り着く。
水を被ったのだろう。薄くはなってるが、人間は服を着ている。あれは水を被った程度では落ちはしない。そして、
塔を見る。
アレは容易には辿り着けない。
思わず笑みがこぼれる。上手くやれば誉めてもらえるだろうか。
『!』
ジャトゥラントが呼んでいる。獲物を見付けたと言っているが、様子がおかしい。
背中の翼を広げ、そちらへと向かう。
嫌な予感がする。
『どうした? …!?』
ジャトゥラントが群がる木。
数匹が木とクスジュを交互に見比べている。
木の枝に引っ掛けられているのは服であった。
それを手に取り、地面へと叩き付ける。
やられた。
『作戦変更だ!!! ニンゲンどもを見つけ次第ワタシに教えろ!!!自ら八つ裂きにしてやるわ!!!』
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