第526話 総力戦、開始.12

残った欠片はまだ落下を続けるが、それはアレックスの攻撃によって粉々に砕け散った。

降り注ぐ土塊を払いながら、攻撃が飛んできた方向を見た。

今のは魔法ではない。


ならば物理攻撃か?

それも違う。


だが見覚えのあるこの攻撃に一瞬固まった。


契約とかで動けないはずでは?


遥か空の果て、押し寄せてくる精霊の光の群れの中に彼はいた。


「ザラキさん!?」


『ほわぁー、あれみんな精霊??こんだけいると怖いね』


「…いや、さりげなく龍も混ざってるっぽい」


相変わらず鳥と魚が混ざったみたいな面白い体をしているが。しかも前に見たのもいる。同じ種族か?


「……………、マジか。奴が来たのか……」


「?」


ニックが驚愕と困惑を混ぜた複雑な顔で言う。

知り合いですか?


「ライハ!!お前の師匠が悪魔と消えてるぞ!!」


「は!?」


レーニォが叫んでいる。

消えた!?どう言うことだと振り替えると、サラドラの炎が忽然と消えていた。カリアとサラドラの姿も何処にもない。


『キリコは?』


ネコに言われて気付いた。キリコも居ない。

最後に見たのはコノンが降ってくる時に、分断している炎へと突っ込んでいくキリコの後ろ姿。


『あぁあああぁぁあぁあーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!』


狂ったような絶叫が上がる。

ザラキの攻撃によって殆ど裸の状態で地面に叩き付けられたコノンは、自分の頭を鷲掴み、髪を振り回す。


そして、ブチブチと不穏な音がコノンから鳴り始め、突然、ゴキンと、何かが折れる音。


『…………あ…』


腕がダランと垂れ、目が虚ろになった。


「……コノン?」


様子がおかしい。いや、元々もう正気では無かったけれど。


ブクブクとコノンの腕や脚から黒い泡が立ち、体を覆っていく。その泡が地面へと染み込んでいく。コノンから小さな言葉が紡がれているが、あまりにも小さすぎて聞こえない。

だけども、目からは涙が溢れてきている。


『……ごめんなさい……もう……言うこと聞くから………何も傷付けないから………おかーさん………いかないで……』


視線がこちらを向く。

怯えた瞳。それは初めてコノンと出会った時と同じ瞳だった。


手をこちらに伸ばす。すると地面が激しく揺れ、地面のひび割れが激しくなる。地面から見たこともないほどの黒い魔力が溢れだし、視界を曇らせる。


ひび割れが広がり、腕が突き出された。それが地面の位置を確かめると、ずるりと胴体が這い出てきた。ぬるりとした液体が光を反射している。

例えるならば、エイリアンじみた化け物だ。

胴体に付いているモノの数がおかしい上に、歪みまくっている。


それが何体も何体も何体も。


かと思えば土の巨大なゴーレムが小さいのを押し退け踏みつけて現れる。


「やば!!」


あっという間に敵に囲まれてしまった。


「うわぁあーーー!!!!」


軍が撤退したところからも悲鳴が上がる。

ゴーレムが軍が居るところにも現れていた。突き出す腕。だが、その大きさはコノンの作った蛇女よりも大きい。もっと言えば、エルトゥフの森でクアブの操っていたゴーレムに匹敵していた。


ゾッとする。


出ている腕はまだ前腕だけ。それなのにあの大きさなのだ。


巨大なゴーレムだけでもコノンの蛇女近くはあるのに。


というか。


「これ、地下道、大丈夫か?」


潰されてないか?

大丈夫だと思いたいが、ニックも顔色が悪い。

耐えられているとしても、こんな大きさのが何体も乗っかれば耐えられるとは思えない。


カリア達も心配だけど、まずは此処を何とかしなければ。


──おい、ちょっといいか?


突然エルファラが訊ねてきた。


なんだ?


──あの女、知り合いか?


示しているのはコノンだ。

体から吹き出る泡は量を増し、最早コノンが泡を出してるのか、泡がコノンを捕らえているのか分からなくなっていた。


──あいつこのままだと死ぬぞ。お前本当は殺したくないんだろ?攻撃だって出来るだけ動きを封じ込めようとしていたし。


「……」


無意識だった。

だけど、そうなのかもしれない。

コノンはある意味被害者だ。出来ることならば、解放したい。


──あの泡あるだろ?あいつが勝手に女の魔力吸い取って次々に手下を産み出している。いくら手下を倒しても、あの女が死ぬまで作られる。


あいつって、もしかしてアレも魔物の類いなのか?


── 一応な。だから助けたいのなら、強制的にアレを引き剥がすか、洗脳みたいな魔法を解かないと。もう魔力が半分程しかない。急いだ方がいいよ。


助けられるのなら、助けたい。


「ネコ行くぞ!!」


剣を構え、コノンへと向かった。


あの泡に物理が効くのか分からない。分からないが、効かなかったとしても反転の呪いの手がまだある。


動きの鈍い手下を切り伏せながら進んでいく。切ればすぐに泥のように崩れる。弱い。弱いが、なんだこの匂い。


『ううー、気持ち悪い』


ネコも極力触りたくないのか、尻尾で対応している。

本当に弱くて肩透かしにあってる気分だが、ゴーレムを避ければすぐにコノンの元へと辿り着ける。


コノンまであと少し。


「!」


視界の端に映った異物に飛び退いた瞬間、今まで居た地面に凶器が突き刺さり、手下を潰しつつ地面を抉った。

棘突きの鉄球。モーニングスターだ。


『悪いが、お前は此処で足止めさせてもらう』


モーニングスターが飛んできた方向に、スレンダーな美少女が居た。灰色の肌に先だけ尖った耳。そして悪魔の角が額から伸びている。


しかし、何の種族だ?


いつもならエルファラの知識に引っ掛かってなんの種族なのか分かるが、今回ばかりは本気で分からない。


『ゴブリンの長、メノウが相手だ』


モーニングスターが手に持っている杖に巻き上げられ、軽々と肩に担いだ。

これは、見た目に騙されないようにしないと。



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