第525話 総力戦、開始.11

明者アケーシャ

古のモノと契約を結ぶ者。海の守護者と契りを交わすもの。

海人とは遥か昔に分岐したが、未だに契約を守り続けるその者らは、海に愛されている幸福の民だ。


「親愛なる海の王よ、力を貸したまえ」


されど、海に愛されているからこそ、その身は、魂は、産まれたときより契約に縛られ自由ではない。

ならば不自由な不幸な民か?




“別つ壁”の向こうから、大きな生き物が海の塊ごと、とぐろを巻いて落ちてくる。同じ海を操るモノだが、こちらの海とは違い、とても冷たく刺すような感覚を纏った海だ。

槍を握り締める。




いいや、どんな境遇であれ、それが“幸福”か“不幸”かは、己が決めるものだ。





アウソは迫るモノの気配に歯軋りした。

これは、アウソがよく知るモノと同じ存在だ。なら、対抗するならばこれしかない。


王より与えられた加護に感謝する。

人の身には堪える力だが、俺が望んで手に入れた物だ。


子供の頃、言われた事が現実になるとは思いもしなかったが。成る程。こんな風に力になれるのなら、運命を受け入れた事は、それほど不幸では無かったのだと思えた。

むしろ、幸福か。



槍に付けられた水神の玉が揺れる。

縁は結い、廻る。


「アケーシャの名の元に、海を繋ぎたまえ!!」


槍が膨張し、形を変えた。

形状は銛へ、青い色は更に濃く、削り出されたときの骨の白は金色に。


ガエ・アイフェ。


かつての海の王の骨から作られた槍で、その骨の記憶を使って海を繋げることが出来る。

玉が発光し、辺りが水に包まれた。


パチパチと耳元で泡の弾ける音がする。


『呼び掛けに応えて来たぞ』


「!!!?」


てっきり、幹部の誰かが来るのだろうと思っていた。

だが、来たのは予想外の人物だった。

石膏で出来た彫刻のような、何処までも白く、美しい容姿。海の色に染められ、揺らめくシルクのような髪。

頭には朱珊瑚の王冠。

女だ。だが、その下半身は鱗の無い魚で。それすらも芸術品のように美しい。


大きい手が、アウソの体に添えられる。


「海の王」


『なんだか懐かしい気配がしたから、来たんだ』


くるりと、海の王が振り替えると、互いの海の境界がぶつかり、あちらにいるモノと目があった。

凶悪なウツボに似たモノだった。顔の部分がフェイスマスクのように上に上げられ、そこから男の顔が覗く。


『誰かと思えば、リヴァイアサン族の長、ポセイドーンだね。相変わらずトゲトゲしているのか』


『今はクスラ・クススだ。エノシガイオス。こんなところにいたのか。こんなところに隠れ住んで、恥ずかしくはないのか?』


クスラが水から浮かび上がった 三叉の槍を取り出し構える。

アウソは驚いた。色が違うが、それは海の王と同じ武器だったから。


『恥ずかしい?何を言っているのやら』


エノシガイオスはアウソを肩に乗せ、掌に同じく水から生成された武器が現れ、握られる。

トリアイナ。

海を割る力を持つ武器だった。


『先を見据えて縄張りを変えただけの事。ポセイドーン、いや、クスラ。今こそどちらが本物の王かの決着を付けようではないか。アウソよ、援護を頼んだぞ』














途方もなく大きな水球が2つぶつかり轟音を立てた。

それと同時に、城の方でも爆発が起こったかのような音を立てて、結界の一部が破裂した。


『糞があ!!!』


フォルテが吠え、竜に向かって飛んで行く。

その手には棘。


飛んでくるフォルテを迎え撃つように、タンキングで火を吹こうと口を開けた瞬間、フォルテはその口の中に棘を投げた。


飛び出す炎に巻かれた棘は、勢いを殺されつつも口の中に到達し、次の瞬間。


『……か……』


竜の頭が口から生えた無数の棘によって貫かれていた。


『グルーザ!!!』


落下していく竜。


『前回のように行くと思うな!!』


フォルテは次々に竜へと襲い掛かっていく。

下顎の付け根、開けた口の中と、鱗の無い所を狙って。


コノンが範囲を広げて攻撃をしたから、防衛軍が体制を建て直すために一時撤退をしていて良かった。

出なければとんでもない被害になっていただろう。


空を見渡して、いるはずのあいつを探す。


いない。何処にいった?

アウソが一対一で対応させられているうちは、あいつの能力は驚異だ。


『お前のせいだぁあー!!!お前があん時アイツを庇わなければ、こんなに大変にならなかったんだ!!』


「!」


聞こえた声に振り替えると、サラドラがなんとカリアに襲い掛かっていた。

何故だ!?


すぐさま向かおうとしたとき、サラドラがこちらに気付いて炎の壁を生成した。その壁は高く聳え、見事にカリアとこちらを分断した。


カリアに火は弱点だ。

しかも火に強いキリコは此処にいる。


「師匠!!」


キリコが炎の壁に向かって走る。だが。


「止めろ!!“落ちてくる”ぞ!!!」


ニックが叫んでいる。その頭上に結界を生成している最中なのを見て、見上げると、支えになっていた氷がサラドラの炎で溶けて、コノンの作り出した蛇女が倒れてきている最中だった。


いや。


『潰れろ!!焼かれろ!!』


周りの土が盛り上がり、壁を作って逃げられないようにしていた。

慌てて雷を放って穴を開けてもすぐに塞がる。


蛇女をよく見て、逃げ回っていたコノンが戻ってきて、蛇女をチャンスとばかりに倒したのだ。現に、蛇女の地面に当たる部分に棘が生えてきている。


このままではサラドラの炎ごと蓋をされて、焼かれる。


オレの氷は、氷自体を作り出せない。不味い!


ニックの結界が重みで破られていく。

スイとナリータのエネケイスも炎で脆く崩れた。


アレックスの銃で開けられた穴も瞬く間に塞がり、たまたま目が合ったノルベルトがこちらに向かって手でバツを作り、高速で『あれは無理』と首を振っている。


せめて逃げ道をと、ネコに魔力を送り込んで壁を広範囲で破壊して貰おうと思った瞬間、突然コノンの上半身がまるまる吹き飛んだ。



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