第520話 総力戦、開始.6

風が叩き付けてくる。その風すらもネコの翼が推進力へと変え、どんどん速度を上げていく。

サラドラがこちらに気付いたが、もう遅い。


『は?』


目を丸くするサラドラ。その首に向かって剣を振りかぶった。


『ライハ!!』


「!」


振っている途中で方向を変えて防御に変更すると、黒い棒状の物が首付近に設置した剣に弾かれて軌道を変えた。飛び散る火花。


『ちっ』


フォルテが舌打ちをする。

それをしたいのはこちらだ。


『なんだ。生きてたのか。先の“事故”で自殺でもしてくれればと思っていたんだが』


ニヤニヤと笑うフォルテ。事故と言ったのか、こいつ。


「生きてましたよ。その“事故”の原因を駆除しないと死ねないと思いましたからね。


だから、大人しく駆除されてください」


吐いた言葉が冷たい。

感情が消えたかのような淡々としたものだったのに、それがフォルテには効いたらしい。ニヤニヤとした嫌な表情が消え、変わりに面白いおもちゃを見付けた猛獣の表情へと変わった。


『……、ほう。これは楽しめそうだ、なぁあ!!!』


人型からグリフォンへと姿を変え、爪を振り下ろしてくる。

剣で受け止めず弾けば、鋭く伸びた爪の長さが変わり、先にいくにつれて、細かい切れ込みが返しのようになっていた。

あの爪は、ネコに打ち込まれたものと同じもの。受けてしまえば、受けた衝撃で更に伸びて刺さるのだろう。


それにしても、オレの斎主で斬れずに弾かれるだけか。


二度、三度、と襲い来る攻撃を弾きながら観察する。

魔力の膜と、鱗の二段階に渡り、防御しているのが分かる。これをどうやって抜けるか。隠している能力もまだありそうだ。


『無視するなぁ!!』


フォルテの攻撃に集中していると、激怒したサラドラが炎を纏って突っ込んでくる。ネコが即座に急上昇し、攻撃を回避。空中で宙返りしている最中、地上にとんでもない物を見付けた。


レーニォが、巨大な氷柱を担ぎ、どう見てもこちらに投げてこようとしている。

どっから持ってきたのその氷柱。そして、何をしようとしているんだ!?


レーニォが強く地面を踏み締め、なんと氷柱を本当に投げてきた。

カリア並みの力じゃなければこんな速度はでない、というかこの高度まで届きもしないだろうに、レーニォの投げた氷柱は真っ直ぐ飛翔し、なんとサラドラの胴体を貫通した。


『ぎゃああーーー!!!』


完全に意識がこちらを向いていたからだろう。不意打ちからか防御することもなく貫通した氷柱は、サラドラの炎で焼かれて水を滴らせ、蒸発する度にサラドラが悲鳴を上げた。


墜落していくサラドラを思わず目で追っていれば、フォルテが再び人型へと姿を変化させ、刺を剣のように攻撃をして来る。

ただ、グリフォンの姿も残っており腕の鱗を盾にして猛攻を仕掛けてくる。


一撃一撃がとても重い。


並みの剣ならば一撃毎に叩き折られているであろう衝撃が、ビリビリと腕に伝わってくる。その衝撃は恐らくネコにも響いているだろうに、目はひたすらフォルテと周囲の状況を警戒し、オレを安定して空中に留めてくれている。


『ははっ!やるじゃないか!!戦い甲斐がある。こんなことなら、あの時人間どもをサラドラに譲ってやれば良かったかな!』


「……次その臭い口を開いてみろ。二度と閉じられないように上顎と下顎を綺麗に分けて斬ってやる」


『出来るものならな、やってみろ!!小僧!!』



ドンッ!と、地面の方で爆発みたいなものが起きた。


金切り声が響き渡り、それに混じって狂ったような狂気の言葉が幾度も幾度も繰り返される。サラドラが、胴体を貫通した氷柱を溶かし尽くし、憎悪の気配を振り撒いていた。


『焼き付くす、消えろ、消し炭になれ。地面を這うことしかできない虫め。ふざけんな。赦さない』


サラドラの周りに数多の火の玉が形成され、それが一気にレーニォの元へと降り注いだ。だが、それらはニックの結界に阻まれ無効化され、サラドラは狂ったような声を上げた。


「サラドラさん!待って、コイツらは私が倒すの!』


疲弊したコノンが怒り狂ったサラドラへと言う。コノンは血の涙を流したのか、赤く汚れた頬を拭い、徐々に蛇女を修復していっている。だが、幾度となく砕かれた腕と、凍り付いた胴体部分に手間取っている。そんなコノンにサラドラは怒鳴り付けた。


『そもそも、あんたがもたついているから悪いんでしょう!!?いいからあんたは黙ってろよ!!!!半人前の出来損ないが!!!!』


サラドラの魔力が膨張していく。これは、まさか。


白い太陽。そう体現するのが相応しい。大きな白い火の玉。

それは共に戦った同士を焼いた火だ。地面を溶かし、人も魔物も関係なく白い灰に変えた火だ。


ニックがいるが、大丈夫か?


『余所見とは随分余裕だな!?』


刺が弾いた瞬間グニャリと形を変え、肩の服を切り裂いた。

あぶねぇ!!

なんだそれは反則だろう!!


『灰に還れ!!!』


サラドラの手から白い太陽が落下していく。

白い太陽はどんどん広がっていき、キラキラとした輝きが、まるで天気雨のように地上へと向けて落ちていく。


地獄の火の雨。


だが。


「俺の出番さ!!」


アウソの声がした瞬間、地上に海が出現した。


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