第492話 裏の者.15

「帰ってきたか……」


ぼそりとした誰かの声で振り返る。


「うわあああっ!!!?なんじゃこれ!!?」


そこは、見るも無残に抉れた大地が広がっていた。それだけではない。場所によっては凍り付き、焼き爛れ、出来たクレーターには水が溜まり、あちらこちらに皆が力尽きていた。


すぐ近くにいたアウソが、横になりつつこちらに手を振る。起き上がる気は無いらしい。


そのなかで、杖に全体重を預けて何とか起き上がっているニックが、こっちをみて、ホッと安堵の息を吐き、倒れた。


そんななかで、まだ立ち上がる体力のあったノルベルトが死んだ目をしてやって来た。


そして、肩を叩く。


「…今日ほど、お前が敵じゃなくて良かったと思った……」


「何があったんすか」


「詳しくは、ネコに……、ガクッ」


「ノルベルトさーーーん!!!」



















『かくかくしかじかで…』


「省かないでわからない」


『えーとね』


そこから比較的無事なネコが状況を説明してくれた。


何でも、オレが行った後に影法師が出現して襲い掛かってきたらしい。影法師は呑まれた人間の能力を可能な限りコピーして、それを制限することなく攻撃に回してきたらしい。


詳しいことは分からないが、ニックが、解呪されまいと余波として、呪いを解く為に制御役として連れてこられた助手の魔術師を倒すための罠なんだとか。


勿論コピーするといっても限度があり、魔法なんかは使えなくなる (そのお陰で余波といっても魔法無しの魔術師なんかは日頃の鬱憤晴らしでボコ殴りでチョロい) のだが、オレの場合、魔法無しでも十分に戦闘能力特化されているので、危うく全滅しかけたとのこと。


それでも何とか出来たのは、何故かニックに集中攻撃してたから。


『なんか恨みでもあった?』


「……いや、ははは」


恨みではないが、実はいつかやり返してやりたいとか思ってたりなかったり……。


ネコは攻撃に参加できず、攻撃しようとしても途中で急ブレーキが掛かるため補佐に徹することしか出来なかった。しかし、それは向こうも同じのようで、危ないと思った時に割り込んで邪魔をすることで、活躍していたんだそうな。


今は皆疲れて爆睡中。オレが飲まれてから五時間戦い通しで、オレが幻覚を破った位に弱体化したので一気に畳み掛け、消滅と同時に戻ってきたらしい。


『剣が新しくなってる。良い匂い』


「名前も付いたんだよ」


『へえ!何なに?』


「後で教える。その前に皆を治療しないと」


大量に魔方陣札を取り出し、慣れた手付きで治療を開始する。治療をしながら、呪いに呑まれたときに過ごしたあちらを思い出していた。


今でもあちらが懐かしいとは思う。


ここの生活が大変だとも感じる。


でも、オレは、此処での生活が好きだ。




「……後悔なんかしない…」


『ん?なんか言った?』


「ネコに会えて良かったなぁー、って」


『えへへ、照れる。ネコもだよ!!』




生と死の狭間でもがきながら、かけがえのない宝物を手に入れている。取り零すこともある。死にたくなるときもある。だけど、だからこそ、今ある命を大切に思えるんだ。



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