第478話 裏の者.1
灰馬もいなくなってしまって、どうしようかと思っていたのだが、心配は無用だった。
「………まじか、おい、まじか」
ブヒヒヒン、と控え目に啼く青毛の駿馬がそこにいた。
お前、胴体剣貫通してなかった?
炎の中に飛び込んできたじゃん。なんなの?不死身なの?
隣のネコですら吃驚しすぎて『パネェ…』と小さく呟いている。
生きてたんかい、お前。
「あんた運ぼうとしてたら、黒い塊が立ち上がって襲い掛かってこようとしてたコイツを、アウソが気付いて保護したんよ。とんでもない生命力ね」
「アウソが止めなかったら危うく止め指してたわ」
「いやぁ、ギリギリだった」
といっても、全身大火傷に重傷だったので、すぐさま軍医と魔術師に説明したら、最善を尽くしてくれて無事復活したらしい。魔術師曰く、灰馬が身に付けてた馬具がこれじゃなかったら、助かってなかっただろう、と。
どうやら周りの環境に合わせて魔術保護の魔方陣を試験的に搭載していて、剣貫通は防げなかったが、炎の熱を緩和してくれていたとのこと。
本来なら全身保護だったが、貫通した魔剣で馬具の範囲にまで威力が落ちてたのだが、内蔵や、目の回り、脚周りがダメージ小だったから何とかなった。
らしい。
「ありがとな」
生きててくれて。そういう意味を込めて鼻先を撫でれば、撫でてた手を噛まれて、歯でゴリゴリされた。
ははは、こいつめ。
「あとは剣の回収ね。本当はここに来るときに回収したかったんだけど、ヤバそうだったから回収できなかったのよね」
「ヤバそう?」
手を齧られながら首を傾ければ、アウソが手をワサワサ動かしながら説明を始めた。
「なんか、見るからにヤバい気配するから怖くて放置するしかできなくて。多分放置してても誰も近付かんから後でいいかなーって思ったばーて。カリアさんでさえ遠慮するほどだった」
「それはやべーな」
『こっちもパネェ』
カリアが遠慮はやべえ。
そんなことをアウソと話していると、カリアが「失礼な」と言いたそうな顔でこちらを見ていた。
「不本意だからな!!」
「わかってます」
本来なら妻や子供しか乗せないのだからなとグレイダンに念押しで何度も言われ、耳にタコが出来るんじゃないかと愚痴られた後に背中に乗せて貰った。
急あしらえで、余った馬具を装着して背中に乗ったのだが、屋根や壁を取り払った小型飛行機に乗っているような気分になった。
飛鳥馬に乗せて持ったことはあるが、あれはまだ生き物に乗っている感覚があったが、グレイダンは大きすぎてその感覚が薄い。
そう言えば、カリアが。
「こっちは死んでも飛鳥馬に乗るもんかと思ったよ」
と言った。ルキオで戦闘中の飛鳥馬のアクロバティック飛行を見すぎて、さすがにあれは無理と思ったらしい。
鱗は金属みたいに冷たいと思ったが、プラスチックほどのひんやり感で、しかもその少し上を暖かい熱の層が覆っていた。
貴重な体験だ。
「しかし竜って凄いですね、飛ぶだけで魔力使いまくりじゃないですか」
魔力の流れを見るだけで、魔力と風の帯が一体になって、グレイダンの体の表面を縦横無尽に走っている。もはやどの帯がどんなことに使われているのかも良く分からない。
『我らにとっては呼吸よりも容易いがな!』
どうだ、凄かろうと、グレイダンが笑いながら言うので誉めまくってやれば、気を良くしたのか飛ぶときのコツや風の帯の使い方なんかを教えてくれた。使う機会があるのかはさておき、ネコもふんふんと興味津々に熱心に聞いていた。
一方カリア達はというと。
「このクッキー、胡桃入ってるよ。美味い」
「最近肉が規制されてるから面白い菓子が増えていってるわね」
「あと固さも増してる。その内歯ぁ折れんか?これ」
聞き飽きた話だったのか、お菓子を食べていた。
そろそろだ。と、グレイダンが進路を変えていくと、背筋にゾワリとしたものが走った。下を見ると、白い荒野に、ポツンと黒色のものが突き立っていた。
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